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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2012.11.12]

サンフランシスコ・バレエ8年ぶりのロンドン公演にサドラーズ・ウエルズが沸いた

Sadler's Wells Theatre サドラーズ・ウエルズ劇場
San Francisco Ballet Three Mixed Bills
サンフランシスコ・バレエ スリー・ミックス・ビル

9月14日〜23日までサドラーズ・ウェルズ劇場にて、サンフランシスコ・バレエ(SFB)の8年ぶりのロンドン公演が行われた。ロンドンのバレエ関係者やダンス・ファンは、3プログラム10作品を持っての米国の大バレエ団とスター・ダンサーの再訪に沸き、ロンドンの2012・13新ダンス・シーズンは華やかにその幕を開けた。
サンフランシスコ・バレエ創設1933年、アメリカで最も長い歴史を誇るバレエ団である。団員数は5人の研修生を含め総勢77名。1985年以来、バレエ団を率いているのは、元 NYCBのプリンシパルで振付家でもあるヘルギ・トマソン
公演が行われたサドラーズ・ウェルズ劇場はマシュー・ボーンやシルヴィ・ギエム、ラッセル・マリファント、クリストファー・ウィールドンら綺羅星のような振付家やダンサーをアソシエート・アーティストに持つダンス・ハウスだ。劇場芸術監督のアリステア・スポールディングが現代作品の紹介にたいへん力を注いでいるため、今回のSFB公演では10作品中、9作品が英国初演、SFBの本拠地でも2010年から今年にかけて世界初演された新作の数々。また10作品中、1作品がアシュレー・ペイジ、3作品はクリストファー・ウィールドンというロイヤル・バレエ出身のイギリス人振付家の作品であった。

london1211a01.jpg photo/Erick Tomasson

A、B、Cプログラムを鑑賞する。
初日14日ロンドン公演オープニングを飾ったのは、バランシン1956年振付作品『ディベルティメントNo.15』。幕が上がると共に、明るい照明に彩られ、小粋な衣装を着たダンサーたちが舞台に勢揃いする。バレエ団のスター・ダンサーから新星を紹介する顔見世作品として最適な小品だ。
小柄な中国系カナダ人バレリーナのフランシス・チャン、アルメニア人で99年のローザンヌ・コンクール研修賞受賞後チューリッヒ・バレエに入団、04年にSFBに移籍したダヴィッド・カラペティアン、スペイン人で01年ローザンヌ・コンクール、スカラシップとコンテンポラリー賞ダブル受賞のハイメ・ガルシア・カスティリャらプリンシパル、ロイヤル・バレエ・スクール出身で01年以来SFBで活躍するソリストの山本帆介、弱冠22歳のコール・ド・バレエのバレリーナながら恵まれた長身と音楽性で際立った存在感を見せた石原古都らが、劇場に集まったバレエ関係者やバレエ・ファンを魅了した。
Aプロ中、またA、B、Cプロを通じて観る者に最も強烈な印象を残した抽象作品が93年のローザンヌ・コンクール受賞者でニュ−ヨーク・シティ・バレエやネイザーランド・ダンス・シアター1で活躍したエドワード・リャン振付『シンフォニック・ダンシズ』であった。
ラフマニノフの『シンフォニック・ダンシズ作品45番』をスコアに、音楽のパワーと振付の妙、ダンサーの醸し出すエネルギーが劇場内に炸裂した。パワフルな作品を踊ったのは、バレエ団の3大バレリーナであるヤンヤン・タン、ソフィアン・シルヴィ、マリア・コチェトヴァとヴィットー・マッゼオ、ティート・ヘリメット、ヴィットー・ルイスら男性ダンサーと群舞。この作品で初日の第2部が終わった後は、満場の観客が沸きにわいてサドラーズ・ウェルズ劇場内はたいへんな騒ぎとなった。

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15日に初日を迎えたBプロは、バレエ団芸術監督のヘルギ・トマソン振付作品『トリオ』で始まった。この作品は音楽の視覚化をテーマにした抽象バレエの小品で、観る者にトマソンの知性を深く印象付けた。
第1ムーブメントを主演したヴァネッサ・ザホリアンとホアン・ボアダのペア、ロマンティックな第2ムーブメントを主演した美しいサラ・ヴァン・パッテンとティート・ヘリメット、ロシア人ダンサーらしい音楽性と技巧を奮い第3ムーブメントを主演したマリア・コチェトヴァとゲンナディ・ネドヴィギンらそれぞれの個性と魅力が光った。
この作品の第2、第3ムーブメントには難易度の高いリフトやパートナーリングが多くあり、ゲネプロで何人かの男性ダンサーが難儀している姿が見受けられた。作品のゲネプロ終了後には、かつて本国イギリスおよび日本でもたいへんな人気を誇った元ロイヤル・バレエ団プリンシパルで今では指導者として活躍するブルース・サンソムが、男性ダンサーにリフトやパートナーリングのコツやタイミングを伝授していた。
今回英国初演された3つのウィールドン作品の内、最も視覚的に美しかったのがBプロで紹介された『ゴースト』。月明かりにおぼろげに浮かび上がる暗い舞台空間にシルヴィ、ヘリメット、シェイン・ヴュートナーの3人とヤンヤン・タン、ダミアン・スミスの2人が夢、幻のようなムーブメントを見せる。
シルヴィの持つ大人の女の魅力と存在感・表現力、ヘリメットが見せるロマン、ヤンヤン・タンの素晴らしいプロポーションと身体能力が可能にする舞踊表現の数々、振付家ウィールドンの美意識の高さに観客は大いに酔わされた。またBプロのこの作品終了後は、関係者や観客からヤンヤン・タンに一際大きな拍手が送らせた。
アシュレー・ペイジといえば、かつてロイヤル・バレエ(RB)で現代作品からマクミラン振付『マノン』のレスコー役までを得意にした個性派プリンシパル。現役時代から振付を始め、ビントレー以降常任振付家が不在であった90年代のロイヤル・バレエに多くの作品を提供した。引退後は、今年夏まで10年の長きに渡りスコティッシュ・バレエの芸術監督と振付家を兼任した。
90年代にロイヤル・バレエために振付けた作品の多くにはフォーサイス作品の影響がうかがわれたが、今回英国初演された『ガイド・トゥ・ストレンジ・プレイシズ(奇妙な場所への案内)』は、ペイジらしい舞踊言語が満載されながらより洗練された作品に仕上がっていた。

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19日初日のCプロはマーク・モリスがバレエ団の男性ダンサーのために振付けた『ボー』で始まり、元ボリショイ・バレエの男性プリンシパルで渡米後SFBのダンサー、振付家として活躍、現在は常任振付家を務めるユーリ・ポーソーホフの『クラシカル・シンフォニー』と『RAKU』、ウィールドンの『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』が紹介された。
『ボー』は男性ダンサー9人が踊る小品で、カラフルな衣装やセットが印象的。SFBはソフィアン・シルヴィとヤンヤン・タンという長身のスター・バレリーナとマリア・コチェトヴァという小柄なスターを擁するため、相手役にも大小様々なサイズの男性ダンサーが活躍している。この作品では特にゲンナディ・ネドヴィギンをはじめとする5人の小柄な男性ダンサーが舞台を縦横無尽に駆け抜け、男同士のデュエットやユニゾンを見せ、観客から盛んな拍手喝采を浴びていた。
今回紹介されたポーソーホフ作品2つのうち『クラシカル・シンフォニー』は抽象バレエの小品。コチェトヴァと山本帆介が中心のペアつとめ、技量と爽やかな魅力を披露した。

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今回上演された10作品中、唯一の物語バレエがポーソーホフ振付『RAKU』。三島由紀夫作『金閣寺』と金閣寺炎上に構想を得て作られた作品だという。
幕が上がると、白い着物を身に着け白塗りの化粧をしたヤンヤン・タンとその夫で袴姿のサムライらしい男性(ダミアン・スミス)が舞台に佇んでいる。直後に白い着物がタンの身体を離れて舞台上に浮かび上がる。その演出で既に日本情緒に酔った観客から驚きの声が上がった。
戦に出て行くらしい夫のサムライとその部下、一人夫の帰りを待つ姫(ヤンヤン・タン)と彼女に懸想する僧侶(パスカル・モラット)。戦に倒れ灰となって帰って来た夫に涙し、夫の灰をつかんで自らの体に浴びせ一体となろうとする姫を熱演したヤンヤン・タン、白黒映像を巧みに使った舞台背景、着物や袴といった外国人客の目にたいへん美しく映る衣装、SFB専属オーケストラのコントラバス奏者エシマ・シンジ作曲のオリジナル・スコアが、ロンドンの観客にたいへん強くアピールした作品だった。
この作品は、日本人から観ると「エキゾチックな日本文化に興味を持った外国人が思い描く夢の世界」であることが明白なため、私自身はストーリー設定やサムライの衣装や頭飾り、サムライを踊った男性ダンサーたちの所作などにやや違和感を覚えた。
だが日に3つ以上の抽象バレエの小品を見続けた中、唯一のストーリー作品である『RAKU』は総合芸術としてたいへん際立っており、ダンサーたちの熱演についても大いに評価すべきである。

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SFBロンドン公演の最後を締めくくったのはウィールドン振付『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』。
ヴァネッサ・ザホリアンとダミアン・スミス、サラ・ヴァン・パッテンとピエール・フランソワ・ヴィラノヴァ、マリア・コチェトヴァとホアン・ボアダの3組が中心のカップルを踊り、群舞と共にウィールドン作品の多くに見られるユニークな形象美の数々を披露し、見事であった。
米国の大バレエ団とユニークな現代作品が観られるとあって、会場には連日トレンドに敏感なダンス・ファンから著名な舞台批評家やバレエ関係者、振付家、ロイヤル・バレエのダンサーやバレエ学校の生徒達などが詰めかける大盛況。関係者・ファン共に「21世紀のダンス作品を世界に向けて発信するサドラーズ・ウェルズ」らしい企画と優れたダンサーたちの熱演を、大いに楽しむことが出来た充実した9日間であった。
(2012年9月14、15,、19日 舞台写真は14。15。19日午後の最終ドレス・リハーサル)

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プログラムA
『ディベルティメントNo,15』ジョージ・バランシン振付 
『シンフォニック・ダンス』エドワード・リャン振付   
『ナンバー・ナイン』クリストファー・ウィールドン振付
プログラムB
『トリオ』ヘルギ・トマソン振付  
『ゴースト』クリストファー・ウィールドン振付
『ガイド・トゥ・ストレンジ・プレイシズ』アシュレー・ペイジ振付
プログラムC
『ボー』マーク・モリス振付
『クラシカル・シンフォニー』ユーリ・ポーソーホフ振付
『ラク』ユーリ・ポーソーホフ振付
『ウィズイン・ゴールデン・アワー』クリストファー・ウィールドン振付
San Francisco Ballet   Three Mixed Bills
Programme A
Divertimento No.15   by George Balanchine
Symphonic Dances    by Edwaard Liang
Number Nine   by Christopher Wheeldon
Programme B
Trio  by Hergi Tomasson
Ghosts  by Christopher Wheeldon
Guide to Strange Places   by Ashley Page
Programme C
Beaux  by Mark Morris
Classical Symphony    by Yuri Possohkov
RAKU  by Yuri Possohkov
Within the Golden hour   by Christopher Wheeldon