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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2012.04.10]

ロバート・パーカーの引退を惜み佐久間奈緒と踊ったアシュトン『2羽の鳩』

Birmingham Royal Ballet バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
Daphnis and Chloë, The Two Pigeons by Frederick Ashton

バーミンガム・ロイヤル・バレエは2月29日〜3月4日まで本拠地バーミンガム・ヒポドローム劇場でアシュトン振付の『ダフニスとクロエ』と『2羽の鳩』を上演。翌週3月7日〜10日はイギリス北部の街サンダーランドで『コッペリア』全幕を披露。3月13日〜18日は、ここ数年恒例の春のロンドン公演を行った。
3月13日、14日はアシュトン小品集『ダフニスとクロエ』『2羽の鳩』を3公演、15日〜18日はピーター・ライト版『コッペリア』全幕を5公演、それぞれ異なる配役で上演。バレエ団の顔とも言えるスター・ダンサーから新進プリンシパルまでを主役に、ロンドンのバレエ関係者と観客を魅了した。

BRBの春のロンドン公演というと過去2年はハプニング続きで、たとえば一昨年はアイスランド火山の噴火と火山灰による空港閉鎖のために、映画『小さな村の小さなダンサー』のプロモーションにシンガポールに行っていた曹馳(ツァオ・チー)が現地で足止めされ帰国できなくなり、配役に大きな変更が加わったり、去年も佐久間奈緒と共演するはずであったマシュー・ローレンスが主演当日に急遽降板し、配役が入れ替わるなどしたが、今年は予定された主役ダンサーがみんな無事ロンドン入りし、バレエ団最高の布陣ともいえるキャストで珠玉のバレエ作品を披露した。

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3月13日のアシュトン小品集初日は、今年5月をもって惜しまれながら引退する男性プリンシパル、ロバート・パーカーと佐久間奈緒による『2羽の鳩』での最後の共演、15日の『コッペリア』初日は、最近イギリスでは共演することが少なくなっていた佐久間奈緒と曹馳(ツァオ・チー)によるロンドンでは久々の全幕共演と、それぞれの演目の初日が話題の配役で、関係者やBRBファン必見の舞台となった。
佐久間奈緒のこれまでのキャリアを振り返る時、たいへん相手役に恵まれたバレリーナであったと気がつく。ロイヤル・バレエ・スクール時代からの同級生である曹馳(ツァオ・チー)、1年先輩のロバート・パーカー、『シラノ』『美女と野獣』『リーズの結婚』などで共演して好評のイアン・マッケイ、かつてロイヤル・バレエからBRBに移籍し活躍したセルジュ・ポベレズニックと『白鳥の湖』全幕、今はサンフランシスコ・バレエで活躍するエストニア人プリンシパルのティート・ヘリメットとの『アーサー王パート2』の王妃グィネヴィアと湖の騎士ランスロット、フリー・ランスで活躍するロバート・テューズリーとの『エドワード2世』での共演など。
同じ東洋人ペアとして並びも自然で、互角のダンス技術と同じ音楽性を持つ曹馳(ツァオ・チー)との無敵のパートナーシップから、パーカーやヘリメットのような金髪碧眼のパートナーとの視覚的に美しく、また共に演じて観客を大いに感動させる舞台の数々など、イギリスのバレエ関係者やファンの多くが、これまでたくさんの忘れがたい共演を目にしてきた。
パーカーとはプリンシパル就任の02年以来、『眠れる森の美女』『ジゼル』『ザ・レイディ&ザ・フール』『2羽の鳩』などで共演し、何を踊っても素晴らしいパートナーシップを見せたが、中でも『2羽の鳩』は04年7月にニュ−ヨークで行われた振付家アシュトンの作品を一大回顧する催し「アシュトン・セレブレーションズ」でもニュ−ヨークの批評家に「パーフェクト(完璧)」と絶賛され、リンカーン・センターに集まった観客の多くが涙するなど、内外でたいへん高い評価を得ている。

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今年3月バレエ団本拠地バーミンガムとロンドンで、佐久間・パーカー・ペアのさよなら公演の作品に選ばれたのは『2羽の鳩』。この作品での2人の名演、そして最後の共演を心に焼き付けようと多くのバレエ・ファンが劇場に駆けつけた。3月13日の佐久間・パーカーの共演は、2人のキャリアとパートナー・シップの集大成ともいえるたいへん特別な舞台となった。
佐久間は作品冒頭の椅子に座ってポーズを取る場面から、女優バレリーナとして持てる技量のすべてを奮い、1幕の見所であるジプシー・ガールとの踊り比べ、家を出てゆく若者にすがり涙する終盤、2幕の和解のパ・ド・ドゥと、作品のどの場面をとっても忘れがたい印象を残した。
ロンドンでの最後のパフォーマンスに踊り手としての充実のすべてを見せたパーカーは、2幕ジプシー・ガールに絵のモデルになってもらい、憧れの美女とのロマンスに心躍らせる若者が見せる天高く舞い上がる白い鳩のような作品独特のステップと跳躍の繰り返しでは、観る者にこの世に重量というものがまるで存在しないかのような錯覚をおこさせ、和解のパ・ド・ドゥでアラベスクをする少女の後ろで相手役をサポートしながら、深く許しを請うように頭をたれる仕草には彼らしい誠があり、観客の心に深く刻まれた。
1幕で佐久間演ずる少女が見せるいたずらっぽいしぐさやコケットリー、若者を演ずるパーカーが見せる苛立ち。2人が共に踊る2羽の鳩の仕草には、コロシアム劇場に集った老若男女を和ませ、2幕の最後でジプシーたちの慰み者にされ心身共に傷ついて家に戻った若者と少女の和解のパ・ド・ドゥでは、多くの観客が感動の涙で頬をぬらした。

94年に入団したパーカーは96年のビントレー振付『カルミナ・ブラーナ』の第2神学生を世界初演して英国バレエ関係者とファンの注目を浴びて以来、『シェイクスピア組曲』のハムレット、『アーサー王パート1』の若きアーサー、『アーサー王パート2』で父王アーサーを殺めるモードレット、『美女と野獣』の野獣、『シラノ』のタイトル・ロールなど多くのビントレー作品の男性主役を初演している他、ロミオ、『2羽の鳩』の若者、『10番街の殺人』の若者フーファーなどの当たり役を持ち、15年の長きにわたってバレエ団の顔ともいえる存在でイギリスではたいへんな人気を誇るダンサー。これまでもバレエ団とバレエ学校で後進と若手の指導にあたってきたが、この秋からはデズモンド・ケリー退任の後をついでBRBの付属校エルムハースト・スクールのアーティスティック・ディレクターに就任する。
36歳という若さで、ダンサーとしての充実の頂点で引退するパーカーを惜しむ声は高く、当日のカーテンコールも満場の観客の暖かい拍手に包まれたいへん感動的なものとなった。

ダンサーの層が厚くプリンシパルからソリストまで役者揃いのBRBの公演では、主役のみならず準主役を踊るダンサーに目を奪われることも多い。
13日にジプシー・ガールを踊ったエリーシャ・ウィリス、14日(夜)のキャロル・アン・ミラー、14日(夜)にジプシー・ガールの恋人(ジプシー・ラヴァー)をつとめたイアン・マッケイは、プリンシパルダンサーらしいスター性や技量で作品をよりエキサイティングなものにしてみせた。14日(昼)にジプシー・ガールを踊ったのはソリストのセリーヌ・ギテンズ。荒削りながらダイナミックな跳躍やスピーディなシェネなどのダンス技術で観客を驚かせた。短い登場に跳躍の数々を見せるジプシー・ボーイは、13日にこの役を踊った周子超(ツ・チャオ・チョウ)に軍配を上げたい。

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小品集のもう一つの作品『ダフニスとクロエ』は、昨年5月の日本公演でも上演されているので、実際にご覧になった方々も多いことと思う.
13日の初日を飾ったのは日本公演でもこの作品を踊ったエリーシャ・ウィリスとイアン・マッケイ。ウィリスは清純なヒロインが似合いで、I・マッケイはアシュトンがこの作品に盛り込んだ独自のステップや腕使い、ポーズを自分らしい色づけで大らかに演じ踊って見せた。
この作品の男性主役を踊ってたいへん興味深かったのが、14日(夜)にジェンナ・ロバーツと共演した演技派プリンシパルのジェイミー・ボンド。都会から来た若い人妻リュカイオンの誘惑を拒もうとしながらも、彼女の色香に屈してしまった自分を嫌悪する姿、恋敵ドルコンに陥れられたさいのオリジナルな演技が素晴らしく、作品をより心に残るものにしていた。
(2012年3月13、14日昼夜公演 ロンドン、コロシアム。13日(夜)公演を撮影)

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