ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2012.01.10]

注目のリヴァイバル、マクミランの『グローリア』をアコスタとワトソンが競演

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Asphodel Meadows by Liam Scarlett , Enigma Variations by Sir Frederic Ashton, Gloria by Sir Kenneth MacMillan
リアム・スカーレット振付『アスフォデルの花畑』、フレデリック・アシュトン振付『エニグマ・バリエーションズ』、ケネス・マクミラン振付『グローリア』

ロイヤル・バレエ団は11月19日〜30日までバレエ団の新旧3人の振付家によるバレエ小品集、『アスフォデルの花畑』『エニグマ・バリエーションズ』『グローリア』を2配役、6公演行った。
リバイバル初日11月19日昼・夜2公演を観る。

『アスフォデルの花畑』はバレエ団のファースト・アーティストであるリアム・スカーレット2010年振付作品。この作品についてはファースト・キャストによる世界初演時の模様を2010年7月号でたくさんの舞台写真とともに紹介しているので、今回はセカンド・キャストによるマチネの模様のみレポートする。
作品は3組の男女によるデュエットと、男女各7人による群舞により構成されている。セカンド・キャストで3組の中心となるペアを踊ったのは、サラ・ラムとヨハネス・ステパネク、リアナ・コープとホセ・マルティン、崔由姫とスティーブン・マックレー。白眉は音楽性と技巧を奮う3組目を踊った崔とマックレー。二人が一丸となって音楽を御し一糸乱れぬフットワークを見せる姿が圧巻であった。
マックレーは『オネーギン』のレンスキー、『白鳥の湖』の王子ジークフリートなど演技力を必要とする全幕作品の主役・準主役を踊るにあたってはまだ課題を残しているが、観客にストーリーを伝える必要のない抽象作品や現代作品についていえば、やはりたいへん優れた踊り手であることを関係者や観客にアピール。群舞の中ではイオナ・ルーツ、トリスタン・ダイアー、ジェイムス・ヘイの好演が光った。
振付家のスカーレットは弱冠24歳。3組の男女と群舞によって、印象的なムーブメントが紡がれる作品は、アシュトン、マクミランの代表作と共に紹介されても何ら遜色がない。次作が待たれる期待の若手振付家である。

london1201a_e01.jpg Photo/Angela Kase

アシュトン卿68年作品『エニグマ・バリエーションズ』はイギリスの国民的作曲家エルガーの同名の楽曲をバレエ化したもの。作曲家が40代にして名声を得るまで彼を励まし続けた妻や親友、作曲家夫妻の日常を愉快に彩った友人や知人たちを描いた作品である。
エルガー夫妻の愛の巣である邸宅を舞台に、エルガーの妻や親友、友人・知人が次々と登場し、短い変奏曲にのってソロやデュエットを披露する。そして最後はいまや晴れて名声を手中にしようというエルガーを囲んで登場人物全員が集い、記念撮影をして終わる。
友情と愛、芸術をテーマに、古き良き時代のイギリスを舞台に様々な登場人物を描いた、一編の美しい映画のような作品である。
今回のリバイバルは当初エルガーをクリストファー・ソーンダース、エルガー夫人をゼナイダ・ヤノースキーが踊る予定であったが、ヤノースキーの故障によりエルガー夫人をクリスティーナ・アレスティスがつとめた。作曲家の親友であるドイツ人のイェーガーはベネット・ガートサイト、自転車に乗り、口には愛用のパイプをくわえて舞台に登場するスチュアート・パウエルはジョナサン・ハウエルズ。それ以外の登場人物を2つの配役が踊る趣向。
上演時間は34分の小品だが、主要登場人物に加え、美少女ドラベラ、若き恋人たちイソベルとアーノルド、短い変奏曲の中、難解なソロを披露するトロイトとシンクレアなど、容姿と品性に優れ、演舞に長けた踊り手が複数揃わないと上演できない作品である。

london1201a_e02.jpg Photo/Angela Kase

正規の音楽教育を受けず独学で作曲法を学んだが故に時に自信喪失し、将来を憂いたという繊細な作曲家エルガー役を演じたソーンダースは正に適役で、様々な登場人物と踊り戯れ、作曲家の苦悩や追憶の甘やかさを体現して見事であった。
少女ドラベラはロベルタ・マルケスとイオナ・ルーツが踊ったが、子供らしいあどけない微笑と美しい腕使い、確かなポアント技術を見せたマルケスのほうがより観客の心を掴んだようだ。
超絶技巧を披露するトロイトとシンクレアについては、エドワード・ワトソンとリッカルド・セルヴェーラがトロイト、ホセ・マルティンとアレクサンダー・キャンベルがシンクレアを踊った。ワトソンは時代物の衣装や口ひげが似合い、柔軟性と美しいライン、音楽性を持って健闘したがやや息切れ気味で、シャープな技巧で短いソロに完全燃焼したセカンド・キャストのリッカルド・セルヴェーラのほうが鮮烈な印象を残した。

london1201a_e11.jpg Photo/Angela Kase

アレクサンダー・キャンベルは古巣のBRB時代からシンクレアを踊っているのだが、コベントガーデンの大きなステージではプレイスメント(ステージ上の場所のとり方、使い方)に一部乱れがあり、またソロの後半のスタミナ切れが目立った。一方ファースト・キャストのマルティンは難解なソロも闊達にまとめ、持ち前の明るさや魅力でシンクレアという英国紳士に新しい人物像を吹き込んでみせた。
イソベルとアーノルドはラーラ・タークとネヘミア・キッシュ、クレア・カルヴァートとデイヴィッド・ピカリングが踊ったが、セカンド・キャストのカルヴァート、ピカリング組のほうが、より英国的で品性の良さとロマンに満ち、作品に彩を添えていた。ミステリアスな女性登場人物メアリー・ライゴンについてもイッツァー・メンディザバルよりもスコットランド出身のローラ・マクロッホのほうが作品と役に似合っていた。

london1201a_e03.jpg Photo/Angela Kase london1201a_e04.jpg Photo/Angela Kase london1201a_e05.jpg Photo/Angela Kase
london1201a_e06.jpg Photo/Angela Kase london1201a_e07.jpg Photo/Angela Kase london1201a_e09.jpg Photo/Angela Kase
london1201a_e08.jpg Photo/Angela Kase london1201a_e10.jpg Photo/Angela Kase

今回の3作品のうち関係者やファンが最も注目したのがマクミラン振付作品『グローリア』の再演と同作品を主演するカルロス・アコスタとエドワード・ワトソンの演舞だ。
第一次世界大戦に散った若き戦士たちを描いたこの作品が、(第一次世界大戦戦没者慰霊祭である)11月中旬のリメンバランス・サンデー直後に上演されるというのも、イギリスではまたたいへん意義深いことである。
現在数少なくなったバレエ界のトップスターの一人であり、また男性的な肉体の持ち主として知られるアコスタ、深い演技力と個性的な役作り、男性離れした柔軟な肢体が紡ぐ美しいラインと音楽性で知られるワトソン。ロイヤル・バレエの男性プリンシパルの頂点に立つ、だが非常に対照的な魅力の持ち主2人が踊った主人公の戦士は、それぞれが非常に魅力的で甲乙つけ難かった。
アコスタは男性的な肉体を身体に密着した衣装に包んで舞台に立っているだけで絵になったし、そんな立ちから時に露呈される(彼自身なのであろう)優しく傷つきやすい男性像は、激戦地で散っていく戦士役が良く似合った。アコスタが共に踊る戦友はティアゴ・ソアーレス。アコスタと共にバレエ団でも最も男性的な魅力の持ち主である。

セカンド・キャストは、戦場で命を落とす戦士の悲痛な叫びを体現して見事であったワトソンと移籍2シーズン目のネヘミア・キッシュ。共に繊細にして人間的な魅力で作品をペーソスで満たし、観客の涙を誘った。
初日の昼夜2公演共に、マクミランの心揺さぶる作品と主演ダンサーたちの好演に、コベントガーデンに集まった満場の観客が、ある者は目頭をおさえ、ある者は心を熱い感動で一杯にし言葉少なに帰途についた。
(2011年11月19日昼・夜2公演を鑑賞。18日最終ドレス・リハーサルを撮影)

london1201a_g02.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g05.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g06.jpg Photo/Angela Kase
london1201a_g01.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g03.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g04.jpg Photo/Angela Kase
london1201a_g07.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g08.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g09.jpg Photo/Angela Kase
london1201a_g10.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g11.jpg Photo/Angela Kase london1201a_g12.jpg Photo/Angela Kase

写真で紹介されているダンサー
『エニグマ・バリエーションズ』
エルガー/クリストファー・ソーンダース
エルガー夫人/クリスティーナ・アレスティス
タウンゼント/アリステア・マリオット
ベイカー/トマス・ホワイトヘッド
アーノルド/ネヘミア・キッシュ
イザベル/ラーラ・ターク
トロイト/エドワード・ワトソン
ノーブリー/ディエドル・チャップマン
イェーガー/ベネット・ガートサイト
シンクレア/ホセ・マルティン
ネヴィンソン/デイヴィッド・ピカリング
メアリー・ライゴン/イッツァー・メンディザバル

『グローリア』

カルロス・アコスタ
サラ・ラム
ティアゴ・ソアーレス