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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2011.06.10]

マクレガーの新作世界初演とバランシン『王妃の舞踏会』英国初演

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Ballo Della Regina by George Balanchine, Live Fire Exercise by Wayne McGregor, DGV (Danse A Grande Vitesse) by Christopher Wheeldon
ジョージ・バランシン振付『バッロ・デッラ・レッジーナ 王妃の舞踏会』
ウェイン・マクレガー振付『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』
クリストファー・ウィールドン振付『DGV』

ロイヤル・バレエは5月13日〜25日まで常任振付家であるウェイン・マクレガーの新作『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』を含むトリプル・ビルを6公演行った。
初日13日はマクレガー作品の世界初演であると共に、バランシン1978年振付作品『バッロ・デッラ・レジーナ 王妃の舞踏会』のイギリス初演となった。ウィールドンの『DGV』については過去にも何度か触れているので、今回は初演のマクレガーとバランシン作品を中心にご紹介する。

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『バッロ・デッラ・レジーナ 王妃の舞踏会』は、男女主役がパ・ド・ドゥやソロに技巧と音楽性を披露する中、4人のバレリーナがソロを踊る作品構成。バランシン作品らしくシンプルな衣装に、舞台装置は一切ない。だがスター性あふれる主役男女が見せる華やかなダンス・テクニックと存在感、また作品最後に2グループに分かれたダンサーたちが、それぞれ掲げた手を組み交差する宮廷舞踊のような振付が、観客にいにしえの王宮で行われる舞踏会を連想させるのである。

初日にこの開幕作品を踊ったのはマリアネラ・ヌニェスとセルゲイ・ポルーニン、翌14日にセカンド・キャストをつとめたのはローレン・カスバートソンとフェデリコ・ボネッリ組であった。
98年に16歳でロイヤル・バレエに入団したヌニェスも今や入団13年目。筆者はロイヤル・バレエ・スクール時代からヌニェスの公演を観たり舞台撮影をしている。学生時代から美人で大きなスター性を有する期待の新人だった。 
バレリーナとしては『白鳥の湖』『眠れる森の美女』に代表される姫役や『ジゼル』といった古典の主役よりも、『マイヤリング うたかたの恋』のラリッシュ夫人のような愛人役やグレン・テトリーの『スフィンクス』のタイトル・ロールのファム・ファタール、『ヴォランタリーズ』のような抽象バレエで自らの個性を十二分に発揮できる作品での演舞が忘れがたい。また古典ではオーロラ姫よりもリラの精、ジゼルよりもミルタといった少女役より女王やそれに近い役が似合う。
これまで特別バランシン作品に優れたバレリーナという印象はなかったのだが、今回の抜擢では技巧と音楽性、スター性を持って作品を御し、素晴らしいパフォーマンスを見せた。
今回この作品の指導のため、ロイヤル・バレエ団を訪れたのはニューヨーク・シティ・バレエ団の往年のバレリーナでこの作品を初演したメリル・アシュレイ。思えば彼女もヌニェス同様、華やかで大きな存在感を持ったバランシン・バレリーナであった。
セカンド・キャストの女性主役ローレン・カスバートソンもこの作品主演に大変秀でていた。これは『セレナーデ』を踊ったときも感じたことだが、音楽性に優れた真のバランシン・バレリーナである。

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男性主役のソロは想像しうる限りの大小の跳躍を盛り込んだたいへん見ごたえのあるもの。技巧と音楽性、品性に優れたスター・ダンサーにのみ踊りこなせる作品だ。
13日午後のゲネプロや夜の初日を観て、この作品の男性ソロを初めて観た熱心なバレエ・ファンの多くが、ポルーニンとボネッリの両キャストを観て2人の技量の高さを把握したいと熱望。チケットを買い足した者が多かった。
ファンが固唾を呑んで見守ったポルーニンとボネッリのプリンシパル対決に勝利したのは、バランシン作品を非常に得意にするフェデリコ・ボネッリ。音楽の視覚化というバランシン作品最大のテーマにのっとりメロディとリズムを御しながら高々と飛翔し、舞台上の空間に様々な跳躍技を鮮やかに描ききる姿には、関係者も観客もただただ圧倒されるばかりであった。
ポルーニンも芸術性に優れた流麗なソロを披露し、バランシン作品でなければ及第点以上のパフォーマンスを見せた。ただバランシン作品を踊る上で最も大切なアクセントのつけ方が音楽から微妙にずれ、音を支配することができなかったのである。

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ペアとしてもカスバートソンとボネッリ組のほうが似合いであった。ヌニェスとポルーニン組も見ごたえはあったものの、始終笑顔で踊る陽性のヌニェスに対して、時に音楽の陰影を感じとり表情や体でそれを表現するポルーニンとの感受性のずれが時に目立った。
女性4人のソリストでは、ヴェルディの音色を体で繊細に表現する崔由姫の優美と、空間使いの大きさと芸術性が光る高田茜、古典からネオクラシックのソリスト役までオールラウンドに踊りこなすエマ・マクガイヤーの充実が印象に残った。

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マクレガーの新作『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』は、振付家自身が選んだローレン・カスバートソン、サラ・ラム、高田茜、フェデリコ・ボネッリ、リッカルド・セルヴェーラ、エリック・アンダーウッドの6人が全公演を主演した。
抽象作品であるが、舞台背景に現代の中近東を思わせる砂地で一群れの軍隊が爆撃訓練している様子が映し出される。その前で6人の踊り手が、ある時は鮮やかに炸裂する爆弾の炎の前で影となり、ある時は映像の仄かな光と舞台照明におぼろげに照らされ踊る作品。

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マイケル・ティペットの「コレルリの主題による協奏的幻想曲」の美しい音色、踊り手の背景で360度回転する3D映像作家ジョン・ジェラルドによるムービーの不思議、そして何よりもそれらの中心で挑むように踊り続けるダンサーの姿に打たれる。
バランシンを踊った後、この作品も主演したボネッリや高田は作品の踊り分けも見事で、作品ごとに異なった魅力を発揮し関係者やファンを大いに魅了。
同時代のイギリスの振付家ウィールドンらの影響だろうか、『クローマ』でダンサーが肉体で表現できる極限に挑み、時にグロテスクな振付を加えたマクレガーのスタイルは、最新作『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』では、マクレガーらしさを残しながらも、より美しく洗練された物になっている。

シーズン終盤のロイヤル・バレエ団は、ブライアン・マロニーに続き、蔵健太をも怪我からの手術とリハビリによる休養のために失う不幸に見舞われた。人気のソリストとプリンシパルは複数の作品のリハーサルや公演で忙しく、肉体的にも精神的にも疲れがピークに達している。そのため小さな配役変更が目立った。
だが『バッロ・デッラ・レッジーナ 王妃の舞踏会』と『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』という2作品の魅力と主演ダンサーの持つ個性とカリスマが、コベント・ガーデンに集まった観客を熱狂させた。上演時間はそれぞれ20分にも満たない小品ながら、作品と踊り手が観客に与えうる力に酔い、現代芸術の豊かさに打たれた一夜であった。
(2011年5月14日、20日の公演を鑑賞。13日最終ドレス・リハーサルを撮影)

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撮影:Angela Kase
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。

撮影日キャスト
『バッロ・デッラ・レッジーナ 王妃の舞踏会』

ローレン・カスバートソン、フェデリコ・ボネッリ
ベアトリス・スティックス・ブルネル、メリッサ・ハミルトン、崔由姫、イッツア・メンディザバル
『ライヴ・ファイヤー・エクセサイズ』
ローレン・カスバートソン、サラ・ラム、高田茜、フェデリコ・ボネッリ、リッカルド・セルヴェーラ、エリック・アンダーウッド