ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2011.05.10]

『白鳥の湖』のサラ・ラムとフェデリコ・ボネッリの素晴らしいパフォーマンス

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Swan Lake Choreography: Petipa & Ivanov, Additional Choreography: Ashton & Bintley
フレデリック・アシュトン、デヴィッド・ビントレー改訂振付『白鳥の湖』
london1105a01.jpg

ロイヤル・バレエ団は1月22日より4月8日まで『白鳥の湖』を18回上演した。
配役はタマラ・ロホとカルロス・アコスタ、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーといったロイヤル・バレエ団が世界に誇るスター・ペア、有名オペラ歌手サイモン・キンリーサイドとの間に第2子を出産後、産休から戻ったベテランのゼナイダ・ヤノースキーと今シーズンからバレエ団に移籍したネヘミア・キッシュといったイギリスのバレエ・ファンが初めて目にする配役から、ローレン・カスバートソンとルーパート・ペネファーザーのイギリス人ペア、サラ・ラムとフェデリコ・ボネッリ組といった魅力的な顔合わせが目白押しであった。また4月2日にはスティーブン・マックレーによるジークフリート・デビューがあった。
 

london1105a02.jpg

1月22日初日のマチネを観る。
主役は前日午後に行われた最終ドレス・リハーサルの2・4幕キャストと同じサラ・ラムとフェデリコ・ボネッリ。前日コベント・ガーデンに集った関係者と写真家は一足早く、このペアによるロマンと叙情あふれるリハーサルに大いに感心したものだが、初日の公演は前日以上で関係者やファンの期待を大いに上回る充実のパフォーマンスとなった。
美しく時に儚い風情のサラ・ラムに、悪魔によって白鳥に身を変えられた囚われの姫オデットは良く似合った。3幕のオディールでも節度ある演舞の中に潜むファム・ファタールの魔力や硬質の美貌が冴え渡る。
シーズン初めの『オネーギン』のタイトル・ロール、『シルヴィア』のアミンタ、『シンデレラ』の王子と、主役つとめるたびに長い怪我との闘いからの完全復帰し踊り手としての円熟、優れたパートナーぶりを印象付けてきたフェデリコ・ボネッリもまた素晴らしいパフォーマンスを見せた。1幕の物想いに沈む王子の登場から観客に強い印象を残し、またサラ・ラムとともに2幕・4幕に何とも甘やかでロマンティックな愛の物語をはぐくんで見せ、観客を恍惚とさせたのであった。
3幕の黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥでは主役2人の技の掛け合いも見事で2・4幕のロマンティシズムとは異なる世界をくっきりと構築し、強い印象を残した。
主役以外では1幕パ・ド・トロワと3幕のスペインの踊りを踊った蔵健太、スペインの踊りの女性の一人を踊ったディエドル・チャップマン、ナポリの踊りのエマ・マクガイアーが印象に残った。

london1105a07.jpg

4月2日はスティーブン・マックレーの王子デビューがあった。マックレーといえばシャープな技巧を持つ若手プリンシパル。笑顔が印象的な陽性の魅力の持ち主である。演技や役作りで見せる物語バレエの全幕より、自分のために振付けられた現代作品や抽象バレエを得意とする。
シーズン初めの『オネーギン』初日に準主役のレンスキーに抜擢されながらも、過剰な演技でこの世界的に有名なロシア文学の傑作とバレエを良く知る関係者や観客を嘆かせた。この記憶の残るイギリスのバレエ関係者やバレエ・ファンの間では、今シーズンのマックレーのジークフリートとデ・グリュー役デビューに危惧を抱く者が多かった。
2日のデビュー公演では、残念ながらわれわれ関係者や一部のファンの心配が的中してしまった。デビューの重圧があったのだろうか、1幕の登場からヨーロッパの王国の王子の雰囲気が見えず、2幕のオデットとの出会いではマイムが上手くできず、ロベルタ・マルケス扮するオデットとの間にはぐくまれる愛やロマンといったものが見えなかった。
デビューだけを見て若いダンサーを評価すべきではないし、今後のマックレーの充実を見守りたいと思う。だがオールラウンドにどんな役でもこなせるタイプの踊り手ではない場合、バレエ団上層部はそのアーティストに合った役をまず充分に経験させてから時期を見て新しい役に取り組ませるべきではないかと思う。
マックレーのレンスキーとジークフリートを観て、バレエ団の現在の方針とイヴァン・プトロフの不在を嘆き、懐疑的な気持ちになった関係者とファンは多い。

london1105a06.jpg

同日は1幕のパ・ド・トロワの女性の一人を高田茜が踊った。何を踊ってもファンや関係者の期待以上のパフォーマンスを見せる高田は、秋からの新シーズンでは『眠れる森の美女』全幕でマックレーと初日に抜擢されている。
パ・ド・トロワの男性は2001年ローザンヌ賞受賞のフランス人ファースト・アーティスト、ルドヴィック・オンディヴィエラ。振付などに才能の片鱗を見せているが入団以来、踊り手としてはチャンスに恵まれていない。パ・ド・トロワへの抜擢もほとんどどなかったことからソロでのプレイスメント(舞台上のスペースの使い方)に問題が残るパフォーマンスになってしまった。
4月5日はカスバートソンとペネファーザーの公演があった。当初マックレーのデビュー公演とともにこのペアによる公演についてもレポートすべくチケットをおさえてあったのだが、諸所の事情から観ることが叶わなかった。当日ロイヤル・オペラ・ハウスに足を運んだ関係者によると大変素晴らしいパフォーマンスであったという。

2ヶ月以上に渡って行われた『白鳥の湖』のリバイバル公演。第1週の1月下旬といえば、世界初演の『不思議の国のアリス』のリハーサルもありダンサーたちは大忙し。2月はやはり古典全幕の『ジゼル』と、2月末〜3月初旬は『不思議の国のアリス』との並行上演で、ダンサーたちはめまぐるしい日々を送った。
3月21日の公演では1幕のパ・ド・トロワの男性を踊っていたブライアン・マロニーがダブル・カブリオールの着地で怪我に倒れるも、蔵健太がとっさの機転を利かせて舞台を救う一幕があったと聞く。
マロニーは怪我が重く、手術後一時入院。現在休養に励み来シーズン以降になる復帰の時をうかがっている。ルーパート・ペネファーザーも疲れからか、ジークフリート主演後に怪我に倒れている。

また3月11日の東北関東大震災直後の3月18日に行われた2公演は、芸術監督のモニカ・メイソンの意向で大災害の被災国である日本に捧げるパフォーマンスとなった。
(2011年1月22日(昼)、4月2日(昼)。1月21日最終ドレス・リハーサルを撮影)

london1105a05.jpg london1105a08.jpg london1105a09.jpg
london1105a10.jpg london1105a11.jpg london1105a12.jpg
london1105a03.jpg london1105a04.jpg

撮影:Angela Kase
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。