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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2011.04.11]

佐久間とマッケイがアシュトンの名作『リーズの結婚』を踊った

Birmingham Royal Ballet バーミンガム・ロイヤル・バレエ
La Fille mal gardée by Sir Frederick Ashton
フレデリック・アシュトン振付『リーズの結婚』
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バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)は3月2日~5日まで、本拠地バーミンガム・ヒポドローム劇場にてアシュトン版『リーズの結婚』をリバイバル上演した。4キャストによる7公演のうち、ファースト・キャストによる初日とセカンド・キャストによる最終日の2公演を鑑賞した。

初日はリーズを佐久間奈緒、コーラスをイアン・マッケイ、シモーヌ未亡人をデイヴィッド・モース、アランをロバート・グラブナーが踊った。
通常佐久間は男性プリンシパルの曹馳(ツァオ・チー)とパートナーを組むことがほとんどだが、今回は当初、曹(ツァオ)がこの時期に2作目となる映画の撮影のため、バレエ団を休む予定であったことからマッケイとの組み合わせが実現した。
イギリスの学校は、それぞれの学期の半ばにハーフ・タームという学期の中休みがある。3月第1週は丁度このハーフ・タームの休みであったことから、ヒポドローム劇場は老若男女の観客であふれ、初日も最終日も満員であった。

『リーズの結婚』と言えば男女の主役ダンサーは、登場から踊りに次ぐ踊り、マイムに次ぐマイム、演技に次ぐ演技で休む暇もない。
リーズとコーラスによるリボンを使ってのあや取りのパ・ド・ドゥ、3幕の木戸ごしのデュエット、シモーヌ未亡人の木靴のソロ、アランの宙乗りなど見所も盛りだくさんで、衣装やセットも原色をふんだんに使いカラフルで目に鮮やか。観客は若い恋人たちの運命に一喜一憂しながらも、大いに笑いさんざめき、全幕バレエの醍醐味を思う存分満喫できる。
ただ主演ダンサーにとって、リーズとコーラスといえは、踊り手としての技量の充実なしには見せられない難役である。
主役バレリーナには、跳躍技、バランスの強さ、演技力と表情の豊かさ、マイムの雄弁さと共に、何よりもスタミナが求められる。男性主役には、1、2、3幕の大きな跳躍技で披露するダンス・テクニックとラインの美しさ、様々なリフトをこなすサポート技術の強さと演技力、スタミナが求められる。

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佐久間は登場から持ち前のゴージャスな魅力をふりまき、金持ち息子のアランや恋人のコーラスが夢中になるのも何ら不思議がなかった。ソロやコーダで見せる技術とスピード感は、キャロル・アン・ミラーと共にこのバレエ団で最高のダンス・テクニックを持つバレリーナならではの見ごたえがあった。
長身で容姿の良いマッケイはハンサムな王子役も似合いだが、私自身は彼の本領は『ダフニスとクロエ』のダフニスに代表される善良な若者役や、コーラスのような明るく快活な村の若者役で最も良く発揮されると信じている。コレーラ・バレエからBRBに復帰してからは、舞台上での存在感が増し、男性舞踊手として相手役へのサポートやリフトに優れるマッケイと技巧に優れる女優バレリーナの佐久間がこの作品を主演するのだから、初日は大変充実した舞台となった。
佐久間は跳躍技での充実、細かなステップで見せる音楽性で観客の目を奪ったし、マッケイは登場直後の木の枝を持っての跳躍や2幕冒頭のボトル・ダンスでの跳躍の大技がダイナミックだった。

3幕で佐久間=リーズが「子供は1人、2人、やっぱり3人はほしいわ。」と夢見るマイムの後、マッケイ=コーラスが麦の束の中から大胆に飛び出し現れて「子供はたったの3人かい? 5人だ、5人はほしいよ!!」と見せるやりとりも心に残り、パ・ド・ドゥのクライマックスのリフトも長々と決まって観客の目を楽しませた。
だがしかし私が何よりも感心したのは、佐久間の3幕の演技である。アランとの結婚直前に、自室で恋人コーラスと抱擁しあう姿を見られ、縁談が破談になった後、母のシモーヌに「お願いだからコーラスと結婚させて」と嘆願するマイムで佐久間=リーズが見せる涙と、願いが叶って結婚できることになってからの嬉し泣きは、私がイギリスで過去20年ほど『リーズの結婚』を観た中でどのバレリーナも見せたことがなかったもの。
通常この作品を観た観客は、心満たされ笑顔で家路に着くのだが、3月2日にヒポドロームに集った観客の多くが、3幕の佐久間の演技に大いに感動、涙させられたのである。
またこの日はシモーヌ未亡人を演じ踊ったデイヴィッド・モースも大変素晴らしかった。通常ロイヤル・バレエがこの作品を再演する場合、未亡人役は男性がややグロテスクに演じ踊ることが多いが、モースの未亡人は非常に女らしくエレガント。若かりし頃は大層な美人で裕福な地主の家に嫁いだ有閑マダムだった様子がうかがえ、作品の品格を高めると共に、観客にBRBの充実ぶりを伝え、見事としか言いようがなかった。

最終日5日(夜)はリーズをエリーシャ・ウィリス、コーラスをジェイミー・ボンド、シモーヌ未亡人をイアン・マッケイの兄でキャラクター・ダンサーのロリー・マッケイ、アランをソリストのマティアス・ディングマンがつとめ、バーミンガムでの公演を締めくくった。

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ウィリスは04年からプリンシパルをつとめるベテラン。09年秋にプリンシパルに就任したボンドもこの作品は主演済みである。
だがプリンシパル就任の先シーズンを腰の故障のためにほとんどの舞台から降板。昨年夏に米国でリハビリに励むも今シーズン第1週末に怪我が再発し、休養を余儀なくされたボンドが、難易度の高いリフト多数を含むこの作品を全幕主演し、踊りきることができるのか? という大いなる危惧感があった。だが蓋を開けてみると、それは全くの杞憂だったのである。
若者役で本領を発揮するマッケイに対し、ボンドは貴公子タイプ。若い農夫のコーラスを演じるには一見上品な雰囲気が漂う。だが演技派ダンスール・ノ-ブルゆえにコーラス役も大変魅力的で、冒頭から観客の心をつかんで離さなかった。
登場直後にシモーヌ未亡人に見つかって屋敷の2階から野菜を投げつけられ、追い払われそうになる場面の演技がコミカルで秀逸、芸達者なマッケイ兄のシモーヌ未亡人との演技のかけあいが楽しく2人で観客を大爆笑させた。
ウィリスとの並びも絵になり、リボンを使って群舞女性を従え踊るパ・ド・ドゥ,身体とリボンを使って見せるあや取り,アランをはさんでリーズとコーラスが頬を寄せて微笑む場面も若い恋人らしくフレッシュで清々しかった。
心配された各種のリフトや木戸ごしのデユエットでの長い懸垂リフトでも一切破綻はなく、破綻どころか長く困難なリハビリの末の確かなカムバックとアーティストとしての大きな成長を関係者に強く印象付けたのである。
ウィリスはリボンを投げた後にリボンと戯れる場面や母のシモーヌ未亡人とのマイムのやり取りも表情豊か。バランスにも優れリーズ役が大変良く似合った。

またこのキャストではアラン役のマティアス・ディングマンが大変チャーミングで、主役2名と共に心に残った。ディングマンといえば、06年のヴァルナ国際バレエ・コンクールの金賞受賞者。小柄ではあるが容姿も良いので、今回、彼がアラン役にキャストされたのを知った時は正直大変驚いた。
だがロイヤル・バレエのホセ・マルティンのように大変キュートなアランを演じ、1幕より観客に大いに愛され、リーズとの結婚直前に破談となり、使うあてのなくなった結婚指輪を観客に見せながら首を振る場面では、女性客の多くが哀れみの声を漏らしたほど。

ロイヤルに比べ、若手にも大きな役への抜擢の多いBRBでは、各個人が1つの作品で複数の役柄を踊ることも多い。それが個々のアーティストに演技力をつけさせ、踊り手としての技術の向上を促すことから、踊り手は若いうちから多面体の魅力を身につけ、個性を伸ばしやすい。
5月の来日公演でも、ベテランから若手まで様々なダンサーが、それぞれの個性と技量で日本のバレエ・ファンを大いに魅了するに違いない。
(2011年3月2日、5日(夜)1日午後の最終ドレス・リハーサルを撮影)

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撮影:Angela Kase
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