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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2009.08.10]

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の<サー・フレッドとMr.B>

The Birmningham Royal Ballet
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
Sir Fred & Mr.B/George Balanchine " Mozartina "
Sir Frederick Ashton " The Two Pigeons"
<サー・フレッドとMR.B>ジョージ・バランシン『モーツァルティーナ』
サー・フレデリック・アシュトン『2羽の鳩』
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バーミンガム・ロイヤル・バレエ団は、08-09シーズンを<サー・フレッドとMr.B>でしめくくった。
『モーツァルティアーナ』はバランシン最晩年の作品で1981年に世界初演された抽象バレエの小品。チャイコフスキーの組曲第4番ト長調『モーツアルティアーナ』をスコアに主役ダンサーの男女と、ギグを踊る男性一人、メヌエットを踊る女性4人、作品の最初と最後にバレエ学校の少女たちが色を添える。

6月17日から20日までのバーミンガム・ヒポドローム劇場での公演では女性主役に佐久間奈緒、平田桃子、男性主役に曹馳(ツアオ・チー)とジョゼフ・ケイリーが予定されていたが、『2羽の鳩』の男性主役を踊る男性ダンサーが次々と怪我に倒れ降板したことから、ケイリーは急遽『2羽の鳩』を習いデビュー。『モーツアルティアーナ』はケイリーに代わってアレクサンダー・キャンベルがデビューすることになった。キャンベルは身長の関係で佐久間奈緒の相手役がつとめられなかった関係で、ヒポドローム劇場での公演後半は、すべて平田桃子とアレクサンダー・キャンベルが踊ることになった。
そのような理由から6月17日午後のゲネプロでバレリーナとして美貌と魅力の頂点にある佐久間奈緒を撮影しながらも、実際に彼女の『モーツアルティアーナ』を観ることができたのは7月4日、シーズン最終日のマンチェスターでのことだった。

『モーツァルティアーナ』
瞑想的な「祈り」の場面から始まるこの作品に現れた佐久間は、美貌と豪奢にして繊細な魅力をふるってバランシン作品に君臨。女性的で音楽性に満ちあふれた所作とバランスの妙技を見せ、スターダンサーらしく、自らの個性で作品の冒頭から終わりまで観客の目を奪った。
相手役のケイリーは、跳躍の一つ一つを優美にまとめ、ダンスール・ノーブルらしく始終主役の佐久間を立てる姿に好感が持てた。
優美にして音楽を視覚化してみせることに長けた佐久間とケイリーは、「バランシン・バレエはかくあるべき」という模範と、観る者の目に音楽と振付の余韻や美しい残像を刻み、忘れ難い。

一方、6月19, 20日(昼夜)の3公演と7月4日の(昼)に同作品を踊った平田桃子とアレクサンダー・キャンベル組は、作品に多く盛り込まれている旋回技ピルエットのかけあいに見ごたえがあった。平田が3回転、4回転を披露すれば、キャンベルも技でそれに答えるのである。だが技術に溺れず、あくまでも芸術としてそれらの美技を披露する二人の姿に、このペアの豊かな将来性を感じた。

私が二人を初めて見た6月19日、キャンベルは作品を2, 3度通しで習っただけで急遽デビューしたと聞いたのだが、観客であるわれわれにはとてもそのようには感じられなかった。同じ作品を踊って優美なケイリーに対して、男性的で包容力にあふれ、観る者の心を鷲掴みにして離さない魅力の持ち主である。
これまでロバート・パーカー、曹馳と相手役に恵まれた佐久間奈緒に続いて、平田桃子もまた素晴らしい相手役にめぐり会ったものだと、感慨深かった。

6月19日、先輩ダンサー3人の降板により『2羽の鳩』の男性主役に急遽デビューしたのはジョゼフ・ケイリー。男性主役にとっては、演技、ソロ、難解なサポートと、本来であればとても数回のリハーサルで踊れる作品ではない。だがケイリーの親しみやすく茶目っ気あふれる個性は、この作品の1幕のストーリーには似合いで、相手役のナターシャ・オートレッドとともに観客の心を温かい感動で満たしたのであった。

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『2羽の鳩』

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現在イギリスで、このバレエを踊る最高のペアといえば、佐久間奈緒とロバート・パーカーである。
佐久間が英国ロイヤル・バレエ団創立75周年記念ガラ公演で、エリザベス女王陛下の見守る中、『2羽の鳩』を踊り、パ・ド・ドゥだけでファンや関係者の多くを思わず落涙させたことは、今も語り草になっている。バレエ団プリンシパルとして『ジゼル』のタイトル・ロール、『アーサー王 part2』の王妃グィネヴィア、『火の鳥』など多くの当たり役を持つが、『2羽の鳩』の少女役も女優バレリーナ、佐久間の魅力を国内外に伝えて止まない作品の一つなのである。

『2羽の鳩』は、絵描きの若者が、自らのミューズである美しい少女の魅力に飽き足らず、自由に生きるジプシーたちやジプシー女に心惹かれて、家を後にする。だが結局はジプシーたちに利用、翻弄されて、心身ともに傷つき、恋人の元に戻り許される、という物語バレエ。

6月20日(夜)は、パーカーが怪我をおして主演。佐久間・パーカーという『2羽の鳩』のゴールデン・カップルの競演に、ファンや関係者が狂喜乱舞したのはいうまでもない。
佐久間は1幕にアトリエで友人たちを率いて踊る場面でのスター性、パーカーにリフトされる場面で見せる白い鳩が飛翔するような輝きが見事であった。
パーカーは全編を通じて演舞に優れ、特に2幕のPDDの難解なサポートとアシュトンらしい特徴ある振付を踊る姿に、彼が現在ダンサーとして非常な円熟期にあることを感じさせた。
ファーストキャストはジプシー・ガールのエリーシャ・ウィリス、ジプシー・ラヴァーのドミニク・アントヌッチ、ジプシー・ボーイの山本康介と準主役にもバレエ団のスターが総出演。主演の二人とともにロンドンから駆けつけたファンから地元の親子連れまでを大きな感動で満たした。

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シーズン最終日7月4日(夜)にマンチェスターでこのバレエを踊ったのはアンブラ・ヴァッロと曹馳。
98年のヴァルナ・コンクール金賞受賞者の曹馳は、バレエ団入団時から技巧派として知られるが、ここ数年は演技者としての成長著しく、この日も演技にダンス・テクニックに非常な充実を見せ、現在イギリスでパーカーと共に、この作品の男性主役の双璧をなす。美貌と技巧に冴えるヴァッロとは似合いのペアで、ジプシー・ガールを踊ったキャロル・アン・ミラーの好演とともに、シーズン最終日を見事に締めくくった。

バレエ団は新シーズン初めの9月にビントレーの新作小品世界初演を予定している他、『シラノ』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』という古典とビントレー振付の物語バレエ全幕作品を上演する他、3月には本拠地をバーミンガムに移してから20周年を祝う記念ガラ公演も予定されており、内外に話題を提供しそうである。

シーズン終わりにミラー、カマフィールド、オートレッド、ボンドら4人のプリンシパル昇進が発表されたことは7月号で触れた。残念なのは山本康介のプリンシパル昇進がなかったことである。数年前から踊り手として演技者として、非常な充実を見せる山本なら今年といわずプリンシパルになっもおかしくはなかったと感じる在イギリスのバレエ関係者は決して私だけではないと確信している。
(6月19, 20日昼・夜 バーミンガム・ヒポドローム公演。7月4日マンチェスター、ローリー昼・夜。7月19日ドレス・リハーサルを撮影)

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