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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.10.10]

●アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター、3年ぶりの英国公演

アメリカにおける、アフリカ-アメリカ文化の象徴として語られることの多いアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターが、3年ぶりとなるツ アーのために来英。ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場は、会期中、リターンチケットを求める長蛇の列が毎日、しかも日を追うごとに長くなるほどの盛り上 がりをみせた。

今回のイギリス・ツアーのためにカンパニーは二つのプログラムを用意した。どちらもアルヴィン・エイリーが振付けた『リベレーションズ(啓示、もしくは 黙示録の意)』で締めくくり、他は過去10数年の間に創作された作品によって構成されていた。初見のカンパニーであるのと、アメリカ文化から遠く離れた日 常を送っている者にとっては、すべてが新鮮だった。反面、図らずもカンパニーの迷いといっていいのか、独自性をエンターテイメントにおくのか、それとも芸 術面におくのかがはっきりしなかった。カンパニーが試行錯誤を繰りかえしている、そんな印象をいくつかの作品から感じた。プログラム1は、『Love Stories』、『Vespers』、『Solo』、『Revelations』、プログラム2は、『Shining Star』『Caught』『Reminisci'』そして『Revelations』という構成。
2004年に、カンパニーの芸術監督であるジュディス・ジャミソンが、ロバート・バトルとレニー・ハリスとともに振付けた『ラヴ・ストーリーズ』。音楽はこれも含めてすべてテープを使用。『ラヴ・ストーリーズ』にはスティーヴィー・ワンダーの音楽が使われていた。


『リベレーションズ』

『リベレーションズ』

『リベレーションズ』

一人の男性ダンサー(クリフトン・ブラウン)が舞台に現われ、ごく自然に身体を動かし始める。その動きはしなやかで柔らかく、また彼の技術が素晴らしい こともすぐに判るものだった。しばらくすると彼を含め男女各5人のダンサーが現れ、時に男女のペアで、時に同性のペアで舞台の中心で踊る場面が続き、「普 遍的な友情を表す振付なのか」、と感じた。各新聞のレヴューによれば、ここまでがジャミソンが振付けたパートとのこと。
が、後に続く、ソロ、デュオ、そして群舞のどのパートも、観ているうちに息苦しさを感じ始めた。
どのダンサーの踊りも素晴らしいものだった。高い跳躍、頭上まで難なく上がる脚、空気を切り裂くような俊敏な動き。機械のようとはいわない。人間の身体 機能の極上の美を見ているよう。しかし、振付家が意図したであろう動きを寸分たがわず再現し、全く乱れることなく踊るダンサーを見ていると、「これを踊ら なければ」、という使命感から彼らは踊っているのではないか、と思い始めた。更に、一瞬、一瞬がピークという感じで、観ているこちらがパフォーマンスに入 り込めるスペースが舞台上にないようにも思えた。

これは後に続くユリシス・ダヴによる、黒のシンプルな膝丈のドレスをまとった女性6人が踊る『ヴェスパース(夕べの祈り)』(1986年)や、「プログ ラム2」でのジャミソン振付の「リミニッシ(思い出を語る)」(2005年)でも同様の印象をもたざろう得なかった。特に『ヴェスパース』の何かへの恐れ から逃れるために身体を動かしている、というように見えた振付からは「祈り」を感じることは出来なかった。またパーソンズの『シャイニング・ス ター(2004年)は、なつかしのディスコ音楽に乗って華やかな印象はあるのだが、振付の意図がどこにあるのかはっきりしないように感じた。

『ヴェスパース』

『シャイニング・スター』

『ラヴ・ストーリーズ』

それぞれのダンサーの技術や表現力は素晴らしいものであり、このような印象を持ったのは、どちらかというとマネジメントサイドの焦りからという感じがす る。今でも影響力の強いアルヴィン・エイリーの名前を掲げていくためには、自分たちのアイデンティティを明確にする作品を取り上げなければならないんだ、 そんな模索が作品の選択に影響を及ぼしているように思える。
逆に、作品選択がつぼにはまると、彼らのパフォーマンスの楽しいこと。男性3人が交互に超人的な動きを披露したかと思うと、時にコミカルに踊る、ハン ス・ファン・マーネンによる『Solo』(1997年)、カンパニーのスター、クリフトン・ブラウンの圧倒的なパフォーマンスに会場中が沸騰したパーソン ズの『コート』(1982年)。そしてカンパニーのシグニチャー・パフォーマンス、アルヴィン・エイリー振付の『リベレーションズ』(1960年)。これ らのパフォーマンスから感じたのは「使命感」ではなく、「観客の皆さんにこの踊りを見せることが出来て嬉しいんです」、そんなダンサーの喜びだった。

  ダンサーで印象が強かったのは、クリフトン・ブラウン、特に『コート』で見せた技術。高いジャンプや俊敏な動きもさることながら、ほんの10センチくらい のジャンプをフラッシュにあわせて続ける完璧なボディ・コントロールには眼を見張った。また、最後のフラッシュにあわせてすとんと舞台に着地すること(そ れともジャンプしようとしたのか)で、宙に浮いていたのではなく、本当に跳躍を繰りかえしていたことを観客に知らせるしゃれっ気を持ち合わせている所に、 一流のエンターテイナーであることも納得できた。
他には、『リベレーションズ』の「Fix Me, Jesus」パートでのリンダ・セレステ・シムズとグレン・アレン・シムズによるデュオ。舞台にはいない誰かに語りかけている、聳え立つ山の高みにたどり 着くために無心に登りつづけている、そんな印象を受けた。静かな中にも、内に秘めた強い意思が感じられる踊りからは、カンパニーの出発点を見るようだっ た。(サドラーズ・ウェルズ劇場、9月5日、6日)

『コート』