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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.09.10]

●キャラクター・アーティストの輝き

2004/05のシーズン、ご存知の通りロイヤル・バレエはカンパニーの礎を築いた振付家、フレデリック・アシュトンの生誕100年を盛大に祝った。ア シュトンの作品は、同じ振付家が創作したものとは容易に思えないほどヴァリエイションに富み、その作品数も尽きることがないのでは、と思われたほど。

プリンシパル・ダンサーから、コール・ドに至るまでカンパニーのダンサーすべてが輝き、バレエファンとして至福のシーズンを過ごせた。そんな中から、誰 が一番すばらしかった、と言うのは無意味だが、語られることがさほど多くはないキャラクター・アーティストについてひとこと。

どのランクのダンサーも、踊るキャラクターは日によってばらばらなのは、言うまでもない。例えばプリンシパル・ダンサーなら、マノンを踊った数日後には リーズを、なんてことも有るだろう。が、同じくらい多くの、しかも全く趣が異なる役を演じるキャラクター・アーティストの存在がどれほど舞台を引き締め、 舞台で紡がれていく物語の印象をより深めるか、ということを今年ほど強く感じた事はない。例えば、ウィリアム・タケットは今年の1月から4月にかけて、 『リーズの結婚』のシモーネ、アランの父親、『マノン』では看守とムシュー・GMを、そして『エニグマ・ヴァリエイション』ではニムロドを演じた。どれも 本当に同じダンサーが演じているのかと唸ってしまうほどの演じわけで、彼がいなかったら舞台の印象がかなり薄まってしまっただろと思う。

  中でも鮮明に思い出されるのが、シーズン最後を飾った『田園の出来事』での、クリストファー・サンダーズの演技。主人公のナタリアの心がベリヤエフヘと 移った事を知ったときに見せた、恐らくベリヤエフの若さに対しての、凍りつくような嫉妬の炎。その後、ナタリアがベリヤエフを突き放したときには、ほんの 一瞬、唇の片方の端を、見えるか見えないかくらい微かに歪めながら酷薄な冷笑を浮かべていた。正直な所、「どうしてそこまで演技するのだろう?」、と思っ た。

が、バレエが終わって感じたのは、サンダーズが演じたキャラクターの心情、更に他の登場人物達の複雑に絡み合ったそれぞれの想いが、最後に一人、ナタリ アに収斂することで、彼女の悲しみはより鋭く描き出されたのではないかと。深読みかもしれないけど、あの冷笑がなかったら、ナタリアの悲しみはこれほどま で心には響いてこなかったのではないかと思えてしまう。

2006年5月15日に、ロイヤル・バレエは創立75周年を迎えます。アナウンスによれば、2005/6、2006/7の2シーズンに渡って特別な催しが計画されているとのこと。詳細を随時こちらでお知らせできればと思っています。

『田園の出来事』
シルヴィ・ギエム
ジョナサン・コープ

●ロイヤル・バレエのジョナサン・コープが引退

日本では先にアナウンスされていたようですが、ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサーのジョナサン・コープの引退が、8月30日に発表されました。

今後は、レパートリー教師としてカンパニーに残るようです。が、2004/05シーズンの彼のパフォーマンスは、アシュトン、マクミラン、バランシン、 更にウィールドンのどの演目でも素晴らしく、まさか、これほど急に引退が発表されるとは、思ってもいませんでした。 カンパニー創立75周年の来年5月に、彼の姿をダンサーとしてロイヤルのステージで観ることが出来ないのは残念でなりません。

この発表に伴い、既に発表されていた2005/06シーズンの『マルグリットとアルマン』、『マノン』、『シルヴィア』からは降板。 ダンサーとしての最後の舞台は、2006年2月6日と23日のフォーキンの『火の鳥』で、共演は吉田都さんの予定です。

ロイヤルのホーム・ページでコープはこう語っています。
「これほど長い間、ダンサーとしてやってこられたのは、自分自身、幸運だったと思います。アシュトンとマクミラン(が活躍した時代)を含む一時代に活動できたのは名誉なことだと感じています。 数多くの世界のトップクラスのバレリーナとパートナーを組めたのは素晴らしい思い出です。 特に、シルヴィ・ギエムとの長期にわたるパートナーシップと、私たち二人が舞台上で表現した絆は、これからもずっと私の心に残ることでしょう。 ハイレヴェルな状態で踊りつづけられている間に、キャリアを終わらせることをいつも考えていました。 また、これまでのすべてのキャリアをカンパニーとともに過ごしてきたので、私自身がロイヤル・バレエ団に様々な形で貢献していることを感じています。 なので、これからもカンパニーの一員として残ることは嬉しいことですし、できれば、新しい時代のダンサーたちに、私が学んできたことを伝え渡すことが出来ればそれもまた喜びです」。(筆者訳)