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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.07.10]

●RB『牝鹿』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『田園の出来事』

ロイヤル・バレエ(RB)2004/5シーズン「アシュトン・セレブレーション」最後のプログラムは、ミックス・プログラムで『牝鹿』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『田園の出来事』が上演されました。
ブロニスラワ・ニジンスカ振付の『牝鹿』は1920年代の上流階級のハウスパーティーを描いた作品。芸術家のコラボレーション(マリー・ローランサンの美 術とフランシス・プーランクの音楽)と、その時代の社会や流行を見事に描写しているバレエ・リュス作品として非常に興味深い作品です。ニジンスカの振付と ローランサンのピンクを基調にした美術が創り上げるイメージは、上流階級のパフュームが香るような女性らしい華やかさが印象的でした。シャネルルックにシ ガレットをくゆらす女主人公を演じたゼナイダ・ヤノウスキー。ゼナイダならではのエレガントで魅惑的な表情と仕草を見つめていると、1920年代のフラン スにタイムスリップスした錯覚を覚えました。


アシュトンのコヴェント・ガーデン デビュー作『シンフォニック・ヴァリエーションズ』はセザール・フランクの『ピアノとオーケストラのための交響的変奏 曲』に振付けられた神秘的な抽象バレエ。シンプル極まりない舞台空間に浮遊する滑らかな動きと、空間を切るクリアーなフットワークのコントラストはまさに アシュトン・バレエ。ピュアムーブメントのみが創りだす研ぎ澄まされた美が特徴的です。主役を踊ったアリーナ・コジョカルは彼女の特徴である柔軟な上半身 とアームス、クリアーなアラベスクのラインで観客を魅了しました。そして数年前まだコール・ド・バレエの一人だったアリーナが、怪我をしたダンサーの代役 でセンセーショナルなデビューを果たしたように、この作品でROH中の観客の目を奪うスターが生まれました。怪我をした佐々木陽平の代役として大抜擢され たのは、今シーズン初めロイヤル・バレエ・スクールからRBに入団したスティーブン・マッカリー(2003年国際ローザンヌ・バレエ・コンクール受賞 者)。他2人のプリンシパル・ダンサー(ボネリとコボー)と舞台上に並んでもまったく引けを取らない強い存在感、そして刃のように鋭いシソンヌは目に焼き ついています。


プログラムの最後を飾ったのは、ショパンの音楽に振付けられたアシュトンの恋愛悲劇『田園の出来事』。シルヴィ・ギエム演ずるナタリア・ペトロヴァから は、決してアシュトン・バレエという印象を受けることはありません。しかしシルヴィは、妻であり、母であり、女であるというナタリア・ペトロヴァの3つの 異なる面を繊細に演じ分け、そのそれぞれに異なる女性像は誰もが恋に落ちてしまうのが不思議でないほどの魅力に溢れていました。マッシモ・ムッル演ずるベ リヤエフは青年らしい誠実さと情熱溢れる役作りが印象的でした。今回ダブルキャストでナタリア・ペトロヴァを演じたのは、今まであまり女優バレリーナとい う印象のなかったダーシー・バッセル。ダーシーのしなやかな上体がベリヤエフに対する熱情を美しく表現した、と新聞評で高く評価されています。ダーシーの 相手としてベリヤエフに抜擢されたのはファースト・アーティストのルパート・ペンファーザー。まだ若いながらも安定感のあるテクニックと気品溢れる存在感 で素晴らしいデビューを果たし、今後の彼の活躍が非常に期待されます。


6月18日の公演はシーズン最終日にあたり、今シーズン限りで引退となるピアニストのフィリップ・ギャモンの演奏はいつも以上に叙情的で、涙が出るほどに感動的でした。劇場全体が彼の40年にわたるRBでの功績を称える大感動のカーテンコールとなりました。
(2005年6月2日~18日、ロイヤル・オペラ・ハウス)