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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.06.10]

●クリストファー・ブルース新作『スリー・ソングス- トゥ・ヴォイシィズ』&アシュトン『ザ・ドリーム』

全幕作品と小作品を集めたミックスプログラムをバランスよく上演している今シーズンのロイヤル・バレエ(RB)。 アシュトン作品のみならずマクミラン、ビントリーなどのブリティッシュ・コレオグラファー作品を比べて観ることの出来るミックスプログラムでは、 イギリス・バレエの歴史的流れやそれぞれのコレオグラファーの特徴、RBダンサーのそれぞれの魅力をはっきりと見ることができ、バレエのまた1つ違った楽しみ方が出来る気がします。  5月12/17/20日に上演されたミックス・プログラムは、アシュトン(『ザ・ドリーム』)、マクミラン(『春の祭典』)作品に並び、クリストファー・ブルースの新作という3プログラムになりました。

現代の代表するイギリス人コレオグラファーの一人、元ランベール・ダンス・カンパニー芸術監督クリストファー・ブルースによる新作は、 3月にウィールドンの新作がキャンセルとなった今シーズンのRB唯一の新作となり、注目を集めました。

『スリー・ソングス トゥ ヴォイシィズ』
チャップマン、ヤノウスキー、ロッホ

作品にポピュラー・ミュージックを使用することで有名なブルース。 今回は、伝説的ギターリスト ジミ・ヘンドリックスの音楽をヴァイオリニストのナイジェル・ケネディがアレンジしたアルバム『ザ・ケネディー・エクスペリエンス』から3つの曲 (「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」、「リトル・ウィング」、「ファイヤー」)を使用。『スリー・ソングス- トゥ・ヴォイシィズ』と題された作品はヘンドリックスの音楽とヘンドリックスとケネディーと言う音楽家へ対するブルース自身の深い想い入れがインスピレーションとなったようです。 60~70年代のヒッピー風イメージの作品はフレアーパンツにフリンジの巻きスカート、長い髪に太めのヘアーバンド、派手な色使いのベストとまさにヒッピーファンションのコスチューム。 そして作品全体から漂うピーピー文化から思い起こされるけだるいイメージや何かに反抗する強いエネルギーが特徴的でした。 ムーブメントはブルース特有のクラシックとモダン・コンテンポラリーの絶妙なバランス。 カニングハム・テクニックをベースにしながらも常にパートナーとのコンタクトを欠かさない動き、空間を滑る流れるような動き、ウェイブのように動かすアームス、 そしてソシアルダンスの要素を取り入れ、まさにブルース作品と言える期待通りのイメージでした。


チャップマン、ヤノウスキー

ロッホ、ステパネク

メインとなった3組のソリスト:ゼナイダ・ヤノウスキー&ゲイリー・エイヴィス、タマラ・ロッホ&ヨハネス・ステパネク、ディードル・チャップマン&リカルド・セルベラ、 この6人のコンテンポラリー・ダンサーとしての非常に強いテクニックは、バレエとはまったく異なる重力の使い方や動きが空間に描き出すラインを強調する、 ブルース特有のヴォキャブラリーを完璧にマスターしていたように思えます。 「もしこの作品をランベールのダンサーで観ることがあったら、まったく違う動きの質の印象を受けるだろうな…」と思えるRBダンサーならではのクリーミィーな動きの質感が非常に興味深いものでした。 イギリスの新聞評ではメインの6人のダンサーの好演は非常に高い評価を受けていますが、作品としてはへンドリックスの音楽がどのようにこのコレオグラフィー/作品に反映されているのか、 RBにこの作品を振付ける意味(理由)などが問われています。

アシュトンの代表作品の1つ『ザ・ドリーム』はアシュトン・バレエならではのユーモア/テクニック/音楽性/ドラマ性すべてを堪能できる作品です。 今回の再演で最も印象的だったのは、この一年を通してアシュトン・バレエを踊りこんだコール・ド・バレエの表現力の高さでした。 妖精の幻想的なイメージ、まるでティンカーベルが飛んでいるかのように通った道筋に綺羅星が飛んでいる錯覚を覚える妖精ならではの軽やかさと切れは、観ている者をまさに夢の世界に引き込みました。

タイトルロール(タイターニアとオーベロン)を演じたのは[アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボー]と[リアン・ベンジャミン&エドワード・ワトソン]の2組。 アリーナは音と動きのクリアーさ、そしてアラベスク・バランスの長さやピルエットのコントロールなど驚異的な技術の高さで観客を魅了しましたが、 あまりにも切れのいい動きに幻想的な妖精のイメージを受けることが出来ませんでした。 インドの少年をオーベロンと取り合いをするシーンでも子供に対する愛情がまったく感じられず、非常にクールな女王の印象を受けました。 コボー演ずるオーベロンも、スローなアチチュード・ターンからまさに霧を起こすようなスピーディーなピルエットまで信じられないほどのコントロール力とスナップショットのように目に焼きつくジャンプは非常に印象的でしたが、 その姿からはどこか妖精王の威厳溢れると言うよりは怖さを覚えさす冷たい印象を受けてしましました。 一方リアン・ベンジャミンとエドワード・ワトソンはテクニックという観点ではコントロールやバランスを少し失ってしまったところが見られても、 全体的な動きの流れが描き出す美しさが作品の夢幻的なイメージそのものを映し出していました。リアン演ずるタイターニアは身体から歌声が聞こえるように詩的で温かみ溢れるイメージが印象的でした。 オーベロン デビューとなったワトソンは女性のようにしなやかで伸びのあるアラベスクのラインが、時にはオーベロンの激しい気質をある時には妖精の魅惑的イメージを描き出しとても印象的でした。 また彼の手と目の表現力とそのインパクトの強さはまさにアンソニー・ダウエルのイメージを思い起こさせ、ロイヤル・スタイルを受け継ぐ男性ダンサーの一人としての成長・活躍が期待されます。

『ザ・ドリーム』
アリーナ・コジョカル

ヨハン・コボー
アリーナ・コジョカル


ヨハン・コボー

ジアコモ・チリアチ

リアン・ベンジャミン

(5月12・17日、ロイヤル・オペラ・ハウス)