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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.02.10]

●アシュトン版『ラ・フィーユ・マルガルデ』のニュニアスとアコスタ

「アシュトン100セレブレーション」としてアシュトンの最高傑作の一つ『ラ・フィーユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)』が1月19日からロイヤル・オペラ・ハウスで上演されています(4月2日まで上演予定)。
とある農村の若い恋人同士と親子の長閑な姿を描くアシュトン版『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』は1960年の初演以来、非常に人気の高い作品の一つとして 上演され続けています。その特徴はユーモア溢れる鶏の踊り、男性ダンサーによって演じられるリーズの母:未亡人シモーヌの木靴の踊り、リボンを多用する踊 りやマイムなどアシュトン・バレエ として特徴的な演出だけではなく、若さやエネルギーの象徴とでも言うべきジャンプやターンの連続というテクニックを十 二分に魅せる振付と言えるでしょう。

今回、ロンドンでの上演は2000/2001シーズン以来4年ぶりとなり、多くのファンにとって待ちに待った再演となりました。この4年という年月はカン パニー・メンバーをがらりと変え、今回主演(リーズ&コーラス)が予定されている5キャスト10人のうち6人が初挑戦となりました。

初 日を飾ったのは、リーズ初挑戦となったマリアネラ・ニュニアスと経験者のカルロス・アコスタ。マリアネラは明るさ/純真さ/エネルギーに溢れ,茶目っ気 たっぷりのリーズを見事に演じました。第1幕1場のリボンのヴァリエーションの後家に入っていくシーンで、開くはずのドアーが開かなかった際のリアクショ ン(腰に手をあてふくれっ面をして、足を踏み鳴らして、壁の隙間に入っていくように舞台袖に入っていった)は演出と間違えたほど彼女ならではのリーズの キャラクターでした。2幕のマイムシーンでは、見つめているだけで微笑ましく、心温まるキャラクターがとても印象的で、マリアネラの表現力の高さを確信さ せました。クリアーなフットワーク、はじけるようなジャンプ、音楽をたっぷりと使った伸びのある踊りなど技術面でも彼女の魅力は十分に発揮され、ここに新 たなアシュトン・バレリーナが誕生したことを皆が確信しました。

アコスタ演じるコーラスは底抜けに明るく純真。床がトランポリンなのではないか?と思ったほどにエネルギー溢れるジャンプは、若さと希望に満ち溢れるコー ラスのキャラクターを見事に映し出していました。第1幕のリボンのパ・ド・ドゥウではリーズ初挑戦で緊張を隠すことのできないマリアネラをさりげなくフォ ローする姿からはこの恋人同士の信頼関係や愛情の深さが見えてくるようでした。今まで演技派というイメージを持つことのできなかったアコスタですが、陽気 なエロール/ランチベリーの音楽が彼の身体から奏でられているかのような音楽性と表現力の豊かさは、彼の印象を新たにしました。新聞評でも前回の上演より も比べられないほどに表現力が豊かになっていると、とても高く評価されています。

アコスタ


ニュニアス、アコスタ

ドリュー、ニュニアス、タケット

第2幕

ウィリアム・タケット演ずるリーズの母の未亡人シモーヌは、リーズに対する愛情溢れる役作りが非常に印象的でした。その演技は、いかにも「男性が女性を演 じている」という不自然さや「笑わせよう」と無理にキャラクターを作り上げているものではなく、観客の心を和ますものでした。ここにアシュトン・バレエに おけるパントマイム・デーム(男性が中年女性役を演じる)のエッセンスがあるのかもしれません。タケットのその優れた役に対する洞察力とその表現力は誰も が認めるほど。ダウエル版『白鳥の湖』のロットバルト役でもその存在感と演技力は他のキャラクター・アーティストとは比べることのできないほど。この 『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』初日の大成功はタケットの存在がとても影響しているように思います。

今後の公演ではアリーナ・コジョカルとロベルタ・マルキス/イヴァン・プトロフ、ヴィアチェスラフ・サモドゥロフ、シアゴ・ソアレスがリーズ/コーラスに初挑戦します。新たなアシュトン・ダンサー誕生に期待が寄せられています。
(2005年1月19日、ロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン)