ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.02.10]

●イングリッシュ・ナショナル・バレエのヌレエフ版『ロミオとジュリエット』

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が『くるみ割り人形』の上演に引き続き、ロンドン・コロシアムでルドルフ・ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』を上演しました(2005年1月11日~15日)。
27年前の1977年ルドルフ・ヌレエフがENB(当時ロンドン・フェスティバル・バレエ)に創作した『ロミオとジュリエット』は、初演以来ENBの人気 プログラムとして上演を重ね、今回のロンドン・ツアー3日目の舞台は333回目の公演となりました。

ヌレエフ版の特徴はルネッサンスという時代背景の強調と、キュピレット家とモンテギュー家の激しい憎しみ/対立が鮮明に描写されていることです。それはま るで芝居を観ているようにパワーフルですが、恋愛物語と言うよりは全体的に血なまぐさく、重苦しい雰囲気が漂います。一方、町人たちの決闘シーン、乳母を からかうマキューシオとベェンヴォリオ、マキューシオの死に際などの演出は非常に子供っぽく、悪ふざけが過ぎているように思えました。貴族社会の重々しい 雰囲気に対して若者たちの無知な行動やその姿、それらの描写のコントラストが物語をさらに悲劇的なものにするのかもしれませが、どこか好感を持つことがで きませんでした。

同 じプロコフィエフの音楽でも、マクミラン版を観ている時とはまったく異なる音楽に聞こえてきます。シェイクスピアの原作に限りなく基づくように、マンチェ アに追放されたロミオの元にロレンツォ神父からの手紙を届けるジョン神父が襲われるシーンなどいくつかのシーンが挿入されていますが、この追加的なシーン のために音楽の流れが崩されてしまっていることが個人的にはとても気になりました。音楽的とは言いがたいヌレエフの振付は「一体どういう感情からそのス テップ/ムーブメントは出てくるのだろうか?」と問いかけたくなるほどに機械的で、時にはレッスンのアンシェヌマンに見えてくることもありました。もし現 役時代のヌレエフでこの作品を観ることが出来たら、どれだけ爽快なことだろうか…と思われるアレグロジャンプやビーツ、ターンの連続は、特に男性ダンサー にとって想像を絶するテクニックの高さが要求されることでしょう。

ロ ミオを演じたヤット・セン・チャンはヌレエフ・ステップをクリアーに見せるほどに安定したテクニック、オフバランスに自然に流れる動きのなめらかさがとて も印象的でした。異なるキャストではマキューシオを踊っているチャンは3枚目の雰囲気を残しながらも情熱溢れるロミオを演じました。ジュリエットを演じた シモーヌ・クラークはバーミンガム・ロイヤル・バレエ出身。彼女の表情豊かなアームス、気品溢れる表現力からはロイヤル・スタイルの香りがします。男性と 同じ振りを同時またはユニゾン的に繰り返すヌレエフ特有の振付の中で、彼女のシャープなつま先、ポアントの音がまったく聞こえない動きの軽やかさが非常に 印象的でした。

7月には『白鳥の湖』(デレク・ディーン版)に続く、円形劇場版『ロミオとジュリエット』(デレク・ディーン版)の上演がロンドン・ロイヤル・アルバー ト・ホールで予定されています。プロセミアムアーチの舞台とはまったく異なるスケールの円形劇場で、どのような『ロミオとジュリエット』が上演されるのか 非常に期待されています。他にも、10月にはヨーロッパ初上演となる、ケネス・マクミラン版『眠れる森の美女』が予定されており、今後のENBの公演が注 目されています。
(2005年1月13日、ロンドン・コロシアム、ロンド)