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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.01.10]

●ロイヤル・バレエ クリスマス・シーズン『シンデレラ』

ロイヤル・バレエ(RB)2004/5クリスマス・シーズンはアシュトンの『シンデレラ』とダウエル版の『白鳥の湖』という非常に人気の高いレパートリーが同時に上演され、 連日ほぼ満員のロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)はまさにクリスマスの盛り上がりを見せました。 「アシュトン100セレブレーション」の中心的プログラム『シンデレラ』は12月2日から1月14日まで18公演の予定が組まれました。

アシュトンの全幕作品第1作目、英国初の全幕作品として『シンデレラ』は1948年に初演され、以後RBの象徴的作品としてクリスマス・シーズンに上演され続けてきました。 1998年以来5年ぶりとなった2003年12月、美術・衣裳デザインが一新された4回目の改訂版-ウェンディー・エリス・ソムズ版『シンデレラ』が発表され話題となりました。 さらにアシュトンとロバート・ヘルプマンの名演以来伝統となっている醜い姉妹をアンソニー・ダウエル&ウェイン・スリープが演じたことは非常にセンセーショナルな話題となりました。

今年も帰ってきたダウエル&スリープの姉妹は、一度見たら決して忘れることの出来ないほどに強烈、昨年よりもさらにパワーアップしていたように思えました。 誰も太刀打ちできない2人の貫禄、存在感は舞台上の他の者をぼやかせてしまうパワーがあります。 2人の演技力はまさに圧巻、スリープ演ずる内気で弱虫な妹を見ていると思わず「可愛い…」と思ってしまいます。 一方ダウエルはあの伝説的なダンス・ノーブルと同一人物とは信じがたいほどの意地悪な姉に変身。細かいリアクションや立ち居振舞は、奇妙なほどに女性以上の女性らしさがあります。 強烈な表情やオーバーアクションはコミカルかつ醜いながらも、その背後に見え隠れする動きの美しさは正統派そのもの。そこにはダウエルのカリスマ性が映し出されています。 イギリスの新聞評では「2人にハイジャックされている」、「やりすぎではないのか?」などの厳しい意見が目立ちますが、私的には2人の名演は決して見逃すことのできないものだと思います。

ファー ストキャストでタイトルロールのシンデレラを演じたアリーナ・コジョカルは、まさにおとぎ話の夢見るヒロイン。 姉たちにいじめられながら働く健気な姿そして舞踏会のプリンセス姿、どちらも心に描くシンデレラ像そのもの。 他の作品では気になる、技術面の発露が表面的に感じられるところがなく、非常に抑えた感情表現とアームスの美しさでアシュトン・バレエの真髄が伝わってき ました。 舞踏会でのシンデレラのソロ、そのコントロールとステップの正確さには目を見張ります。 王子(ヨハン・コポー)とのパ・ド・ドゥで、ピルエットや王子の周りを2周するシェネはまるで魔法のよう、彼女の周りに綺羅星が舞っているような錯覚をお ぼえます。 コポーとのパ・ド・ドゥはうっとりするほどにロマンティック、観ている者をおとぎ話の世界に導きます。 2人のパートナーシップは、かつてのシブレー&ダウエルのように伝説的パートナーシップとして語り継がれるのではないでしょうか。

 その他バネッサ・パルマーは優しさ・暖かさあふれる踊りで仙女を好演。ローレン・カスバートソンの夏の精、ラウラ・モレラの秋の精では、 2人のテクニックの高さと音楽性が非常に印象的でした。昨年の公演で強い印象を与えたローレンの夏の精。「これは誰?」と急いでプログラムを見返したのを今でも覚えています。 伝統的ロイヤル・スタイルと言うべきアームスの美しさと気品、そして驚くほどに安定したテクニック。 昨年よりも一段と表現力豊かになった彼女の踊りは、照り付ける太陽の暑さ、心地よいそよ風、身体を包み込むような暖かさなど非常に抽象的な夏のイメージを的確に表現していました。

イギリスの新聞評ではダンサーの好演に対する高い評価に対して、イラストデザイナーのクリスティン・ハーワーズの衣裳デザイン、 オランダ国立バレエの振付家兼美術デザイナーのトァ・ヴァン・シャイクの美術デザインには厳しい評価が見られました。 ダウエル版やマカロワ版の『眠れる森の美女』でも美術・衣裳デザインの点で非難されたように、 RBの象徴と言うべき古典作品に対してはイギリス人の芸術に対する目が一段と厳しくなるように思いました。 私的にも、ピカッと電気が点く魔法の杖、ドライアイス、紙ふぶきの使用、紙芝居的な背景画、パステル調でショー的ファンタジー性の強い衣裳デザインには、 どこか子供っぽい印象を覚えました。

しかし、作品を観終わった時にこみ上げてくる感動は、まさにディズニーランドで体験するような感動。 子供に戻ったように純粋に感動し、夢を見続けることを思い出させてくれます。そんなマジカルパワーを持つ作品はなかなか無いように思いました。 ピカデリーサーカスにあるデパート、フォートナム・メイスンのショーウィンドーでは昨年クリスマスにBBCで放映された『シンデレラ』の映像が紹介されています。 クリスマス・ショッピングや日々の生活で急ぎ足の人々も、このショーウィンドーの前ではしばしそんなことも忘れて、魔法の世界に引き込まれています。

ROHのショップではアシュトン・セレブレーションとして、1957年に収録されたマーゴット・フォンティーン&マイケル・ソムズというオリジナルキャストによるDVD 『シンデレラ』(白黒映像)が発売になりました。醜い姉妹にはアシュトンとケネス・マクミランが出演という非常に貴重な映像です。 約50年前の『シンデレラ』と今の舞台を比較して観ることによって、どのように作品・振付、アシュトン魂、RBの伝統が時代を経て継承されているかが見えてきます。 (12月2日、ロイヤル・オペラ・ハウス)