ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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船引怜美 text by Remi Funabiki 
[2004.07.10]

●ランダム・ダンス、ウェイン・マックグレガー振付『アタクシィア』世界初演

イ ギリスで最も注目されている振付家、ウェイン・マックグレガーの新作『アタクシィア』が6月3~5日サドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されました。アタ クシィアとは脳が身体の動きをコントロールできなくなる神経組織の機能障害・運動失調症の病名。マックグレガーがこの障害を持った女性に出会ったことを きっかけに、神経科学研究分析をもとに作品創作が始まりました。6ヶ月間に及ぶケンブリッジ大学神経科学科での研究・実験ではダンサーの脳と動きの関係が 分析され、その研究結果を元に『アタクシィア』が創作されました。ダンサーの動きとは脳と身体の関係が最もコントロールされているものですが、その正反対 であるコントロール不可の状態から生み出される動きやエネルギーの追求が作品のテーマとなりました。

マックグレガーの振付スタイルは、スピード感とエネルギー溢れる動きと無脊椎動物のような柔軟なムーブメントが特徴とされます。『アタクシィア』ではその スタイルに加えてコーディネーションを失った動き(ガタガタと崩れるような動きやまるで怪我をしているかのような歩き方など)が展開されました。作品の中 盤、舞台に点在した10人のダンサーがそのスポットはなれずに驚異的スピードで動き続けるシーンでは、観ている観客も目が回ってくるような感覚を覚えまし た。

舞台のホリゾントにはエナメルのような壁があり、その前で壊れたかのように踊るダンサーの姿がまるで乗用車の車体に映る姿のようにぼんやりと映し出されま す。その反射された姿と実際のダンサーを見ることによって同時に起こっている動きの中に異なる質―コントロールされた動きと失った動きを観ることが出来ま した。マックグレガー作品のもう一つの特徴はサイバー・デジタルテクノロジーが駆使された演出です。作品後半ではメッセージ的な映像が多く使用され、ダン サーの動きと映像が個別なものになることなく舞台上に展開されました。ダンサーの衣裳には蛍光素材が使用されていて暗闇で蛍のように光のライン作り、ムー ブメントに新たな印象を与えました。

振付のみならずコンセプト、舞台美術の斬新さが衝撃的でした。医科学の研究・実験がコンテンポラリーダンスの創作過程にこのような形で融合され、それを見 事に実現したマックグレガーの計り知れない才能にイギリス・ダンス界の注目がさらに高まったように思います。(2004年6月4日、サドラーズ・ウェルズ 劇場)