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船引怜美 text by Remi Funabiki  
[2004.04.10]

マクミランの最高傑作『ロミオとジュリエット』


『ロミオとジュリエット』はロイヤル・バレエの最も人気のある作品です。その魅力は、シェイクスピアの戯曲、プロコフィエフの音楽、マクミランの叙情的振付、そしてそのすべてを舞台に体現する優れたダンサーたちです。

初日を飾ったのはアリーナ・コジョカル&ロベルト・ボッレ。今までにはありえなかったキャスティングが実現しました(本来ダーシ・バッセルのキャストでし たが、産休のため変更)。アリーナとロベルトの40cm近くもあると思われる身長差は、様々な点で今までにないロミオとジュリエットを実現しました。ア リーナの踊りは‘空気のような’、‘全く重力を感じさせない’と形容されますが、ロベルトにリフトされるアリーナは、まさにシルクシフォンのドレスが風に なびくような軽やかさ、そして透明。仮面舞踏会でのロミオとの出会い、バルコニーのパ・ド・ドゥは、まさに初恋に酔いしれ、宙に舞う喜びが現されて、今ま でに観たことない印象を受けました。アリーナは子供っぽさのあふれるジュリエットを演じ、初めて人を愛し、その愛をただひたすらに貫く姿が印象的でした。 貴族社会の社会環境と恋愛感情の板ばさみに苦しむ姿、社会的慣習によって死の選択を余儀なくされた悲劇は、あまり強調されていません。彼女の人間を超越し た身体能力とテクニックは、時にはマクミランの振付を異なるもののようにさえ見せました。そこにはなめらかで柔らかいイメージよりも、シャープな感覚があ り、ドラマ性の発露よりも、動きそのものに重きを置いているようなイメージを感じずにはいられませんでした。こみ上げてくる感情がテクニックで示されるよ りも、精神や身体から溢れ出るムーブメントで彼女のジュリエットを観ることができる日が、近い将来に期待されます。

誠実なイメージを与えるロベルトのロミオは、シェイクスピアの原作に描かれた、人生への理解を次第に深め、人間的に成長していく姿はあまり強調されていな いように思えました。それは、ロベルトは完璧すぎるほどのテクニック、貴族の子息というイメージを描く踊り、そして比較的控えめな感情表現のせいかもしれ ません。しかし、今最も理想的なロミオを演ずることができるダンサーは、ロベルトであることは間違いありません。

今シーズンは、シルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュによる『ロミオとジュリエット』も予定されています。次回は全く異なるロミオとジュリエットをご紹介したいと思います。