佐久間奈緒インタビュー

----- まず、佐久間さんとバレエの出会いを教えていただけますか。
佐久間 私の母が小さい頃からバレエが好きでして、母がバレエを習いたかったのですが、できなくて、私を連れてよくバレエを観に行っていました。私はバレエを観るとよく踊ったらしいのです。それで、母が「踊りたい、バレエ習いたいの?」って聞いたら、「習いたい習いたい」、と答えたそうです。それがきっかけでバレエスタジオに連れて行ってもらって始めました。

-----小さな頃からバレエをご覧になっていらしたのですね。
佐久間 ええ、でも始める前のことはあまり覚えていません。もの心ついてから、森下洋子さんの舞台は何回か観ました。中学生くらいになったらは、ロイヤル・バレエ団の来日公演とかは観に行きました。
私はローザンヌ・バレエコンクールでセミファイナルまでいきましたが、その時、審査員にカナダのバレエ学校の校長先生がいらしてて、来年からカナダに来ないかって進められました。けれども私の先生がロイヤルスタイルでしたので、「じつはロイヤル・バレエ学校に行きたいんです」と話したら、その時に、パーティにいらしていたロイヤル・バレエ・スクールの校長先生、メール・パークに紹介していただきました。そして、メール・パーク先生に「じゃあ明日、オーディションを受けたらに来たら」といわれて、すぐその翌日にスイスからロンドンに飛んで、オーディションを受けて、「じゃあ、9月から来て」ということになりました。それが16歳の時ですから、アッパースクールで寮生活をすることになったわけです。

----ロイヤル・バレエ・スクールに入って、戸惑ったことはありましたか。
佐久間 やっぱり、行ってすぐはいろんなことがショックというか、ロアスクールから来ている人が多いし、容姿とかスタイルがすごくきれいで、行った直後は劣等感に捉えられました。日本では普通に学校に行って、放課後にバレエに趣味で通うという生活でしたから、ロイヤル・バレエ・スクールだとほんとにバレエを習いに来たわけで、バレエだけという生活になったので、いろいろなことが日本の生活と違って、ショックは大きかったです。
それからロイヤル・バレエ・スクールでは、男の子たちと組むパ・ド・ドゥ・クラスも初めてでしたし、メイクアップクラスとか、お芝居のステージクラフトクラスとか、コンテンポラリーのクラスもありました。日本ではクラシックのクラスだけでしたので、そこは同じような感じでしたが、そのほかのクラスは経験したことがないクラスでした。キャラクター・ダンスも週1回あってロシアの先生だったと思います。

----ピーター・ライトからディヴィッド・ビントリーに芸術監督が変わった1995年に入団されましたね。
佐久間 ビントリーもロイヤル・バレエ団にいた頃にもたくさん振付をしていましたが、自分のバレエ団を持ってその中で自分の色を作り上げて、作品を上演していく方向が彼自身に合っているということだと思います。
私も一緒でしたが、ディヴィッドがバーミンガム・ロイヤル・バレエ団に入って最初に創った作品が『カルミナ・ブラーナ』でした。ずっと彼があたためていた企画です。
でも、ほかの作品も10年も20年もいつも考えているみたいです。ほんとに若い頃から考えられていた作品が多いようで、『アーサー』にしても10何年考え続けてきたもののようです。1部と2部がありまして、1部を2000年に創って、その後03年くらいに2部を完成しました。歴史的な超大作なので、2時間とか3時間くらいではまとめきれなくて、2部に分けて完成しました。
ディヴィッドが監督になって、最初に『カルミナ・ブラーナ』を上演したわけですが、それまでは前任者のピーター・ライトのクラシック作品が多かったので、リハーサルに入った時は、みんな驚いていました。今まで経験したことのない振りとか音楽の使い方も特徴的でしたから。でも、みんなすぐにピーターとの違いを楽しんでいましたけど。

----佐久間さんが踊られた作品というと。
佐久間 今年の1、2月にはエドモン・ロスタンの戯曲で有名な『シラノ・ド・ベルジュラック』を題材とした『シラノ』を踊りました。ディヴィッドは、この作品をロイヤル・バレエ団で10何年前に1回創っているのですけど、その時は100パーセント満足していなくて、何年か後には創り直すつもりだったそうです。今度は素晴らしい曲を新しく作曲してもらって、大成功でした。全3幕のグランド・バレエで、私も主役のロクサーヌを踊りましたけど、ほんとうに好きな作品でした。
私が主役を踊ったのは、『アーサー』と『シラノ』だったので、その2作品がとても印象的なのです。
『アーサー』は英国の歴史ものだし日本の観客にはなかなか難しいと思いますが、『シラノ』は良く知られた話だし感動するところもあるし、日本で上演できたらいいな、と思っています。
デイヴィッドはとてもユーモアがあって、話の中にもイギリスのジョークとかいつも入ってくるような、すごく楽しくて親しみのある方です。
ピーターの作品からピーター自身が見えてくるのと同じで、私たちからみると、彼の作品には、ああディヴィッドらしさが出ている、と感じます。『ザ・ナットクラー・スウィーティーズ』もとても楽しい作品だし、ジャズ系の音楽を使ってもよく創っています。ああいう作品を日本の観客にも観ていただいたらいいな、と思いますね。音楽もチャイコフスキーの『くるみ割り人形』をジャズにアレンジしていいて、音楽聴くだけでも楽しいですし、『くるみ割り人形』の振りを採り入れながらジャズで踊っているので、すごくおもしろいダンスです。

----ビントリーってすごい多才ですね。
佐久間 そうなんですよ、幅があるんです。彼の作品はジャズっぽいのから、『アーサー』みたいなシリアスなもの、ロマンティックなものやコメディもあるし、いろんな面があるので、ダンサーとしても彼の作品を踊るのはとてもおもしろいです。

----ジャクソン国際バレエ・コンクールで審査員特別賞を受賞されていますね。
佐久間 私はそのころコール・ドで、一応、良い役はいただいていたのですが、自分の力がどのくらいかっていうのを試す機会でもあるし、ほかの外国の人たちがどういう踊りをしているのかも興味がありましたし、いろいろな意味で良い機会だと思いました。それでディヴィッドに話したら「挑戦してみたらいいんじゃないか」と言われましたので。夏休みに入るちょっと前で、公演を逃すこともなかったですし。
また、それが、ディヴィッドにも認めていただくきっかけにもなったのかもしれません。それからソロとか主役とかも踊らせていただく機会が多くなりました。

----主役デビューはどの作品でしたか。
佐久間 主役のデビューはたしか、ピーター・ライト版の『くるみ割り人形』の金平糖のグラン・パ・ド・ドゥだったと思います。

----帰国第1回公演は2004年のピーター・ライト版『コッペリア』ですか。
佐久間 そうです。やっぱり、東京で主役を踊るというのは、初めてだったので緊張しました。
ピーター・ライトは、作品を観ても感じられるように、ほんとに心の温かい方です。この間奥様がお亡くなりになって、今はほんとうにたいへんだと思いますけれど。
彼がバーミンガム・ロイヤル・バレエ団の芸術監督を、ディヴィッドと入れ替わられた時に私は入団しているので、接する機会はあまり多くはありませんでした。でも、ピーターの作品をやる時には彼がきてリハーサルをしますので、お話する機会は何回かありました。『ジゼル』の時も『コッペリア』の時も帰国公演の時は、ピーターがわざわざきてくれました。そして、私がひとりできていることもあって、一緒に食事に行こうとか、誘ってくださることも多くて、いろいろと面倒をよくみてくださいました。


----『美女と野獣』はいつ頃の作品ですか。
佐久間 2003年です。『アーサー』とか『シラノ』に比べるとファミリー向きで、子供も楽しめるし、ご家族で観るにはとても良い舞台です。内容はディズニー版とは少し違って、ジャン・コクトーの映画に似た感じです。ロマンティックなストーリーですし、セットや衣裳がとても豪華できらびやか、獣のかぶり物もすごくたくさん出ます。
ロマンティックなストーリーなんですけど、その中にもディヴィッドらしいコミカルなところもあって、バレエを観たこともない方にも楽しんでいただけるような作品です。音楽は素敵なオリジナル曲です。特に最後に、野獣とベルの感動的なパ・ド・ドゥがあるんですけど、この曲は私も大好きです。
バーミンガムでは、クリスマス・シーズンには、いつも『くるみ割り人形』を上演していたんですか、『美女と野獣』が初演の時に大好評で毎回売り切れだったので、これなら『くるみ割り人形』と平行していけるということになりました。それで『くるみ割り人形』と『美女と野獣』を交互に2年に1回ずつ上演することになりました。

----踊っていて『美女と野獣』の一番難しところといいますと。
佐久間 そうですね、ベル自体はそんなすごく難しいソロがあるわけではありませんが、ずっと出ているので、全体にベルのこころの動きとか表現力とかそういうことが重要です。
野獣に対する気持ちが最初はちょっと怯えというか、怖いんですけど、でもやっぱり「あなたもそんなに悪い人ではない」みたいに、だんだんとこころを許していって、最後にそれが愛情になるんですけど、自分にはそれが愛情とは気づいてなくて・・・。家に帰った後に、野獣のことが心配でやっぱりいつも思っていて、最後に野獣のところにまた戻ってみたらもう手遅れ。その時はほんとにショックで悲しみます。そして彼が王子に変わる時には、彼が変わったということが判ると同時に自分の気持ちもやっぱり愛だったということも判るわけです。そういうベルの微妙でちょっと複雑なこころの動きというのを観てほしいと思います。

----相手が野獣の衣裳を着ているので、踊るのが大変ですよね。
佐久間 大変ですよ! ほんとにたいへんですよ。野獣の人たちというのが、全員マスクをかぶっていて、目の部分が開いているんですけどほとんど見えないらしいんです。それから、鼻の穴しか開いていないので息もきちんとはできないらしいんです。野獣の衣裳もごっつく見えるように、最初にパディングをお尻やおなかや太ももにはめるんです。ほんとにごわごわしていて、そこに獣の毛の衣裳を着てさらにその上に洋服みたいなのを着るので、すごく暑いらしくて息もできにくいので、やってることがほんとに判らない状態みたいになるらしいのです。そういう彼とパ・ド・ドゥを踊る時、その衣裳のために簡単なこともできなくなります。毛がいっぱいあるので、それと私の衣裳だとつるつるすべったりします。だからリハーサルの時から何回か衣裳を着けて踊っているんです。たいへんなんですよ。

----音楽はどのような感じですか。
佐久間 ディヴィッドの振付は、彼はやっぱりすごく音楽性があって曲を聴くとたぶん振りとかもふくらむのだと思います。ストーリー的にもこの音楽はこういう所に合ってるとかいうのがたいへん感じ易いのです。そういうのって振付家としては大事ですよね。
『シラノ』の時も『美女と野獣』の時も音楽家の方と何回も話します。彼がこういうシーンを創りたいと先に作曲者にいうそうです。それでこういうシーンは何分くらいはほしいとか、言って作曲してもらって、それを聴いて、もう少しああしてほしい、こうして欲しい、ここにはもう少しドラマティックな旋律がほしいとか、注文を付けてまた作り上げていく、という感じだそうです。何回もそれをやるそうです。
だから、『シラノ』の曲を私たちダンサーが聴いても、曲を聴いただけでこころが動くような曲になっているんです。最初にあった旋律が最後に、シラノが歳をとってもう少しで死ぬという最後の時に、その旋律がまた戻ってきたりします。そういう旋律がくると回想していくような、同じ旋律が違う感じの聴こえ方でもどってきますから、それを聴いただけで、私たちは涙がでるような感じになっちゃいます。

-----エリザベス女王の即位50周年記念ガラでも踊られました。
佐久間 即位50周年記念のときには、エリザベス女王が各地に回られて、バーミンガムでの記念の公演もありました。女王がこられた時にシンフォニーホールで演奏やダンスのガラ公演があって、今度私が『美女と野獣』を一緒に踊るツァオ・チーと一緒に『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊りまして、それでお目にかかりました。

-----どんな感じの方でした。
佐久間 テレビでみなさんがご覧になるとイメージと同じですけど、ほんとにハキハキされた方でした。みんな緊張していたみたいで、いろいろとマナーがあって
「ハロー」も言えないんです。向こうから何か言われない限りはこちらから言っていけないとか、お辞儀の仕方とかも習いました。でもエリザベス女王ご自身は、もっと気さくな方というか、「どこでバレエをしてたの」、とか、私たちにも話しかけられましたが、やはり厳かな感じでした。

----これからどんな舞踊家を目指していかれるのですか。
佐久間 そうですね、今から先もこれまでも自分としては、テクニックとか技術面だけじゃなくて、やはり表現力の豊かなダンサーになりたい、というのは常々心がけていることです。これからも観ていただく方に感動を与えられたらいいな、というのが一番の目標です。
これからいろいろと、新しい作品にしても古い作品にしても、日本でも踊らせていただく機会が増えていくといいなと思っています。

----本日はありがとうございました。『美女と野獣』楽しみにしています。
(インタビュアー/関口紘一)

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2008年日本公演 >>>発売中
●2008.1/6(日)〜17(木)
●(6−8日)東京文化会館、(15-17日)ゆうぽうとホール
●S席18,000円/A席16,000円/B席14,000円/C席10,000円/D席8,000円/E席5,000円(「美女と野獣」のみ)/学生券3,000円(11/30(金)前売開始) S席親子ペア券=¥27,000/A席親子ペア券=24,000円/B席親子ペア券21,000円 (18歳未満の子どもが対象。9/21(土) 前売開始)
●お問い合せ=NBS http://www.nbs.or.jp

◇『美女と野獣』全2幕
●1/6(日)〜8(火)
●東京文化会館
●出演=(6・8日)エリシャ・ウィリス/イアン・マッケイ、(7日)佐久間奈緒/ツァオ・チー
●開演時間=6日17:00、7・8日18:30

◇『コッペリア』全3幕
●1/15(火)〜17(木)
●ゆうぽうとホール
●出演=(15・17日)吉田都/イアン・マッケイ、(16日)エリシャ・ウィリス/タイロン・シングルトン
●開演時間=18:30

<西宮> 「コッペリア」
●2008.1/11(金)兵庫県立芸術文化センター  0798-68-0255

<大津> 「美女と野獣」
●2008.1/19(土)びわ湖ホール  077-523-7136




 

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