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左右木 健一 
[2014.08.21]

日本人の受賞が誇らしかった、アジアン・グランプリ 2014レポート

アジアン・グランプリ(以下 AGP)は、International Ballet competition for Students & Young Dancersという副題の通り「アジアバレエ界の発展、および才能ある若きダンサーたちが香港に集結する機会を」とSo Hon Wah(香港国籍で初めて香港バレエ団プリンシパルに昇格)が2011年に創設した国際バレエコンクール。

1408asian_04.jpg 表彰式 photo/Conrado Dy-Liacco

4年目を迎えた今年は香港、中国、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、日本のアジア9カ国から167名が参加。5つの部門(チルドレン、ジュニアA、B、C、シニア)に分かれ、7名の審査員により、芸術点、技術点を採点。更に将来性のポイントが加算された合計点と審査員の協議で順位を決定致します。
各部門ラウンド終了のたびに審査員全員が参加者の合計点を再チェック。将来性のポイントが予選時から高い参加者、及び基礎力を磨いて将来に繋げて欲しい、と判断された場合は、スカラーシップ対象者となり、個別にスカラーシッププレゼンターと参加者、保護者、教師が面談。両者が納得した上で表彰式でスカラーシップ授与となります。

1408asian_01.jpg 野条優花 photo/Conrado Dy-Liacco

まずは一番参加者が多く、熾烈な争いを見せたジュニアB(13歳〜15歳)から。女性では日本から参加した野条優花(竹谷やすよバレエスクール)、昨年度の最有望女性ダンサー賞受賞者Long Yi Wen(深圳藝術學校)が非常に安定した演技。男性ではLope Tobias Lim(Steps Dance Studio/Sophia Zobel Elizalde)が『コッペリア』フランツのヴァリエーションを爽やかに踊り、予選から大きな喝采を浴びておりました。この部門の参加者は同じヴァリエーションを3ラウンドにわたり踊る必要があり、いかに毎回安定して演技を見せることが出来るか、が問われました。決選で思いもよらない失敗で順位が下がる参加者が多いなか、むしろ調子が上がり、最終ラウンドで輝かしいオーラを放ったのは野条。彼女の演技を支えた基礎力、精神力は大きな評価に値します。審査員満場一致でユースアジアングランプリ(AGPの若手ダンサーに授与する最高賞)を決定したポイントは、フレッシュな演技と将来性。弱冠13歳、これからが楽しみです。

1408asian_02.jpg Long Yi Wen photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_03.jpg Lope Tobias Lim photo/Conrado Dy-Liacco
1408asian_05.jpg photo/Conrado Dy-Liacco

ジュニアC(16歳〜17歳)、シニアは2つの異なる課題曲を踊る必要があり、年齢的にはプロとしてのスタート地点でもあるこの両カテゴリーは、そうとう厳しい目で審査されたように思います。国際コンクールとしてふさわしい受賞者を輩出しなくてはいけない、というポリシーのもと、3ラウンドにわたり、合計点のみで評価せず、マスタークラスなども含め、審査員全員が徹底的に参加者ひとりひとりの演技について話し合いました。
その厳しい評価のなか、将来性のポイントを多く獲得して見事金メダルを受賞した佐々木麻菜(エスバレエスタヂオ)の『エスメラルダ』のヴァリエーションは、予選時から観客が湧き、決選では割れんばかりの拍手喝采。コンクールという枠を超えて「いつか彼女が主役を踊る舞台が見たい」と思わせる迫真の演技が観客の心を掴んだのだ、と思います。銀メダルのJasmine Pia Dames(Steps Dance Studio/Sophia Zobel Elizalde)非常に小柄な女性でしたが、精一杯身体を使い、観客を感動へと導いておりました。銅メダルの岡本玲奈(Sana Ballet)の『グラン・パ・クラシック』のヴァリエーションは非常に品が良く、安定しており、日本人女性2名の受賞は、私も審査員として非常に誇らしく、今後の彼女たちの活躍を期待しております。
ジュニアCで印象に残っているのは、女性では香港のHanah Fjelddahl(L'Ecole de Jeune Ballet)の『ライモンダ』3幕ヴァリエーション。上半身の美しさ、音楽性、決してオーバーにならない洗練された表現がトータルに美しく、後半テクニック的な乱れがあったものの、その乱れが得点に何ら影響を受けることなく金メダル受賞。AGPがテクニック、身体能力重視のコンクールではない、ということが証明された瞬間でもありました。男性では中国のBo Hao Zhan(深圳藝術學校)の『ラ・シルフィード』ジェームス1幕のヴァリエーション。ブルノンヴィルスタイルをきちんと学んでいたか、といえば修正しなくてはいけない部分があったとは言え、踊る喜びや躍動感という意味においては「もう一度見てみたい」と観客を惹きつける力を持っていると思います。ニュージーランド・スクール・オブ・ダンスのスカラーシップ受賞は彼にとって、大きなステップになることでしょう。

1408asian_06.jpg Jasmine Pia Dames photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_07.jpg 岡本玲奈 photo/Conrado Dy-Liacco
1408asian_08.jpg Hanah Fjelddahl photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_09.jpg Bo Hao Zhan photo/Conrado Dy-Liacco
1408asian_10.jpg Julian Wen-SHeng Gan photo/Conrado Dy-Liacco

ジュニアA(10歳〜12歳)金メダル受賞のJulian Wen-Sheng Gan(Serena Ballet School)はマレーシアの12歳。地味で見せ場の少ない『ジゼル』ペザント男性第2ヴァリエーションで受賞。芸術点のポイントが群を抜いて高く、無理してテクニックを詰め込むことなくひたすら基本に忠実に踊ったのも功を奏しました。彼は昨年、今年とAGPサマーインテンシブプログラム(以下SIP)に参加。そのレッスン態度が評価され、来年度のSIPスカラーシップを受賞。及びキーロフ・アカデミー・オブ・バレエ・オブ・ワシントンDC(以下KAB)のSIPスカラーシップも合わせて受賞。KABのSIP受賞者のLope Tobias Limとの共通点は「基礎力の強化」マレーシア、フィリピン、という、どちらかと言えば男性ダンサーが育つには厳しい環境のなか、この若き少年たちがスターとなり、両国の男性ダンサーのレベルアップに繋げていく機会を与えられれば、という希望があります。

1408asian_20.jpg 表彰式 photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_12.jpg 樋上諒 photo/Conrado Dy-Liacco

昨今「バレエ男子」という言葉も飛びかうくらい、日本のバレエ男子率は高くなり、今回も日本から樋上諒(ヒノウエバレエアート)が参加。ラインが美しいChristiana De Blank(Elmhurst School for Dance)テクニシャンのEugine Pang(L'Ecole de Jeune Ballet)とタイで銅メダル受賞。今後日本の男子参加者が続々と増えていくことを希望しております。
また今回印象に残ったのはジュニアB4位の長谷川七海(L'Ecole de Jeune Ballet)決選での『くるみ割り人形』金平糖のヴァリエーション。香港在住の日本人の彼女は非常に繊細で、しっとりとした控えめな美しさ、作品の解釈の正しさに加え、年齢に相応しい演技を披露したことは、メダル授与の有無に関係なく、高く評価されるべきだと思います。
開催地香港へのアクセスが良いため、普段は滅多に見られない台湾、タイ、インドネシアのアジア諸国からの参加者の踊りが見られたことは非常に嬉しかったですが、やはり基礎力や作品の解釈、という意味においては、まだ発展途上の段階。Youtubeなどによる動画の配信などで情報が溢れる昨今、正しい指導者のもとでヴァリエーションが指導されているか否か、という問題も審査員のなかでも問題視されておりました。

1408asian_13.jpg Christiana De Blank photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_14.jpg Eugine Pang photo/Conrado Dy-Liacco
1408asian_15.jpg 表彰式 photo/Conrado Dy-Liacco 1408asian_16.jpg 長谷川七海 photo/Conrado Dy-Liacco
1408asian_17.jpg マスタークラス photo/Conrado Dy-Liacco

審査委員長のGarry Trinderが表彰式で指導者に伝えていたことは
「スタンダードな振付を尊重すること」
「レベルや年齢的に無理だと判断した場合は、違うヴァリエーションを選択すること。指導者が勝手に振付を変えてまで無理に踊らせない」
「アライメントはもちろん、衣裳やポアントのリボンの処理までをも含めたトータルでの外見をきちんと整える」
など。やはりコンクールは教育の場でもある、というのを実感致しました。
その教育の重要性を考え、AGPでは毎回コンクール開催前の一週間、SIPを開催。今年はCao Jing Rong(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル、チー・チャオの父上)David Yow(英国ロイヤル・バレエ学校教員)など、優れた教師陣によるクラシック・バレエ指導にとどまらず、ピラティス、コンテンポラリー、栄養学、解剖学などの充実した内容で開催され、来年も8月4日〜9日に開催する、との事。AGPは8月10日〜15日を予定。
来年はAGP5周年の節目にあたり、ガラ公演も計画されております。日本でもコンクールが盛んな夏のシーズン中の開催ではありますが、国際コンクールの雰囲気を日本から3時間半弱のフライト、1時間ほどの時差の負担で味わえる、という利点もあるので、今後、日本から数多くの参加者が香港に訪れてほしいと思います。
西洋から生まれたバレエという芸術に少しでも携わりたい、というアジア人の熱意は、欧米諸外国の身体能力や容姿に恵まれたダンサーたちを越えられるのではないか、と思います。So Hon Wahと彼を支えるサポーティングメンバーたちのバレエに対する熱い情熱のもと、香港の地に優れた若き才能が集結して、AGPから次世代のアジアのスターたちが羽ばたくことを願ってやみません。

アジアングランプリホームページ
http://www.asiangrandprix.com

1408asian_18.jpg SIPの模様 ©Serena Tan 1408asian_19.jpg ワークショップを指導する左右木健一 ©Serena Tan