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関口 紘一
[2016.06.27]

開幕直前ルポ
大島早紀子+白河直子の最新作『エタニティ』、いよいよ開幕!

H・アール・カオスの大島早紀子と白河直子による、新作『エタニティ』がまもなく開幕する。オペラ『ファウストの刧罰』演出・振付以来6年ぶりとなる新作公演だけに大いに期待している。そしてこの記事を書いている頃から、既にソールド・アウトになってしまったという。今日のダンスの観客がH・アール・カオスの新作をいかに待望していたか、それが如実に現れたのであろう。
今回の新作は、大島早紀子の演出・振付による白河直子のソロ作品。H・アール・カオスでは2010年には『瀕死の白鳥』を初演しているが、1時間を優に越える本格的ソロ公演は、代表作のひとつである『ロミオとジュリエット』(1996)以来の舞台となる。

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熱のこもったリハーサルが行われている世田谷のスタジオに伺って、ほとんど本番に近い動きをみせていただくことができた。これはたいへんにラッキーだったが、スタジオに白河さんが立ち、動き始めてすぐに、「やっぱり、これを観たかったのだ」と私は感じ、さらにうれしくて懐かしい感情を味わった。
現在も多くのダンス公演が各地で行われている。もちろん優れた作品もあるが、映像を多用したり、しゃべりを入れたり、コンセプトを鋭くみせることに特に意を尽くしたり・・・その舞台はじつに多彩だ。けれども観客は知らず知らずのうちに、それらのダンス自体に少し物足りなさを感じ始めていたのかもしれない。私は大島+白河のダンスを観て、かつて恋した人に再会したように、観たかった動きにやっとめぐり逢えた、そんな気持ちになった。それはやはり、最前線で新作と海外公演を平行して進行するという闊達な活動していた頃のH・アール・カオス独自の美しい輝きに満ちた舞台に、胸躍らせていた記憶が甦ってきたからなのかもしれない。
かつてのH・アール・カオスは、5年先までの予定が詰まり、舞台が終わったその日に空港の駆けつけてフライトすることもあった。若かったからなんとかこなすことができたアイドル並みの強行日程だったのである。

そしてじつはその頃、H・アール・カオスのプリンシパル・ダンサー白河直子は、昔の怪我の後遺症に苦しんでいた。首も回らないし、体も反れないし、しまいには歩くことさえ出来なくなった。あちらこちらの筋幕が固まり、あそこが悪ければこちらを使ってと忙しさのためにその場凌ぎを重ねてきたが、さすがにもうどうにもこうにも動かなくなってしまったのである。
演出・振付を一人で担ってきた大島早紀子もまた、過密スケジュールから体調を崩して苦しみ、創作活動を再開するためには、まず、自分の身体を動けるようにしなければ、という思いを固めていた。そこでH・アール・カオスは、完全に二人の身体が復調するまで休むことを決めた。

1606hrc01.jpg 写真撮影:野波浩/提供協力:Bacchus

「ダンサーって俎板の鯉じゃないけど、その時その時の身体しかないから厳しい」と大島。
「大島さんが次の新作は、直ちゃんの身体がきちんとしてなければ嫌だ、といったので、なんとか完全に治して舞台に上がれるようにしようとがんばった」と白河。
そして今回のリハーサルが始まって「奇跡的な回復。直ちゃんは前よりも動けるようになった感じがする」。白河自身も「以前よりも身体の通りが良くなったみたい」というまで回復を実感できるようになった。

そして新作『エタニティ』について、大島早紀子は語る。
「(身体に付箋をたくさん付けるシーンについて)付箋をつけていくのは、肩書きだったり、職業だったりいろいろと考えられるけど、一番初めは記憶を表すつもりだった。自分が失っていく記憶とか変容してしまう肉体とか、(白河が持って踊る)鞄の中は時間だったり記憶だったり、一生懸命残そうと努力するけれど、どんどん失われていくようなイメージ。そこには失われていく付箋がまるで川のようにが流れている。
それは、ギリシャ神話にある死後の世界の川。その水を飲むと生前の記憶をすべて無くして死者になる、と言われるレテ川のよう。それは恐ろしいことでもあるけれど、神様から与えられた愛なのだ。魂をこの世の束縛から解放することになるから。
そうしたことが下敷きにもあって、ここでは記憶の川。この一枚のかけら(付箋)が記憶だったり、思い出だったり、時間だったり、もしくはそのような言葉にはならない光だったり、ただの白いものでもいい。動きといっしょに現れるもの、動きの中から放射されるもの、発散されてくるもの、それらでなくてもオーラが出てパッーと輝くこともある。そうしたものをを可視化している。そういうふうに身体から表出するもの-----命だったり生命力だったり、儚いものだからこその力強い力となるもの、それこそが本当の舞踊の力だし、凝縮した時間の中に永遠に通じる瞬間とか、異なった垂直の時間が流れる、それは舞踊の力の中には絶対あると思う。それを白河さんの身体を使って探したい、というのが『エタニティ』のテーマとなる」
白河直子は「大島さんと今までずっと一緒に活動してきて、初期の頃の感覚とずっと変わらない。彼女はずっとそれを追い求めているな、と感じる。いろいろとデコレーションされたりとかはあるけれど、ダンスを始めた頃と本質は変わらない。いつもストレートに追い求めている。踊っていると、「やっぱりあるなー」と思えて、ダンサーとして大島作品を踊ってきてほんとうにうれしい。90年代からだからもう26、7年になると思うけれど」
日本のコンテンポラリー・ダンスの記憶すべき最新作『エタニティ』は、生命と死がクロスし、魂の根源的解放を試みる舞台となるだろう。H・アール・カオスの最新作の幕が、いよいよ開く。

 
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