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関口 紘一
[2009.12. 4]

H・アール・カオス=スタジオ訪問記

大島早紀子&白河直子の<命>の3部作間もなく開演

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2010年1月にモーリス・ラヴェルの『ボレロ』、ベラ・バルトークの『中国の不思議な役人』、そしてカミーユ・サン=サーンスの『瀕死の白鳥』(新作)を上演するH・アール・カオス。今まさに上演に向けてのリハーサルが盛んに行われているスタジオを訪ねた。
H・アール・カオスは、近年は海外公演などに忙殺されていたので国内公演は、愛知芸術劇場で行われた2008年の『神曲』以来となる。

スタジオに入ると、今回公演のために『ボレロ』の全体を通しているところだった。プリンシパル・ダンサーの白河直子を中心に5人の女性ダンサーが、あの激しい動きを繰り広げている。一瞬のうちに、すべてが真紅に彩られた鮮烈な舞台の心象がまざまざと蘇った。3年ぶり3回目の公演だというが、中断することなく淀みない『ボレロ』が通された。
踊り終わったばかりの白河直子は「前回踊ったのは2年ちょっと前に1回だけの公演だったんですけど、一気に思い出すことができました。この作品は『春の祭典』と同じように、あの音を聴いただけでダンサーのたちの身体に動きが脈打ってくるんです」と、興奮がおさまりきらない様子。
「肉体的は苛酷で厳しいんですが、他のダンサーとも話したんですけど、その堪え難い苦しさが歓びに昇華していく感じがします。それはやっぱり舞台上の私たちにはよくわからなかったんですけど、ビデオを観て、オールスタンディングの喝采をもらっていたことを知ったからかもしれません。ただ踊りきるのはたいへん苦しいです。でもあますところなく踊りきらないと」
すぐさま「どんなに苦しくても苦しそうに見えてはだめです」と大島早紀子の厳しい指摘が入る。
「まだ始まったばかりで、個々のダンサーはそれぞれ練習しているんですけど、通して踊るのはほとんど初めて。これから何回も何回も繰り返しリハーサルしていくうちに、順々に体力もついてきます」と白河。その作品の踊りに使う筋肉が発達してダンスが充実してくるのだ。しかし筋トレで付けた筋肉では使いものにならないそうだ。
大島早紀子は「今、初めて通してみて、まだ思い出しの段階で椅子とか道具をなにも使ってないし、細かいところは調整していないけど、ほんとうにダンサーの熱気に支えられた作品なんだなと思いました」「ツアーもずっと一緒に踊っているメンバーだから、安心して観ていられます」とも語る。
そして「『ボレロ』という曲は単純だからほんとうに難しい」同じ曲を使ったべジャールの同名の有名な作品があるため、新たな舞台を創るのに大変に苦労した。『ボレロ』という曲そのものについては、単純にいうとメインテーマが延々と繰り返される円環的な構造と、「生の終焉を待たずして、世界の外に出ることの許されない」人間という存在を照応して捉えて、ダンスの構図を描くことができたと大島はいう。
『ボレロ』は「出られるはずのなかった、この<生>の外、この<世界>の外へ、神々の<祝祭>に私たちを誘っている」のだ。白河直子を中心とする超絶的な動きによるダンスが、私たちを日常の彼方の摩訶不思議なゾーンへと連れ去ってしまうに違いない。

さらに新作『瀕死の白鳥』が上演される。これはサン=サーンスの『動物の謝肉祭』の中のわずか数分の曲による、生命のひとつの鮮烈な顕現を表したダンス。一脚の椅子を使った白河直子のソロである。
未だ振付の途上だが、その一端を見せてもらうことができた。振付家自身とともに見るという、思わぬ眼福にあずかり、スタジオまで足を伸ばした甲斐があった。
新作なので具体的な感想には触れず、そのままの振りがあるわけではないが、動きを象徴する写真を掲載するに留める。ただ、とても数分の曲に対応した動きとは思えない、もちろんオーケストラと対峙する圧巻の動きだった。さらに大島と白河が練りに練って渾身の作品を創っていくことだろう。新作『瀕死の白鳥』に大いに期待したい。

「何度殺されても欲望を満たすまで生き返る<役人>」を題材とする『中国の不思議な役人』は、「<生>と<死>が奇妙に溶け合った曲」である。そしてこの曲もまた、大島の鋭利な洞察によって、今日の身体が置かれた状況の中に映し出されて描かれる。
H・アール・カオスの3部作とも言える、閉塞された現代の<命>の赤裸な姿に迫る公演が、フルオーケストラとのコラボレーションによって間もなく幕が開く。

東京文化会館コラボレーションコンサート
『H・アール・カオス×大友直人×東京シティ・フィル』
『中国の不思議な役人』『瀕死の白鳥』『ボレロ』

  • 構成・演出・振付/大島早紀子
  • 出演 舞踊/白河直子、木戸紫乃、小林史佳、斉木香里、泉水利枝、池成愛、野村真弓
  • 指揮/大友直人
  • 管弦楽/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
  • 2010年1月30日(土)
  • 東京文化会館大ホール