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文/佐々木三重子
[2013.09. 4]

公演直前インタビュー 中村恩恵×首藤康之

中村恩恵×首藤康之による建築家ル・コルビジエに触発された新作『小さな家』
「私たちにとって本当に必要なものとは何か」

1309nakamura_syuto.jpg 写真:操上和美
衣裳協力:(株)ヨウジヤマモト

新国立劇場の2013/2014シーズンのダンスのオープニングを飾るのは、「中村恩恵×首藤康之」と題したデュオ公演。同劇場には2011年9月に続く登場で、Aプログラムで20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエの建築の理念に触発された新作『「小さな家」 UNE PETITE MAISON 』を初演するのに続き、Bプログラムでは前回初演して絶賛された『Shakespeare THE SONNETS シェイクスピア「ソネット」』が再演される。中村恩恵はイリ・キリアン率いるネザーランド・ダンス・シアターで活躍した後、活動の拠点を日本に移し、ダンサー・振付家として意欲的な活動を展開している。首藤康之も、東京バレエ団を退団後は映画や演劇にも出演し、公演をプロデュースするなど活動の場を広げている。個性もバックグラウンドも異なる二人だが、共演のたびに注目を浴び、評価を高めてきているだけに、今回も期待が高まる。二人に新作に臨む心境を聞いた。

ル・コルビュジエ(1887〜1965年)はスイスに生まれ、主にフランスで活躍した建築家。一般には、西洋の伝統的な組石造りの建築法によらず、鉄筋コンクリートを用いた「ドミノ・システム」を考案し、ピロティ(一階の吹き抜けの空間)や屋上庭園、横長の窓を含む「近代建築の五原則」を発表するなど、装飾よりも機能性や合理性を求めたモダニズム建築の提唱者として知られている。東京・上野の国立西洋美術館は、ル・コルビュジエが設計した日本で唯一の建造物である。今回、中村と首藤が注目したのは、作品のタイトルにもした『小さな家』に象徴される、ル・コルビュジエが理想とした「最小限住宅」という考え方。『小さな家』は、1923年、彼がまだ無名だった36歳の時、スイス・レマン湖の畔に、両親の終の棲家として建てた白い長方形の家のこと。長さ15メートル、幅4メートルのわずか18坪ほどの広さだが、居間や寝室、台所、洗面所、バスルームと必要なものだけが連続して配置され、11メートルの横長の窓からはレマン湖とアルプスの山並みが臨めるよう設計されている。

1309nakamura_syuto2.jpg Sahekespeare THE SONNETS 撮影:鹿摩隆司

「ル・コルビュジエはいろいろな本や論文を発表しています。中でも『住宅は住むための機械である』という言葉は、建築に対する彼の姿勢を最もよく伝えるものとして知られていますが、それは一体どういうことなのでしょう。コルビュジエは、人の住まいには何が必要であり、何が欠かせないのか、それを突き詰めていった。そうしてたどり着いたのが “最小限住宅” というコンセプトではなかったでしょうか。あれもこれもあれば、一見、便利で豊かなように思えますが、本当にそうでしょうか。世の中、たくさんの物が溢れていて豊かそうにみえますが、むしろ本当に必要とするものと、そうでないものとがわからなくなっているのではないでしょうか」と、中村は問い掛ける。人が住むにはどのくらいの空間やどのような部屋が必要かを考え、これだけは欠かせないというものだけで構築されたシンプルな家こそ、真に満ち足りているといえるのではないか、と。そして、人が住むのに必要なものを絞り込んでいくコルビュジエの姿勢は、私たち自身の生活や生き方を見つめ直すことにも通じるのではないか、と。「コルビュジエが投げ掛けていることは、とても奥深い。私たちにとって本当に必要なものは何か、本当の豊かさとは何かを、作品を通じてとらえ直してみたい」という。

1309syutou.jpg 写真:操上和美

首藤がとりわけ興味を持ったのが、ル・コルビュジエが提唱した「モデュロール」(フランス語の「寸法」と「黄金分割」からめた造語)という設計に当たっての寸法の決め方。自身の片手を上に伸ばしながら、「コルビュジエは、人が立って片手を挙げた時の足もとから指先までの寸法を、美術でいう黄金比で割って、それを実際に建物を作る時の基準にしました。建物を、それを使う人間の身体の寸法に合わせて、身体とのバランスを考えて設計する。素晴らしいですよね。黄金比を人体に即して実用化して、実際に建築に適用したのは、コルビュジエが最初ではないですか」と、興奮気味だ。人間が自然な状態でいられるよう、そして自然に動けるようにと考案された「モデュロール」。人間を基準にして設計するというコルビュジエの姿勢に、首藤は強く惹かれているようだ。

多くの公共建物や大規模な都市計画を手掛けたル・コルビュジエだが、自身は、1950年、南仏のカプ・マルタンに、妻と二人で住むために建てた3.66メートル四方の質素な “休暇小屋” を好んでいたという。首藤はこの小屋にも触れて、「わずか8畳ほどの小さな小屋ですよ。そんな狭い空間に居ながら、コルビュジエの思考は狭い世界にとどまらず、広い世界に向かって開かれていた。壮大な建物を構想し、建築に対する理論を深めていった。そこにも彼のすごさを感じます」と語った。

1309nakamura.jpg (c):NOMO

ところで、中村は、新しい作品を創る時、師のキリアンにアドヴァイスを求めることがあるようだ。今回はどうだったか尋ねると、「この作品の構想を練っていた時期、キリアンが「人生の必要」について考えることの大切さにまつわってコルビジエの話を聞かせてくれました。偶然にも同じ主題でしたので驚きを感じました。その後、コルビュジエに関する興味深い逸話などを聞かせていただいています」と。

インタビューの間中、二人とも始終なごやかな雰囲気だった。これも長く共演を重ねてきたからと思ったら、中村から意外な答えが返ってきた。「ずいぶん長いこと一緒に踊っているようにみえますが、初めて共演したのは『The Well-Tempered』の2009年でしたから、まだそれほど経ってないんですよ。音楽用語で「平均律」という意味の作品で、創作の初日にはコチコチに緊張してました。共通言語もわからず、まずは並んで一歩あるいて、また止まる……作品の冒頭はそういう振付になりました」と、首藤と顔を見合わせて笑った。続けて「デュオの作品でしたけど、最初の方はそれぞれ別々に踊っている感じなんですよ。でも、一回、一緒に創作してみて、お互いが分かった。首藤さんは私にないものを持っていて、私は首藤さんにないものを持っている。お互いに違うものを持っているんです。作品を創る時、それがうまく噛み合って、お互いにない部分を補うような形になるのです。」話を聞きながら、しきりにうなずいていた首藤だが、「振付をするのはあくまで中村さんです。でも、構想を練ったりするのは一緒にします」と付け加えた。『時の庭』や『WHITE ROOM』など、次々と共演を重ねてきたのも、お互いに意識しなくても自然に共振できるからなのだろう。インタビューの最中も、中村が言葉に詰まったり考えたりしていると、首藤がさりげなく言葉をつなぐなど、舞台の上だけでなく、良い関係が築けていることをうかがわせた。

Aプログラム『「小さな家」 UNE PETITE MAISON』は10月4、5日、Bプログラム『Shakespeare THE SONNETS』は9、10日、ともに新国立劇場・中劇場。『Shakespeare THE SONNETS』は、10月20日北九州芸術劇場、10月23日大分iichiko総合文化センター、2014年2月1日りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で上演。
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