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[2017.12. 4]

『新世紀、パリ・オペラ座』の日本公開に当たって
ステファン・リスナー総裁が<オペラ座の現在>を語った

映画『新世紀、パリ・オペラ座』が12月9日に公開されるのに際して、パリ・オペラ座総裁のステファン・リスナーに、<オペラ座の現在>について語っていただいた。後半には、Dance Cubeからの質問にも答えていただいている。

171204_01.jpg (c) Elisa Haberer - Opéra national de Paris

----完成した映画『新世紀、パリ・オペラ座』をご覧になった感想をお聞かせください。
リスナー 私がこの映画の完成版を観る際に一番気にしていたのは、ちゃんとオペラ座の全従業員が満遍なく映っているだろうかということと、彼らがこの映画を観て気に入ってくれるだろうか、ということでした。実際完成した『新世紀、パリ・オペラ座』を見てみると、皆気に入ってポジティブにとらえてくれて、全従業員がハッピーだったので、私自身も安心したしとても嬉しかったです。

----オペラ座の<変革期>の舞台裏にカメラに入ることについては、マイナス要素は考えませんでしたか。
リスナー この話を引き受けるまでは正直悩みました。話をもらったときは、私がパリ・オペラ座の総監督に就任してまだ日が浅かったし、バンジャマン・ミルピエ(前舞踊監督)も来たばかりでした。われわれは、芸術的な方針や一般の観客に対する方針を決めているところでした…すべてが始まったばかりだったのです。でも、ジャン=ステファヌ・ブロンという人間、そして彼の映画監督としての仕事ぶりを知って、考え直しました。彼の過去のドキュメンタリー作品、 « Cleveland contre Wall Street(直訳:クリーブランド対ウォール・ストリート)» « L’experience Blocher (直訳:ブロシェールの経験))» を観たことで、彼の持つヒューマニズム、眼差し、思いやりに完全に心を動かされました。

----これまでもオペラ座の舞台裏を撮影した映画、ドキュメンタリーは数多くありますが、『新世紀、パリ・オペラ座』がこれまでのものに比べフランスの興行収入において群を抜いているのはなぜだと思いますか。
リスナー この映画の成功は、観客が登場人物たちに感情移入できるところにあると思います。ジャン=ステファン・ブロン監督の眼差しは何よりとても人間らしい。新作のオペラ作品を創りあげる過程を、様々な演出を施したり、ありきたりな方法を使って見せるのではなく、創作に取り組む人々を丹念に追っています。オペラ座で働く様々な人々のポートレートを描きながら、彼はこのオペラ座という組織の一面を露わにすることに成功しました。観客はそこに一つの完成された世界を見出す。オペラ座には、ヒエラルキー、組織の働き方、集団としてのまとまり、また競い合いがあり、それらのいずれもが芸術に関するものと同時に政治的なものでありますから、オペラ座は、“皆と同じように”一つの社会や、街、企業に例えることが出来ると思います。
この作品は、ただパリ・オペラ座を題材にした映画というだけではなく、人々についてのドキュメンタリーなのです。

----オペラ座の総監督の仕事は誰でもなれるものではないと思います。この仕事の醍醐味は何なのでしょうか。

リスナー パリ・オペラ座の総裁という仕事は唯一無二です。
パリ・オペラ座は2つの会場を持ち、年間400もの公演を行う。これは1500人以上のスタッフのノウハウと優れた仕事により実現できています。世界で最も美しい街のひとつで、好奇心旺盛な観客たちに向けて仕事をする…これ以上何も望むものはないですよ。

----「世界一のオペラ座」の質を維持していく上で、重要なことは何だと思われますか。また今後何が必要になっていくと思われますか。
リスナー われわれのクオリティを保っているのは、技術、芸術、管理、すべての部門のノウハウです。公演プログラムの編成も同じく重要で、私は、プログラムを立てるときは、あらゆる個人的な感情や外部からの情報を排して、作品自体、その音楽の質や音の美しさだけを考えなくてはならないと思います。さらに、編成は、演目うんぬんよりも、歌手やオーケストラの指揮者、演出家といったアーティストたちのために行わなくてはいけない。アーティストたちがまとまって一つの芸術プロジェクトに打ち込められるよう導くことこそが大切なんです。

----『新世紀、パリ・オペラ座』が、日本で公開されることについての感想と、日本の観客に見てほしい点を教えてください。
リスナー 私はミラノ・スカラ座に勤めていた際、10年間で2回、公演のために東京に来たことがありますので、いかに日本の観客がオペラに関心を持ってくださっているかということを非常に良く知っています。今回のこの映画はオペラ座の内部を映していて、舞台上のダンスや舞台だけではなく、それ以外の人のすべての日常がのぞけるものなので、非常に面白いものだと思いますし、日本の観客には必ず興味を持ってもらえると思いますので、とても嬉しく思っています。
日本の皆さんは舞台やバレエにとても興味を持ってくださいますし、今年の初めには私はオレリー・デュポンとバレエ団を率いて東京に行ったのですが、本当に皆さんバレエに関心があって、中でもパリ・オペラ座のバレエに非常に情熱を持ってくださり、とても熱心に見てくださるので、それが非常に嬉しいです。私は今までのキャリアの中でミラノ・スカラ座とパリ・オペラ座で勤めて、それぞれで日本に来たことがあるのでよく分かっているけれども、オペラならミラノ・スカラ座はとても評判が良いですし、バレエならパリ・オペラ座のバレエは大人気なので、いかに日本の皆さんが興味を持ってくださっているのかということを、よく分かっています。

171204_03.jpg (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas
- Bande a part Films - France 2 Cinema -
Opera national de Paris - Orange Studio  - RTS

----バンジャマン・ミルピエと彼の退任をめぐって電話でやり取りをするシーンには驚きました。どのように撮影したのですか。またこの映画について、ミルピエと何か話しましたか。
リスナー ジャン・ステファン=ブロン監督は約2年間、撮影のためにオペラ座にいました。私のオフィスのすぐ横にずっといたり、オフィスに入ったり出たり、時に撮影したりってね。私の仕事中だったり、電話中だったり、どんな時でも自然に入ってきては撮影して、という感じだったのです。だから、この私が電話をしているシーンも、実際に撮影したのはこのシーンだけではなくて、役所の人と話しているシーンなんかもあります。このバンジャマンと電話で話しているシーンも、たまたま電話しているときに監督が入ってきて撮影したもので、私はバンジャマンと元々辞任に関してやり取りしており、たまたま彼から折り返しの電話があった時でした。たまたま辞任だって話してる時に監督が入ってきて撮ったものなので、まったくやらせとか演出とかは一切なしで、本当に自然に撮られたものなんです。
ちなみに今回撮影された中で「これは使わないでくれ」というようなシーンは一切ありません。
そして、『新世紀、パリ・オペラ座』についてバンジャマンと会話したかという件に関しては、この映画が出来てからバンジャマンと話してないので、シーンがどうこうとか、そういった話はしていないですね。

----オレリー・デュポン体制のバレエ団になっていかがですか。明確に変化した点はありますか。
リスナー オレリー・デュポン体制になってからは、2017-18のプログラムがスタートしたばかりですが、今、非常に成功して人気を博していて、勅使川原三郎のプログラム、ピナ・バウシュのプログラム、バランシンのプログラム、オープニング・ガラ・・・など、すべて大成功しておりお客様にも人気なので、芸術面では非常に成功していると言えます。オレリー自身が元々エトワールだったし、バレエ団に入る前のエコールの時代からパリ・オペラ座で学んでいるので、とてもオペラ座に精通しているし、とても愛してくれています。そうやって下からずっと生え抜きで来た人が上にいるということで、とても良い雰囲気も出ています。バンジャマン・ミルピエの時代よりは遥かに良くなっていますよ。

----『新世紀、パリ・オペラ座』では、音楽監督のフィリップ・ジョルダンの熱意に圧倒され、音楽を愛する彼の人間性がとても魅力的に映されていますが、リスナー総裁から見て彼はどんな人物ですか。
リスナー フィリップは非常に優れた指揮者であり、優れた人格者です。何故優れた指揮者であるかというと、彼は元々ピアニストで、お父上も有名な指揮者なので、そもそもそういう環境で育っているし、さらに若い頃は小さい劇場で働いたり、オペラも色々経験を積んでいて、私がシャトレ劇場で働いていた時の95年の『リング』や、「ワーグナーの三部作」で彼はアシスタントとして働いていたり、とにかくいろんな実績があります。さらに非常に仕事に堅実に、まじめに取り組む人で、アーティストの知識、歌手の知識、音楽家たちの知識がすごく深く、楽団員とも信頼関係を築けています。彼はオペラも良く知っているし、オーケストラにも認められているし、彼が着任して約10年ですが、着任してからいいことばかりです。本当に偉大な指揮者です。
さらに人物としても、非常に規律正しくて手本になるような人で、彼はすごくレパートリーが広く、『モーゼとアロン』であったり、ベルグの『ドン・カルロ』であったり、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』であったりモーツァルトの『コシ・ファン・トゥッテ』であったりと、それが非常に素晴らしい。オーケストラとの関係においても、よく長年同じ人と組んでいると飽きられたりしますが、彼はそんなこともなく、楽団員も彼からはずっと学ぶことがあるという心持で居てくれて、本当に固い信頼関係があるので、パリ・オペラ座の成功の一因は彼のおかげだと思います。

171204_02.jpg (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas  - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio  - RTS

----その後(映画で描かれているその後)のミハイルはどうしていますか?
リスナー 映画の撮影後、ミハエルはオペラ・バスティーユで公演されるヴェルディの『リゴレット』でのチェプラーノ伯爵役とアルバン・ベルグの『ヴォツェック』のErster Handwerksbursch役の二つを獲得した。今後の彼のキャリアが楽しみです。

【ダンス・キューブ】2014年8月にオペラ座の総裁に就任され、様々な新しい試みを実施されてきました。舞踊部門で、この3年間で成し得たことと、もう少し時間が必要だと思われること、を教えてください。
リスナー 3年間で何を成し遂げられたかとか、きちんとできているかというのは、自分で判断することではなく、観てくださったお客様や、マスコミの方が判断してくれることなので、私からどうこうは言えないのですが、今、国際的なプレスなどの批評などを見ていると、非常に好意的ですし、バレエでもオペラでも成功していると言えると思います。バレエもオペラも、われわれは時に難しい作品に挑んだりもしているのですが、それでも観客は入ってくれています。このところの集客率は平均94パーセントくらいなので、非常に成功していると言えると思います。
また自分が着任してから、教育的取り組みである「アカデミー」※1や、デジタルプラットフォームの「第三の舞台」※2など色々とやりたいことも実現出来ていますし、ミラノ・スカラ座時代の経験や人脈のおかげで、色々な素晴らしいダンサー、演出家、歌手、指揮者などが通年でたくさん参加してくれるようになっています。様々に優れた才能がオペラ座の舞台に出演してくれ、勅使川原三郎との仕事や、ピナ・バウシュの演目なども実施できました。演出家も最高レベルの方に参加していただけて、アーティスティックな組織力としては今年第3シーズンが始まった所ですが、周りからは非常に成功しているとみられているので、自分が判断するものではないけれども、成功していると思います。

【ダンス・キューブ】あなたは、シャトレ座監督の時にはウィリアム・フォーサイスをパリに紹介され、ミラノ・スカラ座時代には勅使川原三郎を踊らせ、オペラ座総裁になられてからはミルピエを舞踊監督に抜擢し、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルにも仕事をさせています。コンテンポラリーダンスについては非常に素晴らしい実績を上げておられます。しかし、オペラ座の古典バレエの方はあまり変化がないように感じますが、何か新たな計画をお考えでしょうか。例えば、ヌレエフ版の古典バレエを革新していく、といったようなことですが。

リスナー ヌレエフの古典バレエというのは、われわれにとって本当に素晴らしい遺産です。『白鳥の湖』も『シンデレラ』も『眠れる森の美女』も『ラ・バヤデール』も『ドン・キホーテ』も、こういうものが遺されているということ自体が本当に幸運なことだと思います。グラン・バレエとしてずっと残したいと思っているし、今後も変えることはありません。こういった古典作品はよくクリスマス・シーズンに上演するのですが、今年の12月だけでも10万人のお客様が来場予定で、他にもガルニエで上演するアレクサンダー・エクマンの『Play』というモダンな作品も予定されていたり、バスティーユでの『ドン・キホーテ』。あとオペラの『ラ・ボエーム』などなどと、トータルで69公演が予定されています。12月だけでもそれだけ既に集客が予定されているし、古典バレエも非常に成功を収めているので、これを変える予定はありません。
 

※1「アカデミー」
2015年に着任した後から、「アカデミー・ドゥ・オペラ(パリ・オペラ座アカデミー)」という教育的なアカデミーを始めました。パリ・オペラ座は国立の団体として、伝承や育成、創造といった任務を持ちます。そして、アカデミーは、歌唱、音楽、演出、また伝統技術といった分野における次世代のプロフェッショナルを奨励するためにあるのです。映画にも映っていたバイオリンをやる子供たちとか、10か月のオペラ学校とか、オペラ大学とかいろんな項目があって、40-45のクラスくらいがあり、音楽・歌・彫刻・画家・エンジニアなど、とにかくオペラ座に関わるいろんな職業を網羅していて、彼らのプロデュースで年に1つ2つくらい作品を作るのですが、優秀な人ももちろん入ってくるし、映画の中にもちょっと映っていた、仕事がなかったり、お金がなかったり、困難な社会状況に置かれている人たちも、興味があるなら手に職を付けられるようにしてあげて、そういう人たちがまたさらに若い世代にいろんなオペラ座に関わる芸術の部分を職業として継承していってくれるようにという風にやっていっています。

※2デジタルプラットフォームの「第三の舞台」
ガルニエ創設が1875年、バスティーユが1989年、そして2015年から「第三舞台」を始めています。これは、ホームページで無料で観られるデジタルプラットホームで、今までオペラ座とは関係なかったいろんな芸術家、画家、作家、写真家、彫刻家、映画監督などが、様々なオペラ座の断片に関するダンスだったり音楽だったり建築だったり、オペラ座に関するいろんな断片のショートフィルムのようなものを作って見れるようにしたものです。今まであまりオペラ座とは縁がなかったようなお客様にも見てもらえるように、この2年間で35本のショートフィルムを作りました。短いのは4-5分、長いものでも15分くらいの短い動画ですが、ガルニエのこと、バスティーユ、ナンテールにあるバレエ学校、装飾を作るセクションのことなど、ありとあらゆるものに関しての短編を今35作つくっていて、インターネットで無料公開していて、誰でもアクセスすれば見られます。もう既に250万アクセスに達していますので、これも非常に成功していると言って良いと思います。


『新世紀、パリ・オペラ座』
12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

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http://www.chacott-jp.com/magazine/dance-library/cinema/post-20.html