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インタビュー:浦野芳子
[2015.10.15]

『海に響く軍靴』に出演する、HIDEBOH、Tamangoにインタビュー

2003年に映画『座頭市』でタッグを組んだ北野武と12年ぶりに取り組むのがこの舞台。『海に響く軍靴』は、第二次世界大戦下の時代を背景に、南洋の島で出会った日本兵と米兵の国境・人種を超えた心の交流をテーマにした作品だ。
この作品は、北野武が長年温めてきた企画をステージ上に実現したもの。フィリピン・ルパング島に戦後約30年間も潜伏、戦闘を続けていた小野田寛郎さんに着想を得て紡ぎだした物語なのだそうだ。
戦時中、南太平洋の孤島に漂流した、アメリカ文化好きゆえに昇進も少尉止まりの日本兵と、本国では差別されてきた黒人タップダンサーの出逢いから物語は始まる。二人は隔離された時空間の中で、生きるために歌い、踊る。やがて、孤島に人が生存していることに気づいたアメリカ海軍が米兵を救助するが―。
この日本兵をHIDEBOHが、そして米兵を、アーバン・タップという新しいタップのカテゴリーを進化させ、ブロードウェイで脚光を浴びているTamangoが演じる。

―「この作品は、映画ではなく、舞台だな」と、北野武さんがおっしゃったそうですね。武さん出演の『戦場のメリークリスマス』でも、戦争が物語の背景に使われていましたが、そこで描いているのは戦争そのものではなく、そこにある人としての、敵味方を超えての感情の揺らぎや心の交流といった、極めて精神的なものです。今回の作品にもそういう視点が利いているようですね。

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HIDEBOH(以後H):以前、僕が武さんにインタビューをするという雑誌の企画で、尊敬する人物について尋ねたとき、武さんは「名もなく死んでいった兵士かな」とおっしゃっていたんですよ。僕たちは戦争を経験せずに生きてきたわけですから、物語や映画、報道などを通して兵士を想像するしかないわけですが、彼らにはある種の超越した精神状態があったのではないか、というようなことを話されていました。しかも、取材を通して小野田寛郎さんとじかに話したこともあるそうなので、ものすごく大きなものをそこから受け取られているのだと思います。武さんの兵士に対する、特別な思いを感じながらこの作品に取り組んでいます。

―小野田寛郎さんと言えば、終戦30年後の1975年、フィリピンのルパング島で発見された時の報道が衝撃的でしたよね。HIDEBOHさんが演じる日本兵・森山は、その小野田さんがモデルなのですよね。そしてTamangoさんが米兵ビルを演じる。

H:孤独に30年間、島で隠れながら生き延びてきた、奇跡の人ですよね。しかも、自分はヨレヨレになりながらも軍服だけはビシッときれいな状態で保っていたというところがすごい。彼を孤独や不安、恐怖さえも乗り越えさせたものは、強い愛国精神と……いい言い方が見つからないのですが、根性、大和魂と表現されるものなのでしょう。いったい何が、彼をそこまで強くしたのか、歴史や社会的背景に十分に思いを馳せないと
いけないと思っています。軽く、表面的にストーリーをなぞったのでは伝えたいことも伝わらないでしょうね。

Tamango(以後T):この作品は、ある意味で人間に対する祝祭のようなものだと思っています。すべての“兵士”には、兵士とは戦う道具としての存在ゆえに、様々な精神的葛藤が生まれる。“兵士”にも“人”としての感情そして他者との共感があるはず。それは“夢”と“喜び”だと思う。闘い、戦争などでもたらされる勝利の喜びとは違う性質の喜び、だよ。それを、音楽、ダンスへの結びつきとして表現しているのが『海に響く軍靴』という作品なんじゃないかな。私は以前、イラク戦争が終結したときの報道番組で、白人の米兵が銃を掲げたまま橋の上をタップのリズムを踏みながら嬉しそうに歩いている映像を観たことがあるけれども、いまだに忘れられないよ。彼は、兵士である前に平和で楽しいことが好きな一人の人間なんだ、そして、すべての兵士は、戦う道具である前に人間なんだ。人間は誰もが、人種や立場を超えて、心を動かすものを愛している。たとえば、音楽、ダンス、食事、感動的なストーリー……。それらを心許せる他者と分かち合いたいと思う生き物なんだよ。

H:ラストシーンでは、そういうことが僕らふたりのタップダンスで強調されることになると思います。ただやはり、僕が“森山になり切る”のは、簡単なことではないと思っています。今と当時では時代背景も、置かれている状況も違い過ぎるので。同じ時代を生きていても、大震災に遭われた方々にいくら心を重ねたくてもその気持ちを完全に理解するのはムリである、ということと状況は似ていると思います。しかし、同じ気持ちにはなれなくても、想像を働かせそれを知ろう、とすることは、今ある自分を考えるうえでもとても大切なんじゃないでしょうか。たとえば世界大戦の時「ゼロ戦で攻撃する」ことを名誉なことと喜び、自らの命を投げ出して敵隊に「万歳!」といいながら突っ込んでいく……。良い・悪いを言うのではないんです、そこにもさまざまな背景を持った人間がいたのだということに想像を働かせることから、何かが始まるんじゃないでしょうか。
森山とビルは、戦場に於いては敵対する関係に置かれていたわけですが、戦争、という状況を取っ払えば、ダンスや歌という、同じものを愛する同志でした。素の状態になれば“同じ人間である”、ということなんです。

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T:ビルと森山は、互いの中にあるダンスへの思いから強い絆を創る。ふたりは別々の人生を歩いてきたが、ここで偶然に一緒の時間を過ごすようになるわけだ。その後、別々の人生を生きるのだけれども、二人はある種のパラレルワールドを生きていく、そんなイメージを私は持っています。

―というと、ふたりは“ダンス”という記憶で魂を共有し、同じ時間をそれぞれの世界で生きている、と? そしてそれが、ラストシーンで再び一緒になる、ということですね。


T:そうですね。この物語は戦争を背景に掲げてはいるものの、非常に精神的な文化背景をも持った作品です。実は私とHIDEBOHに重なる部分がある。

H:今から20年くらい前かな、本格的なタップダンスを学ぶために僕がN.Y.へ渡ったとき、Tamangoには本当にいろいろなことを教えてもらい、お世話になりました。今回一緒に舞台に立てるということも、森山とビルに重なる部分がありますね。

T:リアルな友情、既視感がここにはある。

―ところでおふたりは、タップダンスの魅力とはどういう点であるとお考えでしょう。まずHIDEBOHさんには、どうして数あるダンスの中からタップを選択されたのか、ということについてお伺いしたいと思います。

H:自然な流れでした。とういのも、親父が浅草の芸人、おふくろはSKDの団員、という家庭で育ちましたからね。当時の芸人界では“芸人たるものタップダンスができなきゃダメだ”というのが常識だったんで、両親ともに熱心に練習してました。正式に習い始めたのは6歳からですが、3歳くらいから見よう見まねでリズムは踏んでましたね。当時は浅草にたくさんの劇場があり、連日、芸人たちが腕を競い合っていました。そして、当時芸人と言えばボードビリアン、ボードビリアン、イコール、ブロードウェイ、ってことですから、フレッド・アステアが出演した映画などで世界的に有名になったタップダンスが世界を席捲していた。当時のスター芸人のひとりに谷啓なんて方がいらっしゃいますが、それは(ブロードウェイミュージカル『レディ・イン・ザ・ダーク』などで有名になった)ダニー・ケイをもじった名前なんですよ、ショービジネス界はそれくらいあちらの文化に影響を受けていたんですね。北野武さんともこのあたりからご縁が始まっているんです。

―まさか、北野武さんと一緒にタップダンスを習っていた……とか?

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H:正確には一緒に学んでいたのとは違いますが、たまにスタジオに来ていらしてました。武さんも“ツー・ビート”として芸人活動されていたわけですから、当然タップダンスを勉強されていたんですね。そして、成人した僕が、あるテレビ番組で武さんに再会した時「ちょっと教えてくれよ」ということになり、プライベートで教えはじめ、その2年後に映画『座頭市』のお話をいただいたんです。“ラストシーンが、盆踊りではなくタップダンスだったら世界がひっくり返るよな”なんておっしゃってましたね。北野さんとはある意味子供の頃からのご縁、Tamangoとは20代からの縁、おまけに戦後70年という節目にこうした作品に参加するというのは、なんだか自分の人生の節目にも重なる感じです。
まあ、以上は自分にとってのタップダンスの歴史の話ですが、タップの魅力は、ショー、として楽しむ側面と、体の言語としての魅力とふたつあると思います。これはN.Y.で学ぶまで知らなかったことなのですが、タップは奴隷船の中で生まれたものなんです。私語ができない状態だったため、奴隷同士が意志を伝えあう方法としてリズムを使ったんだそうです。

T:我々にとってタップはダンスではなく経験なんです。我々の祖先が、アフリカから船に乗せられて西洋社会に連れていかれるときに生まれた感情表現の手段です。奴隷船の中で互いの感情を解放し合い、感情を伝える手段としてリズムが使われた。その後、ヘンリー・レイン、通称マスター・ジュバ、という人が現れ、チャネラーのように様々なダンス―クラシック・バレエからモダンダンス、フォークロアダンス等を取りこんでた創り上げたダンスを「エキセントリック・ダンス」といい、現代のブレイクダンスにもつながる。以前、映画でバリシニコフと共演した時も、彼とこのことについて熱く語り合ったよ。

―お二人が、その“タップダンス”でどんな感情の会話を繰り広げるのか、楽しみです。歌手の島田歌穂さんなども参加されることですし、独自のスタイルでストーリーが展開していく予感ですね。私たちも、ダンスとは、演劇とは、という既成概念を持たずに心をまっさらにして、鑑賞させていただくのが良いのでしょうね。


T:あなたの心の声にどうぞ耳を傾けて、無垢な心を持つ子供のように心をオープンにして舞台を観に来て下さい。

H:この作品は、ミュージカルでも芝居でもライブでもありません。でも僕とTamangoがタップダンスで繰り広げる会話はほぼインプロ(即興)ですから、毎日違うものになります。舞台は生ものである、一期一会を体験していただく良い機会にしたいと思っています。
 

『海に響く軍靴 FOOTSTEPS IN THE PACIFIC』

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●10/30(金)〜11/15(日)
●博品館劇場
●企画・原案=北野武、脚本・演出=髙平哲郎、音楽=島健
●振付・出演=HIDEBOH、出演=Tamango/島田歌穂
●7,500円(全席指定・消費税込)
●開演時間=10/30・11/4・6・10・11・13 19:00
10/31・11/1・2・5・7・8・12・14・15 14:00
11/3・9 休演
●お問い合わせ=博品館劇場 03-3571-1003
http://theater.hakuhinkan.co.jp/index.html