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(インタビュー/浦野芳子)
[2012.02.28]

"BAD BOYS" 率いるラスタ・トーマス=インタビュー

“POPバレエ”で、若い人の心をつかみ、ダンスの未来を広げたい

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2007年に旗揚げしたダンスユニット“BAD BOYS OF DANCE”。昨年、そのチケットが米国、ヨーロッパ、オーストラリアの全ての公演でソールド・アウトという快挙を果たした男性ダンス集団だ。率いるのは、ラスタ・トーマス。日本のファンの間で最も新しい彼の記憶といえば、2007年、服部有吉振付の『ラプソディ・イン・ブルー』で見せた、正確かつ音楽性にあふれる小気味よいステップの数々と、端正なルックスだろう。その彼が、話題のユニットを率い遂に日本公演を行う。タイトルは『BAD GIRLS meets BAD BOYS』。なんと、ラスタ率いる超絶ダンス技巧派集団・BAD BOYSが、謎の日本女子集団BAD GIRLSに出会う、というのだ。

―そもそも、BAD BOYS OF DANCEとはどんな集団なのですか。

RASTA(以下、R)
  一言でいうと“これからの可能性”を秘めた、若い男性ダンス集団。年齢は18~26歳、バレエのテクニックを基本に持ちながら、それ以外のジャンルで秀でた技能を持っている人…たとえば、コンテンポラリー、ジャズ、タップ、など、そういう個性と才能をオーディションで集めました。ダンスの幅広い可能性にチャレンジすることを目的にしています。

―なぜそのような集団を立ち上げようと思ったのですか。 あなたはまだまだ若いし、あなたを主役として招きたいカンパニーは、古典、コンテンポラリーに限らずいくらでもあると思います。つまり自分が踊る場所にはちっとも不自由しているようには見えないのに、あえて、新しい創作・舞踊の場を立ち上げたその理由は?

R  バレエにはどうしても高尚なイメージが付きまとう。若い人たちにとってそれは、キャリアのある人やお金持ちの世界というイメージです。踊りとは本来そういうものでないはずだし、今のままでは踊りの世界が限られたものになり、踊りの未来が狭まってはしまわないか。それを回避するためにも、若い世代に、もっとダンスの世界に興味を持ってもらいたいと思った。入り口を広げたい、と思ったんです。

―だから、バレエ以外のテクニックを持った人を登用するのですね。

R
 そうです。若い人を取り上げることで、まだダンスを知らない人や若い世代にも共感してもらえるような、楽しくエンタテイメント性に富んだものを提供できると考えたんです。

―バレエだけで、それを実現するのは難しいのかしら。

R  バレエは、非常にテクニカルで美しい芸術です。僕にとってはとても崇高な世界であり、非常にリスペクトしています。けれども多くの人にとってそれは “美しいね” というところで終わってしまい、観客とダンスの距離は一向に縮まらないんです。見た人がすぐに引き込まれて、夢中になれて、もっと近づきたくなる、そういうものを古い歴史の中でだけで探そうとするのは、難しいですね。
それに、『くるみ割り人形』にしても『白鳥の湖』にしても、名作バレエは世界中のどこでも見られる時代でしょう? もっとバレエの違う一面を見せられるグループが存在してもいいんじゃないかと思ったんです。

―BAD BOYS OF DANCEのパフォーマンスをわかりやすく表現するとしたらどんな感じになりますか。

R
 ハイブリットなダンス・フュージョン。“POPバレエ” だね! 基本はバレエなんだけれど、そこに武道、カポエラ、サルサ、ジャズ、ヒップホップ、などのエッセンスが組み込まれている。各ジャンルのクールな動き、面白い動きをバレエに取り入れることで、“動きの精度” をユニークに高めているんです。

―それにしても、なぜ男だけのダンス集団ですか。

R  音楽の世界では男性ユニットが昔から大活躍しているでしょう? ビートルズ、ローリングストーンズ…、スポーツの世界でもそうだよね、サッカーやバスケットボールのチームのいくつかは今や、世界的人気を誇る男性ユニットだ。男独特の、例えるならロックバンドみたいエネルギーを、ダンスユニットで表現したかったんだ。ジーン・ケリーやマイケル・ジャクソン、ミハイル・バリシニコフといった大先輩たちの後を継ぐ意味でも、ね。

―この7月に始まる日本での公演のタイトルには“BAD GIRLS meets BAD BOYS”とあります。日本からは女性ダンサーたちが参加するのですね。

R そう! 宝塚出身の湖月わたるさん、水夏希さんと、ジャズのダンサー原田薫さん、矢野祐子さんがBAD GIRLSに扮するんだ。これからひとりひとりに会って、じっくり話をして、ストーリーや振付を練るところです。

―宝塚は、あなた方の文化にとっては非常に新鮮なパフォーマンスじゃないないですか。

R  まったく! ユニークな演劇スタイルですよね。(インタビュー時点では)まだ映像しか見たことが無いのだけれど、男の僕には想像しきれないよ! どうやってあのスタイルが確立されたのか、その文化的背景にとても関心があります。それに動きが独特だし、リフトの仕方なんてこっちが教えてほしいくらい !! (笑)。僕にとってまったく未知の世界を体験している彼女たちだからこそ、そのエッセンスを取り込んだら、ものすごく新鮮なパフォーマンスを創り出すことができるんじゃないかとわくわくします。

―どんな構想で臨むのですか。

R 簡単に言うと、1幕がバットガールズ。2幕がバットボーイズ。そして3幕がバットガールズ・ミーツ・バットボーイズ。バットボーイズは、バットガールズが大好きなんです。まあ、楽しみにしていてください。

―宝塚のエッセンスを取り入れて、バットボーイズが、バットガールズに扮したりして?

R
 僕たちが女性役をやるって!? …うん、でも、7月14日は舞台の上で何が起こってもおかしくは無いと思うよ。

―ところで、クラシックの舞台に立つ予定は、しばらくは無いのですか。

R 今はありません。BAD BOYS OF DANCEの活動に集中していますから。もしもBAD BOYSでクラシック・バレエをやりたいと思っても、僕を含めメンバーは7人ですから、群舞ができなくて無理。

―でも、日常の、ダンサーとしてのトレーニングはやはりクラシック・バレエなのですか。

R  そうです。バレエのレッスンは毎日やっています。自分のスタジオに専任の教師がいますから。

―身体が、バレエを踊りたがることは無いですか。


R  僕とバレエとの関係は‥‥例えるならば愛憎関係ですね(笑)。バレエは美しい芸術です。しかも、バレエが無ければ今の僕はいません。けれども、バレエは時として僕にひどくつらい仕打ちをする。ステージに立つ時間はこの上なく感動的でも、翌日は歩くことさえ困難だったりします。
10代半ばで僕のダンサーとしてのキャリアはスタートしたわけですが、バレエダンサーとして約10年間何かを手放す決断をするたびに、一歩ずつ大人へのステップを踏んできたように思います。そしてそれは、僕に、新しいものの見方に出会わせてくれています。
素晴らしいカンパニーと仕事をさせていただく幸運にもたくさん巡り会えた。けれども、その中に、ホームと思える出会いは無かったんです。どこかドライな、仕事と割り切った関係で、自分がここに居たい、帰ってきたいと思える環境ではなかった。でも僕には、長居をする場所、マイホームが必要でもありました。ならば自分のホームは自分で作ればいい、そう思って立ち上げたのがBAD BOYS OF DANCEでもあり、POPバレエなんです。

―あなたが“ホーム”から発信するパフォーマンス、きっと日本ではまだ誰も目にしたことの無い世界なのでしょうね。

R  今まで出会ったことの無いニューフェース、感じたことの無いフレッシュネス、そうしたものにできたら嬉しいと、思っています。

―日本で楽しみにしていることは何ですか。

R  僕はベジタリアンだから、和食の繊細で美しく、味わい深い世界には来るたびに感動しているんだ! 舞台の上で軽快に動き回るためには、食べ過ぎに気を付けないといけないから、いつも我慢との戦いなんだけどね。

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(プロフィール)
RASTA THOMAS(ラスタ・トーマス)

俳優/バレエダンサー、米国メリーランド州在住。1981年アメリカ生まれ。96年第17回ヴァルナ国際バレエコンクールにて歴代5人目16年ぶりの金賞を受賞、98年にはジャクソン国際バレエコンクールでシニアの部金賞受賞。キーロフバレエ、アメリカン・バレエ・シアターをはじめマイヤ・プリセツカヤ、パトリック・デュポン、熊川哲也らと共に各国のバレエカンパニーに招聘されゲスト出演。日本においては、96年の神戸、97年のエイズチャリティーイベント、98年には京都・大覚寺でパフォーマンス。2000年にはK-Balletのドン・キホーテ、バジル役で広くバレエファンに評価される。2007年「ラプソディ・イン・ブルー」で服部有吉らと共演。その他ブロードウェイミュージカル「MOVIN’ OUT!」日本公演での主演も務める。2007年より『BAD BOYS OF DANCE』主宰・芸術監督。
HP http://www.rastathomas.com

「BADGIRLS meets BADBOYS」
ラスタ・トーマス率いるBAD BOYS初来日に際し、湖月わたる・水夏希・原田薫・矢野祐子ほかがユニット結成。TAKAHIROがストーリーテラーで出演する。
公演の詳細は http://www.umegei.com/system/schedules/index/2012-07