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浦野 芳子
[2012.09.19]

第3回ブルノンヴィル・サマー・セミナーin東京 レポート&前デンマーク王立バレエ団芸術監督 フランク・アンダーソン インタビュー

オーギュスト・ブルノンヴィル(1805~1879)は、19世紀前半のロマンティック・バレエ最盛期に活躍した、デンマークの振付家。有名な作品には『ナポリ』『ゼンツァーノの花祭り』そして不朽の名作『ラ・シルフィード』などがある。
ブルノンヴィル・スタイルと言うとまず思い浮かべるのは、ダイナミックなジャンプやキレのよいアレグロ、軽快な足さばき。作品中にはそうしたスーパーテクニックの数々が散りばめられているのが特徴だ。
もう一つの特徴は、演劇性の高い作品であること。バレエが舞踊劇として捉えられていたロマンティック・バレエの時代に生まれた作品たちであるだけに、物語性が非常に重視されている。

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こうしたブルノンヴィルの伝統的なスタイルを日本でも継承しているのが、井上バレエ団。およそ20年以上にわたり、デンマーク王立バレエ団のダンサー及び指導者らから直接指導を受け、実際にそれらの作品を公演してきた歴史がある。
この井上バレエ団が2010年から新たな取り組みとして開催しているのが、今年で3回目を迎えるサマー・セミナーだ。6日間にわたり、クラス、レパートリー、マイム、そして講義と、ブルノンヴィルのテクニック及び作品世界への知識を深める内容になっている。ブルノンヴィル作品はコンクールなどで踊られる機会も多いので、こうした機会に基本から細かく指導してもらえるのは非常に価値のあること。映像を見てただ振りを覚えるのとは違い、細かなニュアンスやタイミングなどを正しく知ることができるからだ。
また、“マイム”をクラスでじっくり学ぶ機会というのも、日本のレッスンではなかなか得られない時間だろう。マイムは、単に覚えて身体のボキャブラリーを増やせばよいというものではない。それよりも、心と表現がどのようにつながるのか、どうしたらより豊かな感情表現を観客に届けることができるのかを知る、またとない機会である。

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2012年度のブルノンヴィル・サマー・セミナーは、8月12日~17日にわたり、東京・新宿の花伝舎で開催された。参加者の多くが、朝のクラスにはじまりレパートリー・クラス、マイム・クラス、そして夕方に行われる講義まで、終日参加。全国から集まった参加者はプロを目指すジュニアを中心に、バレエ教師、そして井上バレエ団以外のカンパニーからの参加も目立っていた。
クラス・レッスンで目を見張ったのは、センターレッスンが始まると間もなく、アンシェヌマンの中にジャンプが取り入れられている、ということ。センターレッスンでは全体を通してアレグロやジャンプがたくさん盛り込まれているところは、さすが足さばきが見せ場のプルノンヴィル・スタイルだと感心したが、センターの最初に行うアダージォの後のタンデュなどにもジャンプが組み込まれているのは、身体の芯を強くし、それを確認する意味があるのだろう。
また、フランク・アンダーソン前デンマーク王立バレエ団芸術監督による初日のマイムクラスでは、先生のウィットに富んだ指導に、次第に緊張がとかれていく様子が興味深かった。最初は全員で同じ動きをなぞるのだが、途中からひとりひとり順繰りに演技をしたりするうちに、それぞれの個性が見えてくる。そしてマイムという形にこだわるのでなく、自分は何を伝えたいのか、ということを追求し始めた生徒たちは、みるみる身体の表情が変わってくるのだ。ジュニアの参加者ですら、大人びて見えてくることもあるから、面白い。2日目からは、実際に作品の中にある役を演じ分けていくのだが、そうするとますます、身体に表情が入って行くのがわかる。

こんな貴重なプログラムを携えて6日間指導に当たったフランク・アンダーソンが、クラスの合間を縫ってインタビューに応えてくれた。


---クラスの内容を拝見して、ジャンプがとにかく多いのにびっくりしました。

フランク・アンダーソン(以下F) ブルノンヴィル作品を踊るために必要なテクニックですから、ジャンプやアレグロには重点が置かれています。デンマーク王立バレエ団のダンサーたちが得意とするのもジャンプのテクニックです。井上バレエ団のダンサーたちも、私たちのメソッドをよく理解していますから、ジャンプがとてもきれいですよ。

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---そうした研ぎ澄まされたテクニックと同時に、マイムをとても大切にしていらっしゃるというのが興味深いです。ブルノンヴィル作品は民族的背景の色濃い物語が多い。ですから、バレエのテクニックを見せると同時にストーリーをより面白く深く、伝えることにも重点が置かれていると、解釈してよいのでしょうか。

F そうです。ブルノンヴィルの作品においては、踊りの部分は、作品の一部分にすぎないのです。大切なのは、どんな人物がいて、どんなことがそこで起こっているのかと言うこと。物語なのです。例えば、『ドン・キホーテ』では、バジルが、自身が床屋であるということをマイムで語りますが、ブルノンヴィルの作品ではマイムをそうした説明の手段としては考えていません。もっと長くて深いストーリーを伝えるために、マイムのセンスが必要なのです。

---ストーリーを説明するためにではなく、よりリアルに伝えるために、踊り続けながらマイムし続ける、そういうことでしょうか。

F そうです。だから、きわめて自然に、ということが大切になってくるのです。わざとらしいのではなく、普通に話しているように、そして心からにじみ出ているように。ブルノンヴィルの作品は、非日常なキャラクターよりも、現実に存在する人たちをテーマにしているものが多いですから、きわめて自然な表現が重要になります。本当にその人の心から湧きあがっている、そういう表現です。

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---その“自然に”を行うには、どうしたらいいのでしょう。今回のセミナーに参加した生徒たちも、いろいろ苦戦しているようですが。

F まずリラックスすること。そして、アタマではなく心で動くこと。あなたの心臓、つまりハートから出ていくものを伝えるのです。そのためには、自分が伝えようとしていることの意味と目的を、明確に理解しておくことが必要です。
バレエにおいて、ステップやテクニックはとても重要です。が、同時にマイムを学び、身体で気持ちやストーリーを表現するセンスと方法を身につけておけば、どんな作品に出会った時も必ず役に立ちます。

---井上バレエ団主催のこのセミナーは、これからも続くのですよね。来年もまた、指導に来てくださいますか。

F もちろん!! 今回も、日本の生徒たちに会えるのが楽しみで、ワクワクしてやってきました。今年のレパートリー・クラスでは『ブリュージュの大市』を題材にしましたが、来年は『ナポリ』がいいかな、などとも考えています。

---多くのことを学べるこうした取り組みが、長く続くことを祈っています。