「バレエ・ローズ」公演直前インタビュー:小野絢子(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、キトリを踊る

----最近の小野さんは、ダンサーとしてとても充実しているとお見受けしています。今、踊る上で最も気をつけていることはなんですか。

小野 私は今、 30 歳をちょうど超えたところですが、資本となる身体が少しずつ変わってくる頃なので、身体と対話しながら踊ることを心がけています。今回の「バレエ・ローズ」のようにバレエ団外の舞台に出演することはあまり多くありませんが、有り難いことにここ 1 、2 年増えてきまして、充実した日々を送らせていただいております。

---身体との対話というと、自然と聞こえてくるものなのですか。

小野 色々な作品がありますが、ものによっては右回りしかなかったりします。そうすると身体のクセが余計に強くなってきてしまいます。ですからレッスンでその日の調子を意識して、出来るだけニュートラルな状態にするようにしています。

----よりバランスに注意するのですね。

小野 以前よりレッスンでもリハーサルでも自分自身にまかされる部分が少し増えてきました。その分、自分でも気をつけなければいけない、ということはあります。

「バレエ・ローズ」リハーサルより 小野絢子(新国立劇場バレエ団プリンシパル) 福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)

「バレエ・ローズ」リハーサルより
小野絢子(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)

----新国立劇場バレエ団の古典バレエのレパートリーの主役は、ほとんど踊られたと思います。そうした古典作品を踊る場合と、ディヴィッド・ビントレーの『アラジン』や『パゴダの王子』のような今までは何も例がないような役を踊る時は、やはり大分違いますか。

小野 先例のないものを踊る時は、振付家の頭の中にあるイメージを実際に形にしていかないといけない。とても想像力が大切になります。でも実は、既に踊られたことのあるバレエの登場人物でも同じです。想像力をしっかり使って役作りをしなければならない、とまったく新しい新作を踊ってみて、あらためて気づかされました。

----ビントレーは動きを具体的に伝えるほうですか。

小野 具体的に言う時と、こういう風にしたい、としか言わない時があります。つまり、踊ってみてください、ということですね。『アラジン』などは、彼の中では何年も前から構想が始まっていたので、イメージはしっかり作られていました。そこにダンサーがどれだけついていけるか、ということですね。でもやはり、新しい役を作っていく作業は特別楽しいですね。

----でも最近は、新国立劇場バレエ団もそういうことがあまりないですね。

小野 最近では中村恩恵さんの「ベートーヴェン・ソナタ」がありました。でもやはり新しいものを作るということは本当にたいへんなことです。リスクもありますし。私は、そういった経験もでき、今、古典作品を踊っていますのでラッキーですね。

----『アラジン』も『パゴダの王子』も全幕のオリジナル音楽が既にあったわけですね。でもそれだけクリエイティヴの高い意識を常に持っていたからこそ、そうした音楽とも出会えたとも言えると思います。
話はかわりますが、小野さんが踊るプティの『こうもり』とかアシュトンの『シンデレラ』とかそう言う振付家の味が良く出ている作品が私はとても好きなのです。

小野 そういう作品に挑戦していくことはとても楽しいです。『こうもり』も大きなチャレンジでした。

----とても主役が可愛く感じられるバレエですね。アシュトンの『シンデレラ』もすごく細かい決まりがあるのですか。

「バレエ・ローズ」リハーサルより 福岡雄大

「バレエ・ローズ」リハーサルより
福岡雄大

小野 すごく自由に踊っているように見えますが、そうではない。でも出来上がると素晴らしい。やはり、振付の計算がうまくいっているのです。

----マクミランの振付はどうですか。もっと決まりがあるとか。

小野 どうでしょうか、教えにきてくださる方にもよると思いますが、すごく緻密なリハーサルをされる方もいます。一歩出した脚にどんな意味があるのか、何を思って歩いたのか、から始まります。リハーサルがなかなか進まないこともあります。

----でも、ダンスのシーケンスは長いですね、パ・ド・ドゥにしても。先日、ノイマイヤーの作品を見ましたけれど、マクミランに比べると踊りのシーケンスはだいぶ短いですね。『リーズの結婚』はアシュトンですけれど、新国立劇場バレエ団のレパートリーにはないですね。

小野 大変魅力的な演目ですね

----バランシンも踊りましたね。

小野 バランシンを踊るのはとてもうれしいです。なかなか機会がないですから、本当に楽しみです。あのような作品をもう何十年も前に作っていたというのはすごいことだと思います。シンフォニック・バレエといわれますが、感情を揺さぶられるものが踊っていても観ていてもあって、決して無機質なダンスではありません。ドラマティックに感じる時が多々あります。

----『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』もすごいですね。あれもビントレーの時に上演しましたね。

小野 そうです。『アポロ』『火の鳥』『結婚』が上演されたシーズンでした。ダンサーたちはみんなかなり耳が敏感になっていました。

----でも観客はあまり入らなかったみたいですね。

小野 そうかもしれませんが、お客様はとてもエキサイティングに感じてくださっていたと実感しました。

----『パゴダの王子』ではさくら姫という役でしたが、とてもお似合いだな、と思っていました。今回の公演は「バレエ・ローズ」というタイトルで、バラが物語のアクセントになっています。小野さんはどんな花がお好きですか。

小野 お花は好きです。どちらかというと枝に咲いてる花が好きですね。臘梅(ろうばい)とかも好きです。

---臘梅はまさに今、咲いていますね。

小野 初めて見たときに、これ本物の花なの?って見ていました。

----色はどんな色がお好きですか。

小野 お花ってみんな自然の色で咲くので、どの色も好きです。

----『ドン・キホーテ』のキトリは赤いバラを髪に飾って踊りますね。

小野 赤と言ってもバラの赤って、普通の絵の具では出せないような不思議な色ですね。とてもエネルギーを感じます。

----バレエの教えについては関心をお持ちですか。

「バレエ・ローズ」リハーサルより 小野絢子、福岡雄大

「バレエ・ローズ」リハーサルより
小野絢子、福岡雄大

小野 そうですね、教えるとなるとしっかり勉強しなければならないと思います。私が伝えられてきたものを次に伝えていく、ということはしたいと思います。教えると言ってもいろいろで、教室で小さいお子様にバレエを一から教えるとか、バレエ団で作品を教えるとか、それによって全然違いますから。

----バレエ団では、新しい人たちから質問されることも多いのではないですか。

小野 ありますね。特に、最近はレパートリーの再演が多いので、細かい説明まではなく振付が始まることもあります。そういう時に、この振りはどういうものかとか、どういうシーンなのかとか、迷ってしまった時に聞かれることはあります。質問されて答えることは、同時に自分も考え直すことですから有益です。

----今、主役を踊っていらして、かつて踊り始めたころに言われた教えの言葉が蘇ってくる、というようなことはありますか。

小野 そうですね、テクニック的なことはいろいろありますが、日本舞踊の先生が稽古の時におっしゃっていた「そこに心がないと本物にならない」という言葉がいつもどこかに残っています。もちろん、テクニックは必要ですが、でもそこに心がなければ本物にならない、という言葉を私は大切にしています。子供の頃に教えていただいた言葉なのですが、その時は、あ、そうなんだ、くらいにしか思っていなかったのです。でも、今、プロとして踊るようになって、どうしても苦手なテクニックがありますから、あ、これうまくいくかな、とか考えてしまいます。でもそこで、今、どういうシーンでどういう役柄か、ということを考えるとその登場人物の心が理解できて、楽になります。

----いろいろな振付家の作品を踊られてきましたが、誰か踊ってみたいとかいう人はいますか。

小野 今はバレエ団内でもダンサーが振付を作っています。そう言う作品で踊るチャンスがあれば踊ってみたいですね 。

----米沢さんの振付を踊られたことがありましたね。

小野 いつもはダンサーとしての彼女しか知らないから、振付を一緒にワークしてみると、ああ、こんな一面もあるん だ、と気がついて興味深かったです。

----ウェイン・イーグリングの振付はいかがですか。

「バレエ・ローズ」リハーサルより 小野絢子

TEXT

小野 そうですね、古典作品と大きくは変わっていませんが、ところどころに自分のエッセンスをいれています。またダンサーとリハーサルをしているうちにどんどん難しくしていくことがあります。

----春休み公演なので、小さなお子さんも観に来てくださると思います。未来のダンサーになにか一言お願いします。

小野 きれいなまっさらな心で、バレエを観ていただけるとありがたいです。幼い頃は余分な知識を持たないで舞台を観るのが一番いいと思います。いろいろ勉強してから観ると言う楽しみ方もあるでしょうが、自分の感性に素直に観ていただければ、好きなものがよくわかると思います。一番怖いお客様ですね。

----今回はキトリを踊っていただきますね。

小野 『ドン・キホーテ』は、二度ほど踊ったことがあるくらいで、あまり縁がなかった演目です。ですから、私にとっての新しいワークとしてとても楽しみにしております。

―-期待しております。お忙しところお時間を取っていただきまして、ありがとうございました。

Chacott バレエ鑑賞普及啓発公演
〜ようこそ美しきバレエの世界へ〜
一夜限りのおしゃれなロマンティック・ファンタジー

Ballet Rose in Love Stories
〜バラで綴るバレエの恋の物語〜
演出・振付:伊藤範子

●2018年3月26日(月) 開場17:45 開演18:30
●新宿文化センター 大ホール

▼公式サイト
http://www.chacott-jp.com/j/special/ticket/balletrose/

「バレエ・ローズ」公演直前インタビュー

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
関口 紘一

ページの先頭へ戻る