フラメンコのの魅力を様々な角度からお伝えするフラメンコエッセイ「アマポーラの一撃」と、フラメンコのステージに咲き競う花々をレポートする「巷に咲き競う、フラメンコの花々の評判記」。フラメンコに関する話題をご紹介いたします。





関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
小島章司舞踊生活50周年記念『戦下の詩人たち<愛と死のはざまで>』

 小島章司が舞踊生活50年を記して『戦下の詩人たち<愛と死のはざまで>』を上演した。これは、ロルカの伝記作家、イアン・ギブソンの著書『戦下の四人の詩人たち』に触発されて、アントニオ・マチャード、ホァン・ラモン・ヒメネス、フェデリコ・ガルシア・ロルカ、ミゲル・エルナンデスというスペイン内戦の悲劇を生きた四人の詩人の魂にオマージュを捧げる作品である。

 小島は、2005年にパブロ・カザルスの平和を追求する精神を讃える『鳥の歌 A PAU CSALS』を創り、06年にはロルカの没後70周年を記して『FEDERICO』を上演。そして今回の『戦下の四人の詩人<愛と死のはざまで>』をもって、<愛と平和の三部作>の最終章としている。
 この公演では、スペイン国立バレエ団、エバ・ラ・ジェルバブエナ舞踊団、アントニオ・カナーレス舞踊団などに振付けを提供し、現在スペインで人気を集めるハビエル・ラトーレが演出・振付を担当、舞台美術はスペイン在住の画家、堀越千秋、音楽監督のチクエロが新たに全曲を作曲した。
 ダンサーは、ラトーレの愛弟子ナニ・パーニョス、イレーネ・ロサロをゲストに迎え、ベゴニャ・カストロおよび小島章司フラメンコ舞踊団が踊った。

 小島の緊迫感が張りつめた踊りは、年を経るごとに純化し深い説得力をもって観客に迫ってくる。
「何を愛するか分からぬまま すべてを愛するのは何と悲しいことだろう! 同情した星たちが 私に語りかけてくるようだ・・・」と詠ったラモン・ヒメネスに代表されるスペイン内戦下の詩人たちの孤独な魂が、小島の指先に宿っているかのようだ。
 それはきっと、カルメン・アマージャの踊りに衝撃を受けて、フラメンコを一筋に追求した小島の揺るぎなく鋭い芸術的信念が、愛と平和という均衡を保たなければならない理想に向かって、全身を捧げているからなのだろう。
 パーニョスの端正だが、深い情熱を秘めた踊りにも感心させられた。
(11月30日、ル テアトル銀座)


『花がたみ』蘭このみスペイン舞踊公演

 蘭このみが四年ぶりに新作公演を行った。
 第1部は、「スペイン舞踊組曲〜Los Tres Colores(三つの色彩)」で、<〜花 一筋の思い ワルツによる〜>と付記されている。
 まずはシュトラウスの「美しき青きドナウ」にのって、蘭このみと彼女のスペイン舞踊団、そして内田香は出ていないが彼女が率いているRoussewaltz(ルッシュワルツ)が、鮮かな色彩のスカートを翻して踊る。衣裳デザインは新国立劇場バレエなどで活動しているルイサ・スピナッテルリ。続いてカンテとギターによる蘭このみのソロ、貞松・浜田バレエ団出身でミラノ・スカラ座バレエ団やマリシア・ハイデが芸術監督だったチリのサンチャゴ市立歌劇場バレエ団で踊った中田一史と蘭のデユエット。再び「美しき青きドナウ」に戻るという、なかなか洒落た構成で、フラメンコを他のダンスのコントラストを際立たせた。国際的舞台でキャリアを重ねてきた中田は落ち着いた踊りでフラメンコとのコラボレーションをみせた。

 第2部「花がたみ」は、世阿弥作の謡曲『花筺』に基づいた踊り。
 謡曲は、越前の味真野の大迹部(おおあとべ)皇子の妃、照日の前(てるひのまえ)が主人公。彼女が留守の間に、皇位継承の要請を受けた皇子は、よく使っていた花筺(はながたみ=花かご)に、春の花といずれ戻るという意味の歌を形見として残して都に上る。別れを悲しんだ照る日の前は、花筺を持って都に向かう。
 紅葉狩りの出ていた継体天皇を出会うが、役人に花筺を払い落とされる。照る日の前はその由来を語り、天皇は舞を所望する。彼女は、漢の武帝が夫人を偲んでその魂を呼び寄せたという「李夫人の舞」を舞う。天皇は、花筺に気づき照る日の前を伴って御所に帰る、というあらすじ。

 天皇には、猿之助のスーパー歌舞伎などで活躍して人気を集めている市川段治郎が扮してさすがに見事な台詞回しを聴かせる。謡は観世喜正、語り吉行和子、横笛は藤舎貴生、さらにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、パーカッションも加わった。
 蘭は、抑えた演技で通し、照る日の前の心情が究極に達するポイントで、一気にサパティアードを使って絶大な効果を上げた。
 春の花と秋の紅葉というコントラストの中に、女性というものの存在を花筺に象徴させて、見事に浮かび上がらせた。謡とナレーションが入ることは少々、くどい気がしないでもなかったが、横笛はじつに印象的に響いた。
(11月27日、ル テアトル銀座)


 

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