関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
マリア・パペス舞踊団が『セビージャ』を世界初演
フラメンコの最前線で活躍し、今日のフラメンコの女王と呼ばれるマリア・パペスが、最新作『セビージャ』を日本で世界初演した。
スペインの西南に位置し、アンダルシア州の中心であるセビージャ(セビリア)は、マリア・パペスの故郷であり、フラメンコの故郷であり、また、メリメの小説『カルメン』の故郷でもある。
パペスはこの作品について、<これまでの長い創作の旅を経て、さらに創造という新しい挑戦の前に、ルーツに帰り、幼少期に帰り、セビージャに帰る。セビージャの舞台は私の冒険のすべての母なる存在だ>、と語っている。
『セビージャ』もパペスのほかのほとんど作品と同様に、彼女が振付け、演出家、映画監督でフェリーニの映画にもかかわたことのあるホセ・マリア・サンチェスが演出している。パペスのダンスのイマジネーションを彼とともにヴィジュアル化し、舞台へと仕上げるのである。また今回の公演には、小松原庸子の協力によって、日本人のダンサーが男女4名づつ出演している。
幕が開くと、月の光にぽっかりと浮かび上がった街の広場で、色とりどりの水玉模様のドレスの女性ダンサーとグレーのスーツ男性ダンサーが、整然と組んだり乱れたり、楽しく集うオープニングのダンスである。女性ダンサーが舞台の中央に集まり、アバニコ(扇子)を使った踊り。そしてパペスのソロで火が付いたように舞台は一気に盛り上がる。
やがて真紅の幕が登場して舞台は闘牛場となる。セビージャの闘牛はフラメンコとともに良く知られている。ギターの独奏でパペスのソロが始まる。長身を生かしたパペスの踊りから、激しい情炎がゆらめき、ほとばしる。たいへんに美しいフラメンコシーンである。
セビージャにはイスラム文化の影響が濃厚に残っている。アルハンブラ宮殿のようなアラベスク模様の建物の中庭で、流水の音、水面に光が映ってパペスをゆらゆらと照らす。水の動きのような踊り、ソロと群舞が華麗に踊られる。セビージャを流れるグアダルキビール川の水だろうか。
そして伝統的に踊られてきたタブロウの中で、セビージャの生活とともに生きるフラメンコが踊られる。舞台に降りてきた紗幕に描かれた有名なヒラルダの塔の影に隠れ、また現れるパペス。すると懐かしい「ベサメ・ムーチョ」が、たっぷりと情感を湛えて踊られる。さらにまた「ボラーレ」の歌声、パペスと群舞が素晴らしい盛り上がりを見せた。ベラスケス(画家)、ムリーリョ(画家)、マチャード(詩人)、クロ・ロメロ(闘牛士)、ガルシア・ロルカ(詩人、戯曲家)、ルイス・ブニュエル(映画監督)などの優れた才能を生んだセビージャ。マリア・パペスは、この地に生れこの地を愛し、この地からまた、新たなインスピレーションを受けて、もう一度セビージャを生きるのである。
「リバー・ダンス」ではマリア・パペスの美しいシルエットに驚いたが、『セビージャ』の初演では、見事なコンセントレーションで創ったフラメンコで観客は圧倒された。ゴヤの絵のような濃厚で鮮烈な彩りが、パペスのフラメンコのくっきりとした輪郭を浮かび上がらせたのである。
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