関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
サラ・バラスの素晴らしいステージ“DREAMS”
今年5月「フラメンコ・フェスティバル・イン・ジャパン」で来日した、サラ・バラスが再び“DREAMS”の公演を行った。
サラ・バラスの舞台は、フラメンコの伝統を尊重し、心のこもったものだった。衣装や舞台のヴィジュアルも全体に黒を基調としたシックな、フラメンコの伝統的な格調を重んじたトーンで一貫しており、非常に印象深いものであった。かといってサラ・バラスの踊りは、伝統的なスタイルにとらわれたものではない。プログラムは8曲の構成になっており、“Seguiriya” だけが、ゲストダンサー、Serranoの振付だったが、サラ・バラスは自身の振付作品同様にすべての踊りを活き活きと見せた。
サラ・バラスは“DREAMS”を日本で再演するにあたって、「肩の小さな動きから歌い手の声の震えに至る微細な動きまで、よく注意してご覧いただきたい」とコメントしている。
実際、サラ・バラスの踊りは、指先はもちろん全身にくまなく脈々と溢れんばかりの情感で満たされている。伝統を尊重した、この精確で厳しいフラメンコのディティールこそ、彼女の踊りの本質である。この踊りの精確なディティール、声、音、響きのすべてが ”DREAMS”を創り、「フラメンコのリミットを乗り越え、ギター、カンテ、足の動きの背後に潜在する、<真実>を見い出すことができる」のである。
さらに言えば、サラ・バラスの踊るフラメンコはコンテンポラリーな印象を与える。彼女の踊りは派手なケレンに傾くことは決してないが、細部に至るまでの動きの中に、あるいはディティールで構成された彼女の踊りの中に、<サラ・バラス>という現代を生きるダンサーの感情が色濃く込められているからであろう。
ともあれ、サラ・バラスの“DREAMS”の舞台を観て、改めてフラメンコの伝統について思いを馳せることができたことを感謝したい。
小松原庸子と小島章司が共演した「彩の国 フラメンコ・フェスティバル」
小松原庸子と小島章司、という日本を代表する二人のフラメンコ・ダンサーの共演が「彩の国 フラメンコ・フェスティバル」で実現した。この二人は、60年代のスペインで同じ師の元で学んでいたことはあったが、ひとつの舞台上で共演するのは、まったく初めてである。それもバレエ団ごと一緒に共演してしまったのである。
まずは両カンパニーによるイントロダクション。そして『月と踊り子』。「月はバイオラーラ(踊り子)になることを夢見てた」という素敵なフレーズが公演プログラムには書かれていた。女性3人による美しい月の光を映し出すようなダンスであった。『ティエントス』は、女性3人と男性2人がタブラオの中のような照明の下で、変幻自在にフォーメーションを変えるシックな美しさを見せる。『グァヒーラ』は裾を絞った水玉模様のロングドレスの5人の女性ダンサーが、華やかにファンを操りながら踊った。『スエニョ』では、小松原舞踊団の女性ダンサーと小島舞踊団の男性ダンサーが、二組のカップルを組んでショールやカスタネットを使い、愛の葛藤を踊った。
第1部のラストは小島章司のソロで『ソレア』。柔軟な上半身、手の動きの中にエネルギーを矯めて身体を舞わすかのような、小島章司ならではの独特の表情を見せる踊り。舞踊の豊穣を身体に現す踊りだった。
第2部の冒頭は、小松原庸子のソロで『シギリージャ』。赤いドレスで登場した小松原の深い悲しみを湛えた踊り。ファン・ホセ・アマドールが踊りに参加するかのように、カンテ・ホンドを歌い、舞台にはりつめた深い情感が漂う。
『タンゴス』では、華やかな衣装の8人の女性ダンサーによる迫力あるサパティアードが響いた。『ソレア・ポル・ブレリア』は、6人の女性ダンサーと2人の男性ダンサーの全員が黒い衣装、トップはノースリーブの揃い。クールな群舞が展開された。
クライマックスの『アレグリアス』では、いつもの黒い衣装の小島とライトブルーのドレスを纏った小松原のデュエット。上手奥の一脚の椅子がアクセントとなり、二人の掛け合いのような踊りもあって、地中海の空に輝く太陽に照らされているみたいに明るく楽しい踊りが繰り広げられた。
そして最後は、全員が登場するフィナーレで、このフラメンコを素晴らしさを際立たせるように、見事に構成されたパフォーマンスは幕を閉じたのである。
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