関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
蘭このみが「桜幻想」と「黒の幻想」を上演

 蘭このみが、第1部「黒の幻想」、第2部は「桜幻想」というスペイン舞踊の公演を行った。蘭のスペイン舞踊の特徴は、日本の古典音楽を使い日本の題材をフラメンコによって舞台化していることである。92年には新内節の弾き語りよる『日高川』を発表したのを始めとして、00年にはやはり新内の弾き語りの『明烏』を踊って評価を高めた。

 そして03年に、坂口安吾の小説『桜の森の満開の下で』を義太夫節などを使い、『桜幻想』を創ったのである。

 物語は、桜の森の近くに住む盗賊が旅人の女を奪い、女の美しさに魅せられて都に移り、女の言うがままに都人の宝やさらには首までも与える。しかし、女は夜毎に首を弄ぶばかりなので都を捨て山に戻る途中、桜の森の満開の下で女が鬼に変ったことに気付き首を絞める……。というもの。

 朝倉摂の美術が、この世であってこの世ではない「桜の満開」の美の有り様を見事に端的に表している。人間の五感が享受できる限界を越えてしまった撩乱たる美である。美はまた残酷であることによって成立しているのである。安吾の想像の中で、満開の桜の美の精霊が女の姿を借りて、盗賊の下に現れたのであろうか。

 盗賊には尾上菊紫郎が扮し、落ち着いた演技を見せる。蘭はフラメンコ舞踊によって、桜の美がのりうつった女の狂気を狂おしく踊る。とりわけクライマックスでは、フラメンコのテクニックが鮮烈な効果を上げていた。主なスタッフは脚本/川崎哲男、振付/尾上菊紫郎、蘭このみ、作曲/鶴澤清治・三味線、浄瑠璃/豊竹呂勢大夫、作曲/猿谷紀郎、演出/原田一樹、美術・衣裳/朝倉摂である。

 第1部では、3章に構成された「黒の幻想」が踊られたが、フラメンコのリズムと流れを巧みに生かして、見事によどみなく盛り上がるショーを手際よく構成してみせた。

 蘭は「アジアの流れを汲むスペインの舞踊フラメンコを日本人としてのとらえ方さらに発揮できればと思っています。それは日本の物語、音楽の作品に限った事ではなく純粋なフラメンコを踊る際の変らないテーマでもあります」と語る。そうした蘭の思いは実現されつつある、といっていいのではないだろうか。



 

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