ダンス・キューブ読者の方が、チャコット・カルチャー・スタジオで“はじめてのダンス”にチャレンジ!

今回は「フラメンコ入門」のクラス。文中で運動不足を告白するレポーターが体験です。












reporter:富田康嗣

No.25 フラメンコ入門
 フラメンコは何度か公演を観にいったり、仕事柄先生のお教室へ顔を出させていただいたりしたことがあるせいか、私自身まったくの初体験であるにも関わらず、なんとなくわかったような気持ちになっていました。そして、ちょっとやれば形ぐらいにはなるだろうという甘い気持ちで体験当日を迎えました。体験後、自らの甘さに気づかされるのですが…。

1回目の体験レッスンですので、動きやすい格好にジャズシューズといういでたちです。もちろん男性用のフラメンコシューズへの憧れはあったのですが、「ずぶのドシロートが形から入っちゃって。」と思われるのも癪なので、ぐっと我慢をしてレッスンにのぞみました。 着替えを済ませ、先生がいらっしゃったところでご挨拶させていただきました。教えていただく山口先生は、すっと背筋の伸びた凛とした雰囲気をお持ちの方です。毎日ダラダラと生きている自分が恥ずかしくなります。「今日はいっちょやってみるか。」、そんな気持ちを盛り上げてくれる先生です。レッスン開始の時間が近づくにつれ、心地よい緊張感がみなぎります。

まずはタオルを使ってのストレッチです。身体を痛めないように事前のストレッチはとても重要です。運動不足の私なんかは、情けないことにこのストレッチの時点で息をはずませてしまいます。まだフラメンコのフの字も始まっていないのに先が思いやられ、日々の暮らしを反省しました。長めのタオルの両端を持ち、前後に肩を回したり脇の筋を伸ばしたりするストレッチは自宅でもできそうで、肩凝りなんかにも効きそうだなと思いました。

ストレッチを終え、まずはフラメンコで足さばきの基本ともいえる「セビジャーナス」に挑戦しました。 先生や他の生徒さんの立ち姿にならって、腰に手を当て、姿勢を正します。そこまでは良いのですが、いざセビジャーナスが始まると足を正しく動かすことばかりに気がいって、姿勢も何もあったもんじゃありません。フラメンコというよりは中学時代に踊ったフォークダンスのようになっている自分の姿を鏡で見て、思わず苦笑です。山口先生の他にもうひとりアシスタントの小島先生がついて、ほとんどマンツーマンでご指導していただきました。おかげで私なんかよりも100歩も200歩も進んでいる他の生徒さんたちの足を引っ張ることなくレッスンできました。根気強く指導していただいたおかげで、しばらく続けていくうちにこんな私でもとりあえず「セビジャーナスらしきもの」まではいけました。

私がフラメンコで一番興味があるのが、サパテアード(足を踏み鳴らしてリズムを刻むこと)です。舞台を観ていてもあの地面を踏みならす力強い靴音は、フラメンコ独特の熱気を伝えてくれます。早速挑戦します。 ジャズシューズなので足を痛めないように軽く踏み鳴らすようにと指導いただき、とにかく動いてみることから始めたのですが、これまた思った以上に複雑な組み合わせがあるのです。右足と左足、つま先とかかと、それぞれがいくつかの組み合わせで違う動きをします。これでは脳が4つ必要なのでは?サパテアード考えたやつ出てこいと、自分の腑甲斐なさから逆ギレしてしまいます。結局簡単なリズムしか出来ずじまいでしたが、舞台で見たあの熱を帯びたフラメンコ舞踊のほんのちょっとだけでも体験できたような気がしました。

次に、ブラソ(腕)の動きです。通常男性はやらない所作なのですが、今回は体験ということで挑戦しました。自分では先生と同じ動きをしているつもりなのですがまったく違い、ただ右手と左手をグルグル回しているだけでフラメンコ独特の優美な動きには程遠い有り様です。指を動かしながら同時に手首を回すと頭では理解しているつもりなのですが、やってみるとどうしてもぎこちなくなります。眠っている左脳が悲鳴を上げているのを感じました。先生や周りの生徒さんの優美な手の動きを見て、これがフラメンコだよな、と妙な感慨を覚えるしまつです。

フラメンコといえば、カスタネットの存在も忘れてはなりません。あの連続して鳴り響くカスタネットは、気持ちを熱くするものがあります。ただどうやってカタカタカタカタとかなり速いスピードで連続してカスタネットを鳴らしていられるのかずっと疑問でしたが、今回の体験で解決しました。皆さん、あの連続音はただガチャガチャ叩きつけていると思っていませんか?あの響きは両手の指全てを規則正しく使って奏でられるリズムなのです。もちろん初めての私にはできません。不協和音を鳴り響かせる結果となりました。 今回一番苦労したのは、カスタネットを鳴らしながら、歩くレッスンです。カスタネットは4拍子、足は2拍子で歩く、ただこう書くとなんでもないようですが、まぁ一度やってみてください。手と足が同時に出たりしてロボットのような動きになってしまいます。先生、生徒さん笑いを堪えてくれてありがとう。 ただ弁解するようですが、カスタネットをある程度マスターするには3ヶ月はかかるとのこと。リズムも何通りもあり、右手と左手を違う打ち方で組み合わせたりと、複雑なことこの上ありません。軽々とやってのける先生の姿を、尊敬の眼差しで見つめていました。 以前から感じていたことですが、カスタネットと足を踏み鳴らすサパテアード、自らが踊り手でもあり、楽器でもある。フラメンコが人を熱くさせるのは、洗練の中にどこか原始的な要素を持っている点もはずせなさそうです。








  







 最後にペアになって「パッサーダ(すれ違う)」をやりました。セビジャーナスらしき動きは出来ても、相手とすれ違う時はまごついてしまいました。上げた足を引っ込めて反動をつけたような形で前へ持っていく。フラメンコは何もかもが複雑です。正直ここまでくると「いったいどうなってるんだ」と思ってしまいますが、皆さんはスイスイと、気持ちよさそうにパッサーダしています。ペアで踊っているのですが自分の事に精一杯で、自分の世界に入り込んでいる内に終わってしまいました。

結局、あっという間の1時間30分が過ぎ、自分のリズム感のなさと運動能力の悪さに打ひしがれましたが、それなりにやり遂げた気持ちはあり、すがすがしい充実した時間でした。どうしても最初は頭でこうしなきゃ、ああしなきゃとなってしまいますが、自然と音楽にのって身体が動くようになれば気持ちいいでしょうね。 山口先生の「フラメンコはリズムを遊ぶ踊り。」という言葉に、なるほどフラメンコのルーツはジプシーの踊りにあったと再認識しました。もちろんそこまで到達するのには努力と時間がかかるのでしょうが、自由にリズムを遊ぶフラメンコは、やはりスペインの広い真青な空の似合う、懐の深いおおらかな舞踊なのだと思いました。

家路への道すがら、まだ耳の片隅にカスタネットの響きを残しながら、交差点で立ち止まると思わず小さくセビジャーナスしてしまう自分に、「踊る」ということの「喜び」とは頭で考えるようなものではないなと、感じさせてくれた体験レッスンでした。


■今回教えていただいたのは…

山口百合子先生

16才よりジャズダンスを始めダンス専門学校にて各種ダンスを学び、卒業後イベントなどで活動する。93年より小林伴子のもとでフラメンコを始める。04年現代舞踊協会「五月の祭典」に舞踊団員として参加。03、04年には日本フラメンコ協会新人公演にソリスタとして参加。
現在ラ・ダンサの講師を勤める。

 

 

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