解説:文葉

パ・ドゥ・シュヴァル(仏/pas de cheval)

馬脚のしなやかな動きを模したステップ。シュヴァルはフランス語で「馬」。気品あるサラブレッドの、前足のひづめが大地を蹴り上げるような、美しいお馬さんの脚のようです。

振付によって異なることもありますが、このパが盛り込まれている踊りと言えば『ドン・キホーテ』の第3幕キトリのヴァリエーション。対角線に進むキトリの細かいステップがまさにパ・ドゥ・シュヴァルです。それまで大きな動きが続いていたところに足だけの可愛い動きになりますよね。クライマックスの回転技への助走と言わんばかりの抑えた動き。つま先が話しかけてくるような。なんだかちょっとした駆け引きをキトリとしているような。華やかさに溢れたおきゃんなキトリの茶目っ気に心を掴まれてしまう、私の大好きな場面です。

シュル・ク・ドゥ・ピエに引きつけてからデヴェロッペをして、ポワント・タンジュで床をつま先でポンと叩く。タンジュの際に軸足はドゥミ・プリエ。キトリのヴァリエーションのときは端からポワントに立っている状態のまま一連の動作を行いますね。デヴェロッペのときも軸足はドゥミ・プリエです。

ヴァリエーションで見ると簡単にできてしまうんじゃないか、と思われる方。ピピー。これが大変なんです。まず第一に、ポワントに立ったまま、ドゥミ・プリエにした軸足に乗るのが難しい。そこでポンポンと細かに飛び跳ねる。バランスの難しさ。さらに、デヴェロッペからポワント・タンジュをなめらかに動かし、パ・ドゥ・シュヴァルに続く足の交換も魅せることの難しさ。脚線美の探求。上半身も優雅に美しく調和させなくっては…。と、動きが小さいからって簡単なワケじゃない。軸足に乗りながらドゥミ・プリエがはじめの一歩でしょうか。これが美しく決まらないと上半身まで自由に使えませんから。出っ尻にならないように、体の軸を上に引っ張るようにしながらドゥミ・プリエ。このとき、完全に体重を乗せて太ももに負担をかけてはダメ。そして、両足の太ももの内側をくっつけるように。ここを離しては絶対にダメなんです。あとはきちんとデヴェロッペすること。ク・ドゥ・ピエとタンジュの間をつま先が単に往復した、というように見えてはダメで、ク・ドゥ・ピエを通ってデヴェロッペが見えてタンジュにならないとダメなのです。気をつけることが山積みですね。でも、ローマは一日にしてならず。日頃のレッスンの積み重ねがあってこそ、体の細部を思うように動かせるようになるわけで。足の動きにまで役の性格がにじみ出せるようにするには、テクニックの基本をまずは押さえよ、それからじゃ。