解説:文葉

フィッシュ・ダイヴ(英/fish dive)

お魚が海に飛び込む、まさにその瞬間を切り取ってリフトで表現しちゃった。そんなイメージの、クラシック・バレエのグラン・パ・ド・ドゥで見られる王道決めポーズの一つ。もちろんお魚は出てきません。バレリーナがお魚役で、キャヴァリエ、つまり男性が水面(舞台では地面)めがけて飛び込んでいるお魚をキャッチしているイメージのリフト、と言えましょうか。女性の体のラインがお魚になぞらえられているわけですね。でも、そこは気品漂うクラシック・バレエ。飛び込むって言ったって、水泳の飛び込みの様に両腕の間に頭をはさみ背中を丸め、水面めがけて真っ逆さま、ではありません。むしろその逆。水面につからないように頭部から背中のラインはとてもしなやかに反られ、支えられている男性の体に巻きつくようにも見えます。女性の頭部は床近く、胴体は男性に抱きかかえられつつ男性の胴部分と片方の太ももとに挟まれながら脚に向かうほど斜め上に持ち上がって、足は男性の脇の下から斜め上に向かって抜けています。客席から見て前側の足は曲がらずにょきっとそのまま出ていて、後ろ側の足は男性にひっかかるように鍵を作るように膝から曲がっています。腕は第1アラベスクのときのように客席から見て奥側の腕を前に置くのが通常パターン。このリフトを沢山見られるのは、何といっても『眠れる森の美女』の第3幕のグラン・パ・ド・ドゥの最初の曲、アダージョです。版によって違いますが、曲が高まる中程に、くるくるくる〜っとアン・デダンのピルエットをしたオーロラ姫が次の瞬間、このフィッシュ・ダイヴに!という難技が連続で出てくることも。そして最後はこのポーズ。男性も両手を広げ、腕のサポートなしのフィッシュ・ダイヴでにこやかに華やかに締めくくられます。

このリフトに入るのに第1アラベスクから行うのがノーマルではないでしょうか。女性がアラベスクしているのを、同じ方向を向いた男性が後ろから、アラベスクしている動足を客席側の腕で抱え、奥側の腕で女性のウエストあたりを下から抱えます。そしてそのまま女性を宙に浮かせつつ女性の頭部を下に傾けます。その時、男性は女性の骨盤を自分の胴と客席に近い脚の太ももとの間に挟み込み、女性の体をしっかり固定。女性も脚を男性に巻き付けます。女性は自分のチカラでずり落ちないように重力に逆らい、男性は男性で背筋も使って女性を挟んで落とさないようにキープ。力が必要なのに、とても優雅で見た目も美しいです。二人の息がぱっと合って、重力を感じなければ感じないほど美しさが増していきますね。

男女のパ・ド・ドゥの要は、どんなときも途切れることのない滑らかなパートナリングではないかなと思います。どんなときでもお互いを感じながら息を合わせて踊るもの。そんな中でも、リフトは女性が持ち上げられて楽してる、気持ちよさそうに見えるのですが、双方のパワーが拮抗している瞬間なんです。もちろん、男性のほうが、より力は必要だと思いますが…。フィッシュ・ダイヴはひたすら造形美を楽しむものですが、演劇的要素の強い作品の中のリフトは、形そのものに意味が込められていたり、感情のほとばしりだったりと、リフト一つとっても物語るための動きになっています。リフトだけでも大技なのに、そこから深い感情に触れられたとき、この上ない幸せでしばし呆然なんてことも。ぜひ、ライヴの舞台を観てその瞬間に立会いましょう。