場当たり(ばあたり)

計画なくその場その場の思いつきで対処する様を指し、やや非難の気持ちを込めて使われることも多い言葉ですが、舞台用語となればあら不思議、計画・準備に必要不可欠な行為のことでまったく真逆の意味。

舞台で公演を打つ場合、往々にしてお稽古場とは寸法が違いますから、ステージに上がって立ち位置や大道具・小道具、美術の置き場所を決めなくてはなりません。それから照明効果を美しくみせるための当て方・照明の落とす場所の確認も必要です。別項目の「ぱみり」のことですね。
特にバレエでは、コール・ド・バレエが隊形の美しさを見せられるようにするための重要な作業。音楽をかけずに踊りの流れをざっとさらいながら、主な隊形を作って止まってみる。「○○ちゃんもっと上手(かみて)に」「2列目はもっと前に出て、今の場所を覚えておいて」などの指示が飛ぶこともあるでしょう。公演の前、仕込みが終わったら、ゲネプロの前にまずは段取りを確認する。場当たりは集中力で乗り切らないとですよね。

バレエだけでなく舞台を踏む人は空間認識力が高いのだとか。特別な訓練はしていませんが、周囲の人との間隔を計り綺麗な形のまま踊ったり、舞台空間の中でどこに自分は立っているか、舞台上に誰が(何が)どこに配置されているかを考えて演技したりすることが、自然と空間を俯瞰的に三次元でとらえる訓練になっているのかも。通常のレッスンのときから、視線の先だけに気を配っていないで視界を広くして、目線を動かさずに周囲の動きを感知したり、瞬時に隊形をきれいに作る、そして保つように気を配ることがとっても大切なんです。

場当たりは、舞台で使われる場合と日常で使われる場合で逆の意味とばかり思っていましたが、間違った認識だったようです。国語辞典(三省堂)で「場当たり」を引いてみると、「舞台・集会などのパフォーマンスで、その場の機転で面白さを加え、人気を得ること」が第一義で書かれていました。つまり、これってアドリブ。場がわくためのちょっとしたエスプリ。空気を読んでその場を動かすためにひと働き。こういうセンスも一つの空間認識力なのかも。

 

[解説]
文葉

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