藤野 暢央 Text by Nobuo Fujino

【第1回】バレエでよくある疑問や質問編

バレエをたくさん練習して、上達していく自分を実感するのはやはり嬉しい事。しかし先生から受ける注意を即座に理解して習得するのはなかなか難しい・・・ というより、根本的なやり方が分からないまま頑張り続けて、耳にタコができるほど同じ注意を受け続ける・・・といった結果になっていませんか?

まずは僕自身が、バレエを練習してきた中でよく受けてきた注意や、抱えてきた疑問をQ&A形式で簡単にお答えします。その中のいくつかには、必ず皆さんが感じてきたこともあるはず。
そんな “バレエの上達”に関して、体作りに関しての謎を、これからの数回に渡って詳しく述べていきたいと思います。

Q『レッスン中によく「もっと〇〇を引き上げて!」と注意されます。何をどのように引き上げればよいのですか?』

A『人の体は、強い力で「引き上げる」ことが出来ません。どちらかというと地面に近い部分から「押し下げる」ことによって、上の関節に向かって、強く高い塔のように伸び上がっていきます。』

ハンガーに掛かったセーターがあるとします。セーターは体の皮膚や筋肉。
セーターがしわくちゃでも縮んでいても気にせずに、とにかくハンガーを高い位置に掛けようと頑張っていませんか?
ハンガーを掛ける高さを決めたら、まずはセーターの裾に手をかけ、優しく引っ張り下げるイメージを持ってみましょう。

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Q『片足、あるいは両足のルルヴェでポーズを保って、バランスを取ろうとしてもなかなか上手くできません。どうすれば感覚をつかめますか?』

A『どんなに力を込めてまっすぐな棒のようになったとしても、支えがなければ棒は倒れますし、そもそもバランスは探して見つけるものではありません。「バランスの玉」を決めて、そこに体を持っていくのです。』

例えば重心を胃のあたりにある「球」として、その周りの体のパーツを「お皿」だとします。
お皿の上に球を乗せて中心に留めようとすると、ずっとフラフラしながらも定まらないバランス感覚。ならば意識の手でお皿ではなく「球」を持ったとして、そこにお皿を添えるイメージを持ちましょう。

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Q『どうしても肩や首に力が入ってしまいます。どうすればスッキリと力を抜けますか?』

A『肩や首に入る力は、直接入れている訳ではなく、体の別パーツの頑張り過ぎによって「入ってしまっている」のでしょう?
特に重心や軸という「ハードル」を引き上げすぎると、上の方にいる肩はもがき苦しむのです。」


下側にある関節をハードル、土台ポイント。その上にあるものは跳び越える人、頂点ポイントとして、みんな引き上げは土台から全部「上上上うえぇ〜っ!」と頑張ってしまいます。その果てで頂上近くにいる肩がもがくのは避けられない状況なのではないでしょうか?肩を健やかにしたいのであれば、まずは胃袋を下げてみるという感覚はいかがでしょうか。

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Q『足の甲が出るように、もっと爪先を伸ばしたいです。どうすればよく伸びるようになりますか?』

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A『その言葉通り、爪先は「伸ばす」ものであって、スプーンのように丸く「縮める」とか、切ったレモンを搾りきるように「締める」ことのないように!』

足の甲や足首はもちろん、首や肩に昇るまで全身は、足の裏とアキレス腱の力の影響を強く受けてしまいます。
また、土踏まずの筋肉は締まる専門でして、緩め方を知らなくては固まる一方なんです。
足首を伸ばしても曲げても、足の裏がガッチガチのしわくちゃ顔になるほど縮めていませんか?

Q『ピルエットなどの回転が上手になりたいです。どうすればいいですか?』

A『渦の外側の遠心力より、中心をどのように回転させるかを考えましょう。』

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洗濯機が脱水で勢いよく回るとき、内壁面に洗濯物が偏って張り付くと、ガコンガコンとぶれるのが分かりますか?
激しくグランフェッテを回る人のそばで、風が吹いてくるのを感じたことがありますか?それは遠心力を掛け過ぎています。
それと軸を引き上げすぎると? 細い花瓶をろくろで真っ直ぐに保つ難しさを考えてみましょう。


人の体には皆それぞれの個人差はありますが、バレエを踊るために特別に鍛えなくてはいけない!という感覚にとらわれないで下さい。
五体満足で普通の生活をできるのであれば、すでに踊る能力は備わっているのです。
「これができないから、できるように頑張る!」という熱すぎる思いは、時に強張った筋肉となり、慢性的な故障の原因となったりします。
バレエは優雅に楽しく踊るものであるということを、これから皆さんと分かち合えたらいいなと、僕は願います。

(イラスト:あゆお)

藤野 暢央(ふじの のぶお)

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12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。