【第24回】お腹の中の手綱(たづな)〜腸腰筋の目覚め〜

体の大黒柱となる背骨。あらゆる動きの原動力となる脚。これらを股関節越しに結ぶ「腸腰筋」というものを知ってもらい、上手に扱うことで更に動きやすく、踊り易くなる方向性をお伝えします。

「腸腰筋とは?」

体幹トレーニングがメジャーになる中、割と注目度が高くなっているこの「腸腰筋」。表面からパッと触れる部分の全くない、なかなか本格的なインナーマッスルです。イラストでその形状と位置を確認しても、実際に力が入っているかもなかなか感覚が掴みにくいものだと思います。
腰椎と大腿骨を結ぶ大腰筋
骨盤内部と大腿骨を結ぶ腸骨筋
これら二つをまとめて腸腰筋としてお話しましょう。

「腸腰筋とは?」

「この筋肉をどうすべきか?」

筋肉は体のどの部位でも基本、2つ以上の骨の間を結んでいるもの。例えば中指の先をAとし、手首をBとして、AとBを結ぶ筋肉の使い方を考えてみます。
A→Bに向かわせる=骨の並び、手の形を変化させながら、実際に起点部分が終点部分に寄っていく=筋肉を収縮、短くする力=引く、固める、止める。
B→Aに向かわせる=手の形状を変えず、起点と終点の間が張っていく感じがする=筋肉を伸張、伸びる力=押す、伸ばす、動かす。
と感じられるでしょうか?
以前お話した「インナーマッスルは内側で張ることで、その力を最大に発揮する」と考えるとこの腸腰筋は、結んでいる骨と骨を理解して最大に遠ざけることで、より絶大なパワーを与えてくれることになります。

「この筋肉をどうすべきか?」

「手綱はググッと張る」

先ほどのお話から、腸腰筋の端と端が一番離れている時を「手綱がググッと張った状態」とし、距離が短い時を「弛んでいる状態」と考えてみます。お尻まわりを横から見て、バレエをする上で一番多いのが写真AとB。今回お伝えしたいのをCとします。

「手綱はググッと張る」

「手綱はググッと張る」

「手綱はググッと張る」

写真Aは単純に言うと「反り腰」。その状態は「股関節をとことん後ろに向けようとしている」または「腰椎が前倒れになっている」と原因は2つ。あるいはその両方と考えられますが、股間と腰椎が一番近づく距離で、腸腰筋は張りを保てずに「腹筋が伸びてしまう」。腹筋の土台がないが故に、背筋を立てるために上から肩で引っ張り上げる。バランスを保つために太ももにものすごい力が入る、となります。

写真Bはいわゆる「タックイン」。写真Cとよく似ているのですが、その状態はお尻が後ろに突き出てしまわないように、「お尻を締める」ことで骨盤と背骨を立てている。アライメントとして「腰が反らない」「お尻が出ていない」ので正しい感じはしますが、腰椎と骨盤を表面の力で「押し込む」形となるので、内側の腸腰筋の手綱は「持ち手が前進することで弛む」状態になります。
このタックインの状態で突然脚を上げてみた時のイメージが「ピンと張っていない綱引きを、突然引く」。引っ張った人は後ろにこける、つまり骨盤と腰椎は「後方に落ちる」ことになります。

「反り腰」と「タックイン」

「手綱が張った状態」

お勧めの写真Cは、押し込むタックインとは真逆の、骨盤と腰椎を後方へ、内から外へ「押し出す」です。
股関節を前方にキープして、持ち手の骨盤と腰椎を引くことで、腸腰筋の「手綱が張った状態」になり、下腹部を中心にしっかりした土台ができあがります。イメージとしては股関節が出発したがっているトナカイ、骨盤と腰椎が綱を引っ張っているサンタさんです。

「手綱が張った状態」

「お尻は動きの支えに使う」

以前お話した「アルデンテお尻」と繋がる部分ですが、この「骨盤を後ろに張る」という感覚には、お尻の力をどのように使うかが重要なポイントになります。
「お尻を締める」=お尻の割れ目を挟むように閉じる。というアクションは、大殿筋が骨盤を「押し込む」ように縮まることであり、その対面、骨盤の内側にいる腸骨筋は、張ることが出来なくなります。また、梨状筋などの骨盤の内と外を結ぶ外旋筋群も縮む=弛む状態となり弱くなります。「お尻を締める」ということは「お尻の芯が抜けて弱くなる」と考えて下さい。

それではどうすればよいのか?
骨盤が表から締められると弱くなるので、「内から広げて張ってしまおう」です。お尻ひとつひとつが「野球のグローブ」と考えてみましょう。ボールをグローブでしっかり握ってしまう感じが固まる方。これは骨盤自体を後ろに引いているとしても同じ。目指すところは「動き始めにグローブを開いてボールを放す」。動きの極まりに向けて「グローブをしっかり開く」です。

「お尻は動きの支えに使う」

しっかりと手綱を張ったサンタさんを想像して、下腹部の強い安定感と強い軸。そして軽くなってくる脚を楽しんで下さい。

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>>> エクササイズ[ 24 ]「Standing Roll Up with the Wall -エクササイズ-」

バレエ・ピラティスによるカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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