藤野 暢央 Text by Nobuo Fujino

【第19回】番外編・眼力 〜広がる視界で広がる体〜

「目は口ほどにものを言う」といいますが、踊り方や体の動きを見ていると、その人がどういった「目の力」を入れているか分かってしまうものです。今回は「体に伝えたい力を、目から整える」というお話です。

「視界を広げよう」

最近では携帯電話からスマホ。パソコンの普及が広まり、世界中の人が一日の大半を「手元の画面に焦点を合わせている」という、まさに「近眼時代」になっています。人の体としては、これはとっても悲しいことなのは、実は誰しもが感じていることではないでしょうか?僕ももちろん、無いと困るというほど「日常的な存在」として使っています。

「一点のものに焦点を合わせる」=「近眼」
「視界全体を見ようとする」=「遠眼」として考えて下さい。

DanceCube19_001.png

焦点を近くや遠くに変えるのは、目のレンズの厚みを調整することで行われ、それは眼球の裏の筋肉の動きによるものです。ものすごく近くを見ると頭の中で何かが「ギュッと締まる、引ける」感じがして、遠くを見るとそれが「ジワーっと緩む、前に広がる」という感覚があります。
この感覚は、実はそのまま「頭を後ろに引く」と「前に出す」形に繋がります。例えば、目の前に飛んでいる蚊を見つめながらピケアラベスクをすると、顔が引けて首も胸も締まるはず。逆に、雲ひとつない青い空を眺めながら立つと、背骨から後頭部が「上がって前に乗る」感じがすると思います。

DanceCube19_002.png

「鏡の世界は想像で」

少し話が変わりますが、世界中のスタジオにほぼ100%備え付けられている「鏡」をどのように使うかのお話です。結論から言いますと、鏡は「見ない方がいい」。舞台上で「鏡を見ている雰囲気」は必要ないので、そもそも「鏡はなくていい」と思います。
手で「きつね」を作って、それを鏡で見てみましょう。指を動かしているという意識は、鏡の中の手に注がれてしまい、本物の手はまるで存在しないかのように、意識レベルが下がってしまいます。また、鏡の手がきつねの形になっているかどうかを見て確認するという「目で見る」感覚を第一にすると、「体を動かす」という意識は消えてしまいます。

1611_01.jpg



鏡や他の人の動きを凝視すると「見る」という動作に終わってしまいます。踊るときは視界全体を「漠然と眺めている」と、伸びのある動き、大らかな表情で踊ることができます。

それでは「鏡を見ないようにする」と意識してみると、それはそれで「目を使って、見ないようにする」という意識が表に出てしまい、目がキョロキョロしたり、挙動不審な動きがぎこちなさとして表れます。そこで有効的なイメージ。鏡の向こうはスタジオの壁の向こう側。廊下だったり表通りだったりします。そこに「もう一人の自分」が立っていて、同じ動きをしている。それを心の目で凝視してみてください。目の意識が消えて、不思議な架空空間で「体の動きを考える」状態に陥るでしょう?これが「体の意識」です。

1611_02.jpg

人は「目に見えるもの」を一番強い情報として受け取ってしまうほど、五感の中でも「視覚」を優先的に使ってしまいます。しかし他の動物はみな、音や臭い、空気の変化に反応し、意外と「見る」という感覚は後回しなはず。
体をたくさん動かすバレエ。視野を広げて、肌の動きまで感じられるような「五感」の意識を高めてみましょう。

DanceCube19_003.png


>>> エクササイズ[ 19 ]「Book Opening (視界を広げる)-エクササイズ-」

(イラスト:あゆお / 写真:藤野暢央)

藤野 暢央(ふじの のぶお)

n_fujino.jpg

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。