藤野 暢央 Text by Nobuo Fujino

【第8回】番外編 体は最高の楽器~音楽性~

バレエや他のいかなるジャンルのダンスも、「音楽と共に踊る」というのは、切っても切れない親密な関係にあります。音楽は「耳で聞いて、体を合わせて踊る」ということではなく「体で感じて、体で音を奏でる」ということは、ダンサーよりも音楽家の方が身についているのではないかと思います。

音楽には大きく分けて3つの性質があります。

リズム感=テンポ、スピード、長さの感覚。
音 量 =力、動き、表現の強弱の感覚。
音 階 =力、動きの高低。表現そのもののメロディー。


これら3つはすべて大事。ひとつでも欠けていると「音楽を聴けていない。体が音楽を奏でていない。」ということがバレてしまいます。
今回は「体と音楽の繋がり」をお話します。

「リズム感」


頭の中で「1、2、3、4」と数えて、「5!」で動きだそうとして、実はすでに遅れていることがあります。これは「脳が命令」してから「体が動く」までの伝達時間が意外と遅く(反射神経)、また車が急に走れない・止まれないというように、動きが本スピードに乗る・完全に止まるには、加速と減速が必要になります。

リズム感は頭で考えず、体で感じるように、「呼吸」によって体の浮き沈み、膨らみ縮みを音の流れに合わせましょう。吹奏楽器を吹く人はもちろん、弦楽器や打楽器を弾く人だって、呼吸を使い、体を動かして演奏します。ハーハーしながら楽器を弾くことはできません。音が「123、223〜」であれば「吸う〜23、吐く〜23」などという風に、練習しましょう。

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「音量(ボリューム)」


話し方に抑揚をつけることで、キーワードを強調したり聞き手に興味を持たせるように、踊りの動き、力の入れ具合にも音量の強弱を持たせることで、より深い表現力を得ることができます。喋り声が小さい人の踊りは、どんなにテクニックがあっても「何が言いたいのかよく分からない」感じがするし、ただ全力で威勢がいい踊りも「元気だね」という傾向にあります。

言葉には「オノマトぺ(擬音語)」で物事の状態を示す術があり、日本語はその種類が世界言語の中でも群を抜いて多いのです。「スーッ」と腕を伸ばすか「グッ」とするかで、全く質の違う動きになると思います。
黙って体を動かすのではなく、頭の中で「フワー」や「クルクル〜」など、効果音を考えながら動いてみましょう。

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「音階(キー)」

今回最も深く考えてほしい「力の高さ」の感覚となります。
ダンサーとしては一番必要のない感覚なのでは?と思うところですが、音階を外して歌うと一番「音痴」に聞こえますし、踊りもまた同じなのです。
声楽をされる方はもちろんご存じだと思います。声を正しい音で出すには声帯を絞るわけですが、それには喉周りの筋肉を使います。第一声から正しい音をヒットしなければならないので、声が出てしまう前に「どのくらいの力」を込めるべきか、知っておく必要があります。

008_02.jpg 低音時 008_03.jpg 平音時 008_04.jpg 高音時

プロの歌手になってくると、喉周りだけでなく、お腹はもちろん、全身の構えだって「ド〜ミ〜ソ〜」の力の入れ具合が分かっているはず。ならばダンサーも、アラベスクに立つときに「なんとなく立つ〜」ではなく、「アラベスクは高いド〜♪」と決めて練習をすると、ほぼ毎回同じコントロールでアラベスクが成功します。そこから「ドミソ〜!」と立ちたいのか「ドシラ〜」と下がり気味に立つのかなど「味付け」も出きるようになります。

まずは一発で「ドー♪」をヒットできるように声を出してみましょう。その時体に入る力をしっかり意識して。音階が整ってきたら、せめて「ドミソ〜♪」もしくは「ド↓ド↑」など、1オクターブ飛ばせるコントロールもあると更に良いです。

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日本ではピアノやオーケストラなどの生演奏に合わせて踊る機会が少なく、練習も本番も音源を使用することが多いです。僕がオーストラリアバレエ団に在籍していたときは、複数のバラバラな個性を持つピアニストによるクラス。音楽監督率いるオーケストラによる本番で、毎日「同じ曲でも違う音楽」で踊っていました。
ダンサーは「毎日同じ音と練習法で、本番にそのまま出来るように練習する」のではなく「体というこの世で最高の楽器」をオーケストラと共に、コンサートマスターもビックリなほどに演奏する術を身に付けるべき、だと僕は思います。

皆さんも、音源であれ音の性質をよく聴いて、思った通りの表現ができるように練習しましょう。

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>>> エクササイズ[ 8 ] 「Hundred(ハンドレッド)」

(イラスト:あゆお / 写真:藤野暢央)

藤野 暢央(ふじの のぶお)

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12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。