(荒部 好)

『PLACE』ミハイル・バリシニコフ/アナ・ラグーナ 振付:マッツ・エック

華麗なテクニックと絶妙の表現力で一世を風靡したバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフも齢60歳を超え、近年はホワイト・オーク・プロダクションを中心にコンテンポラリー・ダンスの活動を続けている。クルベリー・バレエ団やマッツ・エック作品などで活躍し、卓越したテクニックでヨーロッパを舞台に独自の存在感を示してきたアナ・ラグーナ。マッツ・エックが振付けた『PLACE』は、この二人が踊ったデュエットである。

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幕開けを間近に控えたスウェーデン・ロイヤル・ドラマティック・シアター。オープニングは、その楽屋やエントランス、客席などに、バリシニコフやラグーナあるいは観客たちが出入りする情景を映した監視カメラの映像から始まった。
舞台中央に正方形の白い敷物と一脚の小さめのデスクがぽつんと置かれただけの舞台に、ワピース姿のラグーナとTシャツにジャケットを羽織ったバリシニコフが登場し、人生経験豊かなひと組の男女の有り様を踊る。
ただ機械的に映し続けている監視カメラの映像から、劇場と言う空間のデスクが置かれた特定の「場所」に焦点が絞られる。それは老年にさしかかった登場人物が共有する「場所」であり、カップルを形成するあるいはかつて形成したすべての人々の人生を象徴する「場所」である。
そこでは人生の様々の局面で、傷ついたり、歓喜の声を上げたり、怒ったり、感動したりして、あらゆる感情を味わい乗り越えてきた二人の登場人物が、まるで歌うかのように踊る。二人はハモったり、ソロで叫んだり、攻撃的に歌ったり、優しく受け入れたりしてお互いの情感を伝えわけ合う。
特別華麗なテクニックを駆使しようとせず、感情の深部を強調しようとするわけでもなく、身近な軽い動きにヴェテランダンサーらしい人間的な味わいを込めた動きをそれぞれが創って、なかなか楽しい舞台を構成した。観客も共感したのだろう、スタンディング・オベーションを贈っていた。
そして、バリシニコフ、ラグーナ、マッツ・エック、この3人に通底していることは、「踊ることは生きることなのだ」という想いではないか、そんな気持ちにさせられた舞台だった。

『PLACE』
出演/ミハイル・バリシニコフ、アナ・ラグーナ
振付/マッツ・エック、音楽/フレッシュカルテット、映像監督/ジョナス・アカーランド、衣裳・美術/ペター・フレイユ、照明/エリック・ベリグルド
2009年5月/収録 スウェーデン・ロイヤル・ドラマティック・シアター 29分+1分
税込み3,360円 発売元 日本コロムビア(株)