荒部 好

『80分間世界一周』

 モーリス・ベジャールは、2007年11月22日、彼のカンパニーが本拠地を置くスイスのローザンヌで永眠した。最後まで未来に向かってダンスを創り続け、この『80分間世界Ⅰ周』は完成に至らなかったが、バレエ団の芸術監督を引き継いだジル・ロマンが残りを振付け、完成させた。
近年のベジャールが創る舞台は、非常にテンポ速く場面転換を目まぐるしく繰り返すものが多いが、この作品はイントロダクションから15の地域を過去のベジャール作品などのエッセンスを踊りながら辿っていくもの。タイトルは有名なジュール・ヴェルヌの小説『80日間世界1周』をもじって付けられている。

 冒頭は、ベジャールの傑作で世界的にその名を知られることになった『春の祭典』の音楽とともに、ダンサーたちのポーズをチェックするベジャール亡き後のジル・ロマン。そしてベジャールのルーツ、アフリカのセネガル。独特のリズムとダンスが観客を魅了して、瞬く間にベジャールの世界に惹き込んでいく。
さらにサハラ、エジプト、ギリシャ、ヴェネツィア、ウィーンと懐かしいベジャール・ダンスが次々と踊られる。中でもミッシェル・ガスカールが踊った『タラサ、われらの海』、ジョルジュ・ドンが弾けるように踊った『恋する兵士』などは、とりわけ印象が深い。気のせいか、ドンやガスカールの面影を宿すダンサーたちが踊っているようにも見える。
インドは、ベジャールのダンスを一段と深遠な世界に導いた地。若き日のドンが踊った『バクティ』の映像が目に浮かぶ。オペラ座をひっくり返してタイトルにした『アレポ(AREPO)』、ジル・ロマンがエリントンの曲で踊った『ハムレット』も爽快なモダニズムを感じさせてくれた・・・・。
ベジャールの死を嘆く時間がないくらいに、アップテンポなダンスの魅力的な旅が展開する。それがまた、ベジャールの真意だったのかもしれない。

 それにしても、地球上の様々の地域を音楽的に鋭く捉え、ダンスにして見せる華麗な才能には、今更ながら感心させられる。ピナ・バウシュも世界の各都市を巡りながら作品を創っているが、ベジャールは彼独自の方法で世界のダンスの神を呼び出すことに成功している。さらに成熟してくれば、ピナもダンスで世界1周を試みることになるのだろうか。最も、彼女の場合は、800分でも足りないかも知れないが。




 

 出演:
ジル・ロマン、エティエンヌ・ベシャール、ジュリアン・ファヴロー、エリザベット・ロス、カトリーヌ・ズアナバール、ダヴィッド・クピンスキー、那須野圭右、ベジャール・バレエ・ローザンヌ、ルードラ・ベジャールバレエ学校生徒
収録:2008年2月、パレ・デ・スポール
収録時間:全プログラム112分(本編90分+特典映像22分)

ベジャール・バレエ・ローザンヌ 
「80分間世界一周」
5,040円(本体価格4,800円)
クリエイティヴ・コア
2009年2月4日発売予定