荒部 好

『マルグリットとアルマン』シルヴィ・ギエム

  シルヴィ・ギエム、ニコラ・ル・リッシュ、アンソニー・ダウエルという配役 でアシュトンの『マルグリットとアルマン』を観られることは幸せだ。21世 紀初頭を生きる私たちの特権といってもよい。恐らくこの配役は、現在、考え うる中で理想的だろう。30年後あるいは50年後のバレエ・ファンが、これほど 美しい、情感あふれるドラマティックな『マルグリットとアルマン』を観られ る可能性は少ない。

  ギエムは、台詞で語るよりもはるかに雄弁に、バレエのパの中にマルグリッ トの感情のすべてを表現している。ギエムの身体の動きのほんのささいな軌跡ま でが、マルグリットがうったえたいこと、うったえたくてもうったえられない気 持ちの屈折を表す。ル・リッシュもまた雄々しく、一途な想いを見事に踊る。理 由を告げずに別れていったマルグリットを難じるシーンなどは、ギエムですらた じたじとなっているようにもみえる迫力であった。ダウエルがまた、愛し合うふ たりの背後にしっかりと構えて、完璧ともみえる演技を披瀝し、この作品をゆる ぎないものにしている。フランツ・リストの「ピアノ・ソナタ」が登場人物たち の心のコアを浮かび上がらせる。演奏はフィリップ・ギャモン。衣裳は、サーの称 号を持つセシル・ビートン。舞台裏映像には、幕間にギエムとル・リッシュが細か い動きの調整しているシーンなどが収められている。
 
  DVDが始めて可能にした表現の領域とさえ言えそうな映像世界である。
  バリシニコフ自身が再振付して踊った『ドン・キホーテ』、『アメリカン・バ レエ・シアター・アット・ザ・メト』もDVDとして発売された。




 

『マルグリットとアルマン』
ワーナーヴィジョンジャパン
DVD/4,762円(税抜)