(荒部 好)

『THE BEST OF KUMAKAWA~since1999~』

熊川哲也のバレエ映像のベストアルバムが刊行された。〜SINCE 1999〜と付記されているので、K バレエ カンパニーを設立した年からの映像の選択して集成したものであることが分かる。
このディスクに収録された舞台もは10作品で、初めて演出と再振付を手掛けた古典全幕物の『ジゼル』(2001)から、2009年にロベルタ・マルケスをパートナーに迎えて初演した『ロミオとジュリエット』までの古典全幕物を改訂再振付けした舞台映像、そして08年にオリジナル作品として世界初演され『ベートーヴェン 第九』、さらにサー・フレデリック・アシュトン振付の吉田都と踊った『ラプソディ』(2001)、02年に初演し06年にはダーシー・バッセルをパートナーに迎えて再演された『若者と死』となっている。改訂した古典全幕物では、唯一『眠れる森の美女』が入っていないが、これはおそらく熊川自身、新たな振付プランを胸に秘めているのかも知れない。

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こうしてK バレエ カンパニー設立以来熊川が手掛けた10年間の舞台を一覧してみて、まず驚くのは作品のクオリティの高さが一貫し安定している、ということだ。改訂した古典全幕物はどの作品にも振付・演出の斬新なアイディアが工夫されており、現代的な感覚で新たに整備されている。
とりわけ、原作小説E.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形とねずみの王様』のイメージを思い切ってとりいれ、バレエのストーリー自体を再構築した『くるみ割り人形』は傑作。現在、世界で踊られている数多くのヴァージョンの中でも最高の『くるみ割り人形』のひとつと言って間違いない。そのほかにも登場人物同士の関係に新しい光を与えることによって、ドラマを新たに甦えらせたのは『ロミオとジュリエット』あるいは『海賊』だろう。そして『ドン・キホーテ』では美術と衣裳まで自身で手掛けた。これは広場の背景に街のランドマークのように水道橋を設置し、スペインの風景を表すと同時に人々の一体感を示してなかなか効果的だった。
舞台美術と言えば、『ジゼル』や『眠れる森の美女』『コッペリア』はピーター・ファーマーと作り、『白鳥の湖』で初めてコラボレーションして以来、ヨランダ・ソナベンド、レズリー・トラヴァースとともに創作を行うことが多くなった。彼らが創る美術・衣裳の際立った幻想的な美しさが、熊川作品の舞台イメージに欠かせないものになってきているのである。
そして、2012年の熊川哲也は新たに演出・振付けた『シンデレラ』を初演して、大いに評判を呼んでいる。この舞台では、熊川哲也はダンサーとしては出演せず、演出・振付に専念している。このさらに10年後、熊川はどんなベスト・アルバムを私たちに見せてくれるのか、楽しみに待ちたいと思う。
特典映像として、熊川哲也スペシャルインタビュー、秘蔵映像集として『放蕩息子』のソロ、秘蔵TVすぽっと、スタジオ収録した『ジゼル』『ドン・キホーテ』のソロが収められており、さらに熊川哲也の足跡10年の記録をまとめたブックレットも封入されている。

『THE BEST KUMAKAWA』〜SINCE 1999〜
税抜6,800円
製作著作 発売元 TBS、販売元 ポニーキャニオン
本編68分、特典映像20分・英語字幕、
主な共演者/『コッペリア』神戸里奈、『ジゼル』ヴィヴィアナ・デュランテ、『ラプソディ』吉田都、『白鳥の湖』ヴィヴィアナ・デュランテ、スチュアート・キャシディ、モニカ・ペレーゴ、『海賊』浅川紫織、スチュアート・キャシディ、『ロミオとジュリエット』ロベルタ・マルケス、『若者と死』ダーシー・バッセル、『くるみ割り人形』康川和恵、『ドン・キホーテ』荒井祐子、『ベートーヴェン 第九』K バレエ カンパニー