(荒部 好)

『ドン・キホーテ』全3幕 キューバ国立バレエ団

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キューバ国立バレエ団はアリシア・アロンソが1948年に作ったバレエ・アリシア・アロンソが母体となって設立された。アロンソはアメリカン・バレエ・シアターの前身であるバレエ・シアターや、バレエ・リュス・ド・モンテカルロなどで踊り、多くのクラシック・バレエを極めた。アロンソはキューバ国立バレエ団のプリマとして活躍してきたが、とりわけ自身が主演し振付けた『ジゼル』は名作として評価が高い。
『ドン・キホーテ』は、プティパ、ゴールスキーの原振付に基づいてアロンソが振付けたものだが、独特の演出が非常に興味深い舞台となっている。

2006年の世界バレエフェスティバルに参加したヴィングセイ・ヴァルデスとロメル・フロメタがキトリとバジリオを踊っているが、特に、ヴァルデスのバランスと安定感のある身体能力は目を見張るものがある。クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥでは、ヴァルデスがスーパーバランスを連発して喝采を浴びれば、フロメタもスピード感あふれる動きで舞台を巡り、高々と掲げるリフト、軸がぴたり決まったピルエットやグランフェッテが連続して観客を圧倒。さらに思わず「オーッ」と声をあげてしまう超絶技巧が織り込まれるじつにエキサイティングな舞台である。
演出は、しばしばドン・キホーテの出立の様子が描かれるプロローグはなし。キホーテはこの物語の特別な存在ではなく、スペインの街にいるちょっと変わった人物という感じで、キトリとバジリオの結婚騒動の最中にサンチョ・パンサを引き連れてのそりと現れる。キトリがその騒ぎの中でロマの娘を助けるといったエピソードや、キホーテがキトリにドリアードの女王をイメージするという伏線を巧みに配しているので、森に迷い込んだキホーテの行動と幻想がきわめて自然に感じられる。さらに、ロレンツォは力づくでキトリとガマーシュの結婚式を敢行しようとするので、そこで披露されたバジリオの狂言芝居はかえって効果を上げるし、観客も大いに楽しめる。ここではエスパーダやメルセデスも一緒になって街の人々みんなで、庶民の仲間のキトリとバジリオの結婚を応援しているのがよく分かる演出だ。
そしてダンスは、スペインの街の中から、尽きることのない泉のように次々と湧き上がってくる。踊ることはそのまま生きることになっているので、街の人々やロマの集団はもちろん、ロレンツォもガマーシュもサンチョ・パンサもキホーテも踊って踊って、さらに踊って気持ちを表している素敵なバレエだった。
特典映像に、90歳を既に越えたアリシア・アロンソが登場、矍鑠としてインタビューに応じているのには驚いた。世界大戦前のバレエを知る貴重な舞踊家である。

『ドン・キホーテ』全3幕
発売元/日本コロムビア株式会社
価格/5,040円(税込)
2007年パリ・グラン・パレ収録、127分、日本語字幕付
2011年6月22日発売

振付/アリシア・アロンソ、原振付/プティパ、ゴールスキー、音楽/レオン・ミンクス、美術/サルヴァドール・フェルナンデス、演奏/ジョバンニ・デュアルテ指揮、ハバナ大劇場管弦楽団
キトリ/ヴィングセイ・ヴァルデス、バジリオ/ロメル・フロメタ、ドン・キホーテ/ダイロン・ヴェラ、メルセデス/サダイセ・アレンチビア、エスパーダ/ミゲランヘル・ブランコ、ドリアードの女王/ジャネラ・ピネラ、キューピッド/アイマラ・ヴァサーリョ、ガマーシュ/エルネスト・ディアズ キューバ国立バレエ団