(関口 紘一)

マシュー・ボーン『ザ・カーマン』

MATTHEW BOURNE'S "THE CAR MAN"

マシュー・ボーン率いるニュー・アドヴェンチャーズの『ザ・カーマン』の舞台が映像となって上映される、という。試写会の呼び掛けがあってので見て来た。『ザ・カーマン』は2000年に英国プリマスのシアター・ロイヤルで世界初演され、さらにロンドンのオールド・ヴィック・シアターで上演された。その後、リスボン、テルアビブ、セントポール、ロサンゼルス、バークレーとツアーを重ね、2002年には日本でも上演された。この映像は、2015年4月に幕を開けた最新ツアーのサドラーズ・ウェルズ劇場の舞台を映像に収録したものである。

私は東京公演の舞台も観たが、その以前にロサンゼルスで上演されるはずの公演を取材した。それは2001年9月11日にロサンゼルスのアーマンソン・シアターで幕を開けるはずだったから、私は10日にはマシュー・ボーンと主演予定のウイル・ケンプをインタビューした。ところが、いよいよ本番の舞台となった翌朝、ニューヨークは同時多発テロの惨劇に見舞われ、すべての交通機関が止まり、すべてテレビ放送の画面は”US be attacked”と見出しを掲げ、貿易センタービルを襲った悲劇の情報を伝え続けた。もちろん、『ザ・カーマン』のアメリカ初演も中止となった。後日、無事取材を終わることができたが、この作品を論じるためには、私はどうしてもこうした出来事の説明から入らなければならない、業を背負わされてしまったような気持ちになってしまう。

THE-CAR-MAN01.jpg Photo Chris Mann

マシュー・ボーンは、映画の名場面のインスピレーションを創作の参考としている場合が多い。新作を創る際には、ダンサーたちを集め、新しい作品について語り、関連する映像をみんなでみてディスカッションする、という。『ザ・カーマン』もそうした映画の影響を見て取ることが出来る。
タイトルの『ザ・カーマン』は、オペラなどで描かれたファム・ファタールの「カルメン」を意識していることを表わしている。(日本初演時の日本語タイトルは『ザ・カー・マン』だったが今回の上映では『ザ・カーマン』と表記されていた)19世紀のオペラの主人公カルメンは、「運命の女」だが、21世紀のこの作品の主人公のルカ(旅人)は、運命の男。ボーンは、ビゼーの音楽をダンス曲にアレンジしたシチェドリンの『カルメン組曲』にも心を動かされて、この作品を創ったとも語っている。
ダンスはペアで絡み合うエロティックな群舞を繰り返し、「キッチン・セックス」を思わせるテーブルや椅子を使った大胆なパ・ド・ドゥや、感情の深い部分を浮かび上がらせるようなバイオレンスなソロが繰り広げられる。フィルム・ノワールの香りがする物語は、ルキノ・ヴィスコンティの傑作映画『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(原作ジェームズ・ケイン)を彷彿とさせる。ヴィスコンティは、放浪する男と家に留まることに執着する女が、対立しつつ魅かれ合う恋愛の悲劇を描いているが、『ザ・カーマン』では危ういバランスを保っている小さなコミュニティに、突然登場した奔放な流れ者が起こすドラマを描く。強烈な欲望が際どいセックス描写によって浮彫りにされる。マシュー・ボーン得意のドラマを、鮮烈な音楽とダンスによって描く衝撃的なダンスである。

THE-CAR-MAN02.jpg Photo Johan Persson THE-CAR-MAN03.jpg Photo Johan Persson

PURODUCTION
演出・振付/マシュー・ボーン
セット・衣裳デザイン/レズ・ブラザーストーン、音楽/テリー・デイヴィス

MUVIE STAFF
監督/ロス・マクギボン、プロデューサー/ルーシー・コンラッド

■『ザ・カーマン』公開情報
6月25日(土)から
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
公式HP:http://matthewbournecinema.com