森 瑠依子

伝説のダンサー、ロイ・フラーの人生を描いた映画『ザ・ダンサー』公開

6月3日(土)、モダンダンスの先駆者、ロイ・フラーを主役とする映画『ザ・ダンサー』が全国公開される。ロイをフランスのミュージシャンのソーコ、ロイを支えるルイ・ドルセー伯爵をギャスパー・ウリエルが演じるほか、ロイが見出したイサドラ・ダンカンの役で、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘で当時16歳のリリー=ローズ・デップが出演していることも話題になっている。

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ロイの人生を描いているとはいえ、この物語は彼女の厳密な伝記ではない。たとえば映画で彼女が執着を見せるイサドラとは、実は私生活ではそりが合わなかったらしいし、ロイと友人以上、恋人未満の微妙な関係を続ける魅力的なキャラクターのオルセー伯爵は架空の人物である。
しかし、一番の見所であるロイのダンスは、可能な限りオリジナルの復元が試みられている。ロイを演じるソーコは、ロイのダンスのスペシャリスト、ジョディ・スパーリングから1か月にわたる指導を受けて撮影に臨んだ。巨大な絹の衣装を旋回させて流動的な動きを作り出すロイのダンスは、映画でも描かれているように肩と腕を酷使するために肉体の疲労が激しく、ロイは3日おきにしか踊れなかったという。
彼女が舞台に立ち始めた19世紀末の一般的なダンスはオルセー伯爵の言葉にもある「ディヴェルティスマン(気晴らし、娯楽)」で、ヴァラエティショーの幕間に提供される余興にすぎず、芸術とはみなされていなかった。そこにロイが動作、衣装、照明、音楽が一体となって構成される、最初の総合芸術といっていい大掛かりなダンスをもたらした。マラルメ、ドビュッシー、ロートレック、ロダン、コクトーらが彼女を絶賛し、光と色彩を効果的に用いたその幻想的なダンスは一世を風靡した。1900年のパリ万国博覧会では彼女のためのロイ・フラー劇場が設置されている。しかしロイの舞台は一代限りのもので後継者を生まなかった。現在では彼女がパリに紹介したイサドラのほうが世界的に有名で、映画にしてもイサドラの生涯を描いたヴァネッサ・レッドグレーヴ主演の『裸足のイサドラ』は50年も前の1968年に制作されているが、科学の知識も必要な大規模な舞台装置を創作し(ロイは衣装や照明の発案で複数の特許を取得している)、イサドラに加え女優の川上貞奴、ロダンのモデルとして知られる花子(太田ひさ)をプロデュースしたロイ・フラーという多才でたくましいアメリカ人女性は、間違いなくダンスの歴史を支えた偉大なひとりである。もし彼女が今のコンピューターの時代に生まれていたなら、どんな個性的な活動を見せただろうか。

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『ザ・ダンサー』The Dancer / La Danseuse
出演:ソーコ/リリー=ローズ・デップ/ギャスパー・ウリエル
監督:ステファニー・ディ・ジュースト
第69回カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品/第42回セザール賞 衣装デザイン賞受賞
2016年フランス・ベルギー制作、108分
公式サイト:thedancer.jp
配給:コムストック・グループ/配給協力:キノフィルムズ
6月3日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
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