(関口紘一)

『ミルピエ 〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』

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『ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』の冒頭は、ミルピエがオペラ座で上演する新作のために、ニコ・マーリーが作曲した出来上がったばかりの曲を集中して聴くシーンから始まる。ニコ・マーリーはコロンビア大学で英文学を専攻したのち、ジュリアード音楽院で作曲を学んだアメリカの現代音楽家。「バレエ・フォー・ザ・フューチャー」で、堀内元が振付けた『Attitude』に音楽を提供していたから、ご記憶の方もいるだろう。このオープニングは、ミルピエのダンスと向き合う態度を端的に表している。
パリ・オペラ座のステファン・リスナー総監督は、20年間君臨したブリジット・ルフェーブルの後任としてピックアップした8人の候補者のなかから、ミルピエをオペラ座の舞踊監督に史上最年少で抜擢した。それは「8人の候補者の中でミルピエだけがプログラムの選択にあたって、音楽を決定的な要素だと考えていました。それが彼を選んだ理由です」と後日リスナーは語っている。(一部ではアメリカ流のファンドライジングの力を買われた、とも言われた。実際、映画の中でも寄付をまとめるシーンがある)
ミルピエはオペラ座に入って、まず、ダンサーの環境を整備し、カドリーユやプルミエやエトワールといった階級にとらわれずに、キャスティングを行った。オニール 八菜を抜擢して『パキータ』『白鳥の湖』などの主役を踊らせて成功させたことはよく知られている。
この映画の中では、レオノール・ポラック、ユーゴ・マルシャン、ジュエルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボ、マリオン・バルボーなどの当時無名だったダンサーを積極的に起用して、自作に踊らせている。映像で見る彼らの素質は素晴らしく、さすがはオペラ座、と思わせるダンサーばかりです。そしてその後、実際、彼ら名を上げ、今日では大いに活躍している。

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©FALABRACKS,OPERA NATIONAL DE PARIS,UPSIDE DISTRIBUTION,BLUEMIND,2016
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また、ホームページ上にチャンネルを設けて、ガルニエやバスティーユの舞台とは異なる作品を映像で見られるようにして、大いに人気を高めた。さらにガルニエの舞台以外の空間(グラン・フォワイエ、サロン・デュ・グラシエ)を使って、ボリス・シャルマッツやティノ・セガールに作品を作らせて公開している。他にもこの映画の中でもレディー・ガガと仕事をしているファッション・デザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペンなどの、ジャンルを超越したアーティストも導入している。
こうした一見、やりすぎではないかと感じられる変革を、意外と穏やかにしかし着実に進行していく。これもミルピエの性格を表しているのかもしれない。しかし、彼はすでに辞任してしまったのだが・・・。
この映画の中では、バレエの世界最高水準を保たなければならない、パリ・オペラ座の今日抱える様々な問題が垣間見え、非常に興味深い。

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©FALABRACKS,OPERA NATIONAL DE PARIS,UPSIDE DISTRIBUTION,BLUEMIND,2016

『ミルピエ 〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』

12月23日(金・祝)より、Bunkamuraル・シネマ他にて全国順次ロードショー

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出演:バンジャマン・ミルピエ(『ブラック・スワン』)
出演ダンサー:レオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボ、エレオノール・ゲリノー、レティツィア・ガローニ、マリオン・バルボー、オーレリー・デュポンほか
監督:ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー
音楽:ピエール・アヴィア
<公演参加クリエイター>
音楽:ニコ・マーリー(「拘束のドローイング」) 衣装:イリス・ヴァン・ヘルペン 指揮:マキシム・パスカル
<DATA>
2015年/フランス/114分/シネスコ/5.1ch/原題:Relève/日本語字幕:古田由紀子/配給:トランスフォーマー/後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本