(荒部 好)

『ジプシー・フラメンコ』

エヴァ・ヴィラ監督作品

かつてカルメン・アマジャというフラメンコ・ダンサーがいたことをご存知だろうか。
一見、細身でやや小柄だが、速射砲のような凄まじいまでのサパティアード、空気を切り裂くような鋭い身のこなし・・・弾けるようにリズムを創り、音楽そのもの、まるでフラメンコの精霊のような踊り手だった。

1407cinema_CarmenAmaya.jpg カルメン・アマジャ(本人)

彼女はスペイン、バルセロナ、ソロモスト地区の極貧の家庭に生まれながら、フラメンコ舞踊を世界的な芸術にまで高めた。ラテンアメリカに渡って最初のブエノスアイレスの公演で大成功を収めた。そしてニュ−ヨークのカーネギーホールで踊り、ハリウッドでは、ロイヤル・フィルの演奏のもと2万人の観衆の前で『恋は魔術師』を踊った。彼女の公演には、オーソン・ウエルズ、グレタ・ガルボ、チャールズ・チャップリン、アルトゥーロ・トスカニーニ、レオポルド・ストコフスキーなどがこぞって駆けつけた、という。

『ジプシー・フラメンコ』は、このカルメン・アマジャを大叔母に持つやはりフラメンコ・ダンサーのカリメ・アマジャが、レジェンドとなったカルメンの舞踊を受継いで、仲間たちとコンサートを開くまでをドキュメンタリー・タッチで描く。カリメはメキシコにいるダンサーの母のメルセデス・アマジャ・ウィニーを呼び、カルメンが生まれたソロモストの街角を歩く。お祭り、伝書鳩、馬に蹄鉄をうつジプシー。ここでは彼らの生活のすべてが、ごく当たり前のこととして受継がれていく。ひとりのミュージシャンが歌う「ジプシーとして生まれただけで、悪い人間だと決めつけないでくれ・・・」
母とカリメは、カルメンの泉を見つけた。そこには、カルメン・アマジャと書かれた碑があった。
バルセロナ最大のお祭り、メルセ祭でカリメと母のウィニーが踊る。カリメの衣装はパンツスーツだ。初めてパンツスーツで踊ったダンサー、といわれるカルメン・アマジャに倣っているのだろう。「母親はメロディー、父親はリズム」、踊りながらカリメは、自分に受継がれたものを見詰めている。その時、カリメは感じたに違いない「踊ることは生きること」なのだと。

近づくのが難しいとも言われるジプシー・コミュニティは、同じ街に住んでいても、文化的、社会的に隔絶している。エヴァ・ヴィラ監督はそうしたジプシーたちの信頼を得ることに成功して、彼らの文化の深部を捉え、フラメンコ舞踊の魅力を見事に描き出している。

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『ジプシー・フラメンコ』原題「BAJARI」
脚本・監督 エヴァ・ヴィラ
提供・配給 パンドラ+ピカフィルム 2012年スペイン映画 84分
日本語字幕、
8月9日(土)より 渋谷ユーロスペースにて公開