(荒部 好)

『ポルチシの唖娘』

アンア・パヴロワ主演
1916年無声映画
監督/フィリップス・スモーリー、ロイス・ウェバー

アンア・パヴロワが生涯に一度だけ主演した映画『ポルチシの唖娘』は、日本では1922年、パヴロワが来日したのを機に再上映された。しかしそれ以来アンナ・パブロワ主演映画として、スティール写真でしかみることができなかった。
今年の11月、「シネマの冒険 闇と音楽2013 ロイス・ウェーバー監督選集」の中の1作品として東京国立近代美術館フィルムセンターで上映された。つまりはおよそ90年ぶりの日本上映である。
この映画は予想していたよりも大作で、世界最高のバレリーナ、アンナ・パブロワの映画初主演として興行的にも大きな期待がもたれていたことが分かった。
上映にあたっては、ピアニストが映像に合わせてライブ演奏(柳下美恵)をおこなった。上映時間112分の無声映画を無音のまま通して観ることは、今日の観客としてはかなり苦しい。その点、タランテラや『白鳥の湖』のナポリの踊りなどで知られるナポリが舞台であるこの映画では、タンバリンを持ったダンスシーンなどが挿入されており、ピアノ演奏は大いに効果を上げていた。
 

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原作はフランス人作曲家D.F.E.オーベールの同名のオペラ(1828年初演)で、かなり大掛かりで激しい革命シーンもあった。
主人公はアンナ・パヴロワが演じた言葉が話せない娘のポルチシ。無声映画でありながら、言葉が話せないことがドラマの重要なファクターとなっている。
物語は、ナポリを舞台にスペインの圧政に立ち向かう革命の波瀾に咲いたジゼルを思い起こさせる恋を中心に展開する。王女と婚約中の貴族のアルフォンソは漁師の姿に身をやつして、圧制に不穏な動きを見せる庶民の様子を探りに街へ出る。そこで美しいが言葉が話せない娘と出逢い恋におち、一度は結ばれるが思い直して王女と結婚する。ポルチシの兄マサニエロは、重税に苦しむ民衆のリーダーである。スペイン提督側は妹のポルチシを捉え鞭打って兄の居場所を突き止めようとする。しかし、民衆は立ち上がり提督府を襲う。革命の擾乱の中でポルチシは窮地に陥った恋人アルフォンソと王女を逃がしてやる。やがて権力の頂点に立ったポルチシの兄マサニエロは、ポルチシを恋する親友の裏切りに合って狂ってしまう。乱れた革命軍の隙を突いて生き残った精鋭を率いたアルフォンソにより、総督府は奪回される。しかしアルフォンソは王女と結婚するしかない立場であることを知ったポルチシは、愛するアルフォンソの目の前て剣を胸に突き立てて死んでしまう…。
ドラマティックな悲劇であり、革命の成功とその裏側の悲劇、さらには革命の反動までしっかりと描いている。パヴロワは、鞭打たれたり幽閉されたり男に迫られたりする汚れ役にもかかわらず、大いに熱演している。ただ、音声のない無声映画の演技は、今日からみると必要以上に大袈裟でありちょっと違和感を感じてしまう。その点を配慮しながら観ると、理解しやすいのではないか。グリフィスの『国民の創生』にも比肩する大作だったそうである。