荒部 好

『淡島千景 女優というプリズム』

淡島千景
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淡島千景は宝塚から映画、テレビ、舞台で活躍したスターだが宝塚歌劇団に入団したのは、1941年。素晴らしい演技力を持った娘役として人気を博したのだが、日本は太平洋戦争へと突入していく・・・。まさに、新宿コマ劇場のファイナル・ミュージカルとして上演された『愛と青春の宝塚』の時代そのものを淡島は生きた。しかし、軍隊の慰問に明け暮れた時代をふりかえっても淡島の言葉には、暗さは微塵もなく、宝塚のスターそのままのような人柄が感じられる。
そして宝塚退団後は、全盛時代の日本映画のスターとして演技に開眼し、大いに活躍している。

この『淡島千景』という本は、日本映画の研究家たちが淡島千景や同時代のスター、淡路恵子、森繁久彌、そして淡島のマネジャー、垣内健二をインタビューした文章によって構成されている。
宝塚時代で興味深かったのは、淡島千景ファンだった手塚治虫の『リボンの騎士』のサファイアについての「ぼくね、淡島千景の大ファンなんです、淡島千景というのは大体女役なんだけれど、一度だけ男役をやったんです。それがとっても魅力的で、男になったり女になったりするのが面白いんじゃないかな、と(サファイアを)考えたんです」というコメント。ここから編著者のひとり、鷲谷花が淡島千景が演じた数少ない男役の舞台を探し出していくところなどは、当時の少女漫画の位置なども論じられていてたいへんおもしろかった。

映画スターになってからは、渋谷実、木下恵介、川島雄三、マキノ雅弘、大場秀雄、内田吐夢、小津安二郎、豊田四郎、成瀬巳喜男ほかの一流監督の出演映画の映像を見ながらインタビューして、時に小論が挿入されている。やはり、おもしろい映画を創る監督の話はどれもおもしろかった。
そのほかに、芸名に一字もらうほどの敬愛ぶりを示す、淡路恵子のコメントが楽しかった。

今はもう失われてしまったが、懐かしい映画の時代の雰囲気が堪能できた一冊だった。

『淡島千景 女優というプリズム』
淡島千景 坂尻昌平/志村三代子/御園生涼子/鶯谷 花 編著
青弓社刊
定価2,800円+税