荒部 好

『夢見るバレリーナ』

作・マルバーン/文・大野芳枝/訳・長澤和子
『夢みるバレリーナ』は、1942年にニューヨークで出版された「Dancing Star THE STORY OF Anna Pavlova」を翻訳したものである。著者はグラディス・マルバーンで、子役時代からショウビジネスの世界で生き、引退してから子供向けの本を何冊か執筆している。

 アンナ・パヴロワは世界的な大スターだったから、1931年1月23日にオランダのハーグで亡くなった後、多くの伝記などが出版された。よく知られている書籍では、32年に出版された英国の舞踊批評家のシリル・ボーモントの『アンナ・パヴロワ』、パヴロワのマネジャーで内縁の夫だったヴィクトール・ダンドレの『アンナ・パヴロワ』、早くも31年に出版されたパヴロワとは1910年以来の付き合いだったバレエ団の音楽担当ウルフォード・ハイデンの『パヴロワ』などがある。

 マルバーンは、生前のパヴロワと交流があったわけではないが、32年にはこの本を出版している。そのため写真は使えなかったのであろうか、表紙や見返しを可愛らしいイラストレーションで飾っている。

 マルバーンのパヴロワ・ストーリーは、8歳の時に母に連れられてマリインスキー劇場に『眠れる森の美女』を観に行ったシーンから始まっている。このエピソードは恐らく、パヴロワ自身が書いた短い自伝的な文章が元になっているのであろう。その他にもバレエ学校時代の皇帝が観劇した時の逸話、フォーキンが『瀕死の白鳥』を振付けるシーン、パヴロワの踊りに感激した観衆が彼女の馬車をホテルまで引いていった話、チェケッティやディアギレフやダンカンのこと、世界巡演で辛苦を味わったこと、ボストンのオペラ団を買い取ったこと、当時勃興しつつあった映画の世界と関ったことなどの諸々から、公演を前に無念の思いで亡くなった時のことまで、「バレエの美の伝道師」として地球を14周するくらいの距離を公演して回った、パヴロワの人生を手際よくまとめている。

 もう、これほどまでに使命感に燃え、神のように観客の尊崇を集めたバレリーナは二度と出現しないだろう。読後、そんな気分となった。


『夢見るバレリーナ』
作:マルバーン
文:大野芳枝
訳:長澤和子
ポプラ社文庫
¥630(本体価格¥600)